異世界転生したら人類最強英雄のセックス係になって世界救いました⁉

藤間背骨

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第二十話

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「大佐、今いいですか」
「何だい、兼景君」

 兼景はアカートとイングヴァルが話し終わった隙を見てイングヴァルに話しかけた。
 床に胡坐をかいていたイングヴァルは兼景のほうを向く。
 アカートはタブレット端末と向き合いながらぶつぶつ独り言を言っている。

「……相談というか、質問というか」

 言いながら兼景もイングヴァルの前に座る。

「どうした? 君にしては珍しく歯切れが悪いな」
「俺にもわからないことを聞こうとしているからです」

 観念したように兼景は溜息をして俯いた。

「俺と大佐の違いは何だろうと思っていまして」
「違い、とは?」
「大佐は一人でA級魔族を倒せます。でも、俺はまだ倒せない。何が違うんだろう、と」

 兼景の問いにイングヴァルはふむ、と頷いた。

「フォカロルやアカートが言うには、思念の力は本能に近いほど強さが増すという話だね。君は何のために戦っているんだい?」
「俺は……、何だろうな」

 問われて兼景は困ったように首を振った。

「一宿一飯の恩義、というには大袈裟ですけど。この世界に来て、いいもん食わせてもらって、服も住む場所ももらって、それで満足しちまってるんです。俺の大事なものは、全部故郷に置いてきちまったんで」
「大事なものって何か、聞いていいかい?」
「親に嫁、子供です」
「こ、子供⁉ 君、お父さんだったのかい? 確か二十歳だったよね?」
「武家の跡取りが二十になっても子供の一人もいないんじゃ困りますよ」
「そういえば、君はサムライ……。こちらで言う貴族階級の生まれだったね。血を繋ぐのは家のためか」

 イングヴァルの言葉に兼景は頷いた。

「俺のいたところは学問もまだまだで、例えば手を洗うだけで救える命が沢山あった。子供はすぐに死んじまうし、五十まで生きれば大往生だった。いつ自分が外れくじを引いて死ぬか、みたいな世界だった」

 兼景はそこで言葉を区切る。

「俺があっちにいたときは家のために働きました。少しでも手柄を上げて、皆がいい暮らしができるようにって我武者羅だった。でも戦で死んでこっちに来て、俺には望みってもんがなくなっちまったんです。軍に入れば衣食住は困らないし、自分が生きていくだけならどうとでもなる。いずれは死ぬんだから悪魔に滅ぼされても同じって思うだけの俺がいる」
「君のいた世界は過酷だったんだね」
「こっちで言うなら野蛮な世界でしたよ。悪い場所じゃなかったが」
「……僕はね、家族を守るために戦っている。その想いが僕を強くしてくれているんだと思う」
「大佐にも、ご家族が……?」
「厳密に言うと、これから生まれる家族だ」

 言ってイングヴァルはずらりと並んだ人工子宮を見つめる。

「僕は許嫁と結婚した。でも、悪魔の侵攻で彼女は亡くなってしまったんだ」

 イングヴァルは兼景にそう告げた。

「仕事にかまけてばかりの僕に文句ひとつ言うことなく、彼女は僕を愛してくれた。人を助けることが何より好きで、カウンセラーの資格を持ってた。僕の仕事の悩みを聞いてくれたし、自分でボランティア団体を立ち上げていた。彼女は悪魔の被害を受けた場所に行って救援活動をしていた。でも、また悪魔が来て死んでしまった。遺体も残らなかった」
「それは……。さぞお辛かったでしょう」
「ありがとう。兼景君」

 イングヴァルは頷く。

「なんで彼女を助けてあげられなかったんだろうって何回も思った。でも、僕だって特別大隊長の立場だからね。そう落ち込んでもばかりいられないさ。……それでね。彼女の遺品を整理していたら、ある書類を見つけたんだ。卵子バンクの」
「卵子バンク……? 何ですか、それって」
「君は初めて聞くだろうね。精子が男の子種なら、卵子は女の子種だよ。この国では一定年齢に達した女性とΩは卵子を卵子バンクに預けることになっている。だから、僕は彼女の卵子を使って子供を作りたかった。ここにあるのは人工子宮。機械で子供を育てて出産するんだ。今はまだ豚の生殖に成功しただけで、人間はこれからだけどね」
「こんな機械で、子供が産めるんですか……」
「ああ。僕はアカートの人工子宮の研究の援助をしている。彼女との子供を作るために。でもね、そうは問屋が卸さなかった」
「どうして、ですか」
「αはα同士で婚姻関係を結び、その縁故によって互助をする。そういう習慣で階級が固定化されているんだ。それで、妻を失くして子供もいない僕を一人にさせておくと思うかい? すぐに再婚相手を挙げられたよ」
「俺たちみたいだ」
「だろう? 血を繋ぐなら何だっていいのさ」

 イングヴァルは苦笑した。

「再婚を迫られても僕は結婚するつもりはない。僕は彼女の卵子と、この人工子宮で僕と彼女の子供を作りたいんだ。だから、悪魔なんかに負けるわけにはいかない」

 イングヴァルの言葉に兼景は溜息をついた。

「大佐はそんなものを背負って戦ってるんですか。だったら、俺が敵う道理はないですね」
「君は何が不満なんだい?」
「俺は……、強くなれるなら何でもいい」
「強さなんてものは手段だよ。強くなったその先に何を求めるのか、じゃないのかな」
「強さの先に、何を求めるか……」

 兼景はイングヴァルの言葉を噛みしめるように繰り返した。
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