【完結】白昼夢

縁切り寺

私にはわからないことがあるのです。それは、私の気持ちです。私は彼の声が頭に響くようになって舞い上がっていました。
しかし、私自身は彼について何も知りません。それなのに声が聞こえるのを特別な事と感じて彼を運命の相手にしてしまったのです。
それでも私は諦めきれませんでした。この頃、母と京都へ行く予定を立てて節約に励みました。
もともとそんなに身体が丈夫ではない私にはそれはハードなことでした。
彼の声はこの頃には全く聞こえませんでした。
治療の成果なのか私には寂しいものでした。それでも時折声がしました。
これを精神科と言うもののやつでは幻聴とのたまうのです。
精いっぱい私は皮肉を込めてこう言うのでしょう。
京都には有名な縁切り寺があります。母は悪縁を断ち切ろう、そう言って縁切り寺を参拝しました。その日は小雨で縁切りの岩をくぐるには泥まみれにならなくてはいけません。
私は１００円ショップで買っておいたレインコートを母に差し出し、母は縁切りを無事に終えました。
京都まで来て縁を切ろうと言うのだから皆たいていは聞くに堪えないものなのでしょう。
私はその御札のような物が貼られた岩をしげしげと見つめていました。