22 / 32
第22話
しおりを挟む
翌日、宿で知り合った商人が北に向かうというので荷馬車に乗せてもらうことになった。
朝早くから出発し、いくつかあるうちそれほど荷物の載っていない荷馬車に乗り込み、揺られ続けること一日。
ちょうど街道の岐路にさしかかり、更に北へ行くクエルチア達と商人は別れた。
日が沈むまではもう少しあったので、野宿に適した場所を探しながらブナの生える森の中を進んだ。
「もうちょっと進むと例の霧のかかった森に出るんだが、どうにもきな臭い話を聞いた」
アカートが歩きながら口を開いた。
「と、言いますと」
「ここの領主が最近賊狩りをしんだが、生き残った残党が霧の森に逃げ込んでいるという話なんだ。もしかしたら、どこかで鉢合わせするかもしれねえな。ま、そういう時のためのお前達だ。上手くやってくれよ」
「頑張ります。旅に出てからずっと寝てばかりでしたからね」
クエルチアが答えると、アカートは満足そうに笑った。
しばらく進むと足下に霧がかかり始めた。
まだそれほどではないが、これから日が沈み空気が冷えると更に濃くなるだろう。
空も暗い雲が広がり、いつ雨が降ってもおかしくはない。
「おっと、霧が出てきたな。雲も怪しくなってきたし、今日はここら辺で野宿をするか」
薪を集めながら進むと、ちょっとした崖が抉られて庇のようになっている場所があった。
木の根がしっかりと張っていて崩れ落ちる心配もなさそうだ。
これなら雨が降っても濡れないだろう。
荷物を下ろし、集めた薪に落ち葉を乗せて火を点ける。
無事に薪に火が燃え移ったことを確認すると人心地がついた。
「そういえば、森に滞在する期間はどのくらいなんですか? 一週間くらいの食料は確保しましたけど」
「準備の段階では一週間と言ったが、今考えてるのは三日くらいだな。思ったより霧が濃い。この中を歩き回るのはそれくらいが限界だろう。成果を出すまで帰ってくるなとでも言われてれば別だが、元から期待されてねえんだから三日も探せば十分だ」
「そうですか」
答えながら、クエルチアは内心ほっとした。
ディヒトバイの調子が万全ではない以上、彼にかかる負担は少ないほうがいい。
スキュラを求めて森を彷徨う期間が予想より短いのは歓迎だった。
「お前はこの辺りについて何か知ってることはあるか?」
アカートがディヒトバイに尋ねる。
ディヒトバイが乗り気でないことは知っているが、それ以上に確かな情報がほしいのだろう。
何かを逡巡するような少しの沈黙のあとに口を開きかけた瞬間、何かに気付いたディヒトバイがはっとしたように顔を上げ、ある方向を見る。
「やれっ!」
男の声がし、霧に紛れて賊が襲いかかる。
ディヒトバイは跳ねるように立ち上がると魔鎧を纏って声を上げた。
「そいつを連れて逃げろ! 北に行くと川がある、上流に向かえ!」
「ディヒトさんは……」
同じく魔鎧を纏い、アカートを守るように得物を構えたクエルチアが周囲の様子を窺いながら問う。
「俺が止める、早く行け!」
クエルチアが言葉に迷う時間もなく、ディヒトバイは賊に斬りかかった。
「……また会いましょう!」
それを見て覚悟を決めたクエルチアはアカートを担ぎ上げ、北に向けて走った。
背後の剣戟の音が徐々に遠ざかる。
賊の人数もわからないままアカートを守って戦うのは圧倒的に不利だ。
霧で視界もなく、クエルチアの戦斧は森の中では取り回しが悪い。
アカートを守り通すことがクエルチア達の目的ならば、一旦別れてでも態勢を立て直すことが重要だ。
魔鎧を持つディヒトバイなら賊が何人襲いかかろうと後れを取らないだろうというのが唯一の救いだ。
しかし、それとて不安を完全に拭い去るとは言えなかった。
朝早くから出発し、いくつかあるうちそれほど荷物の載っていない荷馬車に乗り込み、揺られ続けること一日。
ちょうど街道の岐路にさしかかり、更に北へ行くクエルチア達と商人は別れた。
日が沈むまではもう少しあったので、野宿に適した場所を探しながらブナの生える森の中を進んだ。
「もうちょっと進むと例の霧のかかった森に出るんだが、どうにもきな臭い話を聞いた」
アカートが歩きながら口を開いた。
「と、言いますと」
「ここの領主が最近賊狩りをしんだが、生き残った残党が霧の森に逃げ込んでいるという話なんだ。もしかしたら、どこかで鉢合わせするかもしれねえな。ま、そういう時のためのお前達だ。上手くやってくれよ」
「頑張ります。旅に出てからずっと寝てばかりでしたからね」
クエルチアが答えると、アカートは満足そうに笑った。
しばらく進むと足下に霧がかかり始めた。
まだそれほどではないが、これから日が沈み空気が冷えると更に濃くなるだろう。
空も暗い雲が広がり、いつ雨が降ってもおかしくはない。
「おっと、霧が出てきたな。雲も怪しくなってきたし、今日はここら辺で野宿をするか」
薪を集めながら進むと、ちょっとした崖が抉られて庇のようになっている場所があった。
木の根がしっかりと張っていて崩れ落ちる心配もなさそうだ。
これなら雨が降っても濡れないだろう。
荷物を下ろし、集めた薪に落ち葉を乗せて火を点ける。
無事に薪に火が燃え移ったことを確認すると人心地がついた。
「そういえば、森に滞在する期間はどのくらいなんですか? 一週間くらいの食料は確保しましたけど」
「準備の段階では一週間と言ったが、今考えてるのは三日くらいだな。思ったより霧が濃い。この中を歩き回るのはそれくらいが限界だろう。成果を出すまで帰ってくるなとでも言われてれば別だが、元から期待されてねえんだから三日も探せば十分だ」
「そうですか」
答えながら、クエルチアは内心ほっとした。
ディヒトバイの調子が万全ではない以上、彼にかかる負担は少ないほうがいい。
スキュラを求めて森を彷徨う期間が予想より短いのは歓迎だった。
「お前はこの辺りについて何か知ってることはあるか?」
アカートがディヒトバイに尋ねる。
ディヒトバイが乗り気でないことは知っているが、それ以上に確かな情報がほしいのだろう。
何かを逡巡するような少しの沈黙のあとに口を開きかけた瞬間、何かに気付いたディヒトバイがはっとしたように顔を上げ、ある方向を見る。
「やれっ!」
男の声がし、霧に紛れて賊が襲いかかる。
ディヒトバイは跳ねるように立ち上がると魔鎧を纏って声を上げた。
「そいつを連れて逃げろ! 北に行くと川がある、上流に向かえ!」
「ディヒトさんは……」
同じく魔鎧を纏い、アカートを守るように得物を構えたクエルチアが周囲の様子を窺いながら問う。
「俺が止める、早く行け!」
クエルチアが言葉に迷う時間もなく、ディヒトバイは賊に斬りかかった。
「……また会いましょう!」
それを見て覚悟を決めたクエルチアはアカートを担ぎ上げ、北に向けて走った。
背後の剣戟の音が徐々に遠ざかる。
賊の人数もわからないままアカートを守って戦うのは圧倒的に不利だ。
霧で視界もなく、クエルチアの戦斧は森の中では取り回しが悪い。
アカートを守り通すことがクエルチア達の目的ならば、一旦別れてでも態勢を立て直すことが重要だ。
魔鎧を持つディヒトバイなら賊が何人襲いかかろうと後れを取らないだろうというのが唯一の救いだ。
しかし、それとて不安を完全に拭い去るとは言えなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
90
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる