異世界転生したら人類最強英雄のセックス係になって世界救いました⁉

藤間背骨

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第三話

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 金髪のオペレーターに着いてこい、と言われて以来ずっと無言だった。
 壁も床も天井もどこも真っ白で無機質で、まるで大きな病院のようだ。
 ライフル銃を持った制服の隊員達に連れられ、エレベーターでひたすら下に進んで、とある部屋に入った。
 変な部屋だった。
 まるで漫画にあるようなガラス張りの研究室、といったところだろうか。
 机何個分もあるような操作パネル、壁にはガラスがついており、奥の部屋を見渡せる。
 操作パネルの手前には見学席のような椅子と机のセットがある。
 奥の部屋には手術台のようなものがあった。

 「座れ」

 隊員の一人が見学席を指して座るよう命令した。逆らう理由もないので大人しく座る。
 それでやっとひと心地ついた気がした。

「ご苦労さん。下がっていいぞ」

 金髪の男はそう言って隊員達を追い払った。
 残ったのは俺、制服の男、金髪の男である。
 制服の男は焦げ茶の髪に金色の鋭い三白眼、右目に眼帯、口と顎に髭を生やしている。腰には刀。
 金髪の男は前髪を左右に分けていて、余った髪を雑に後ろで括っている。こちらも顎髭を生やしていた。
 金髪の男は全身を覆う黒いウェットスーツで、椅子にかけられていた白衣を羽織った。
 二人とも身長は百八十センチ程度。三十代ほどだろうか。

「あの、何なんですか……、ここ……」

 金髪の男にそう尋ねる。

「ちょっと待った、こっちが先な」

 そう言って二人は壁際に移って小声で何やら話していた。

「はぁ!? い、いいのかよ、お前は……」

 などと金髪の男が戸惑っているのが聞こえる。
 その間に部屋を眺める。
 ガラスの向こうのものをモニターする部屋といった感じで、操作パネルには素人目には何をするのかわからないほどのボタンなどが所狭しと並んでいる。
 奥の部屋、手術台の向こうには大きな人が入れそうなほどのガラス玉がある。何に使うのだろう。
 話が終わったのか二人はこちらに歩いてきて、自分の向かいの椅子に腰掛けた。

「やあやあ、俺はアカート。こっちはディヒトバイ。それで、あんたは?」

 金髪の男――アカートはそう名乗った。制服の男がディヒトバイという名前らしい。
 こちらの反応を窺うようにアカートと名乗った男は問いかけた。

「鹿島、千樫……です」
「カシマ・チカシ……? 今度の転生者はこんな名前なのか。どっちがファーストネームだ?」
「千樫が名前、です。鹿島は苗字……」
「鹿島、千樫……」

 ディヒトバイは噛みしめるように俺の名を呼んだ。

「あの、転生者って……」

 転生って、最近流行りの異世界転生ってことか?
 確かに、俺は目が覚める前は終点駅の山奥にいたのだ。
 それでトラックに撥ねられた。
 気付いたら無傷であの岩山だ。
 異世界転生と言われれば起こっていることの説明はつく。そんなことが実際に起こっている馬鹿らしさを除けば、だが。

「ここがどんな施設か知らない、ディヒトのことを知らない、ついでに言うとあんな怪物も何なのか知らないだろ、アンタ?」
「は、はい……」

 アカートの言葉に頷く。

「何の装備もなしに魔物の巣窟にいるんじゃ、自殺志願者か、そうじゃなければ転生者だ。お前は世を儚んで死にたかったか?」
「い、いいえ……。気が付いたらあの場所にいました」
「運がよかったな。ディヒトのおかげで生き残れた」

 それはそうだ。この人がいたから俺は助かった。

「何から説明すればいいもんかな。アンタの世界は何て言うんだ? ここはカナロアという天体、アンブリエル大陸、ドーム型国家ネロス公国の首都チタニア、対悪魔統合軍本部の研究棟だ」
「さっぱりですね……」
「そりゃそうだろう、全くの別世界なんだからな」

 言うとアカートは呆れるようにため息をついた。

「一年前までこの世界は普通だった。科学的に発達しており、怪物なんていなかった。それが突然魔王と呼ばれる存在によって攻撃を受けた。魔王は馬鹿げたことに空想上のバケモノを引き連れてこの世界を滅茶苦茶にしちまいやがった。魔王が連れているバケモノを、俺たちは悪魔ないし魔族と呼んでいる」
「じゃあ、さっきのが……」
「あれは魔族だ、チカシ君。ちっこいのがC級、さっきディヒトが倒したデカいのがA級」

 言ってアカートは頷いた。

「今わかってるのは、その魔王が召喚した魔族の親玉、七機の悪魔をどうにかしねえとこの世界が滅びるってこと。まあ、残りは三機なわけだが」
「滅びる……って……」
「こんな世界に転生しちまって可哀想だよな、お前も」
「そうだ、何で違う世界から来たってわかるんですか……」
「そりゃ魔王は違う世界から侵攻してきたからだよ。それ以来、この世界の境界線があやふやになったみたいでな。SF風に言うと、時空乱流ってのが起こるようになった。それに乗って違う世界の人間が漂ってくる。共通してるのは、誰もが元いた世界で死んだ瞬間こっちに来てるってことだ。どうだ、お前の最後の記憶は?」
「それは、トラックに撥ねられて……」

 やはり自分はトラックに撥ねられて死んだのだ。なぜかこうして生きているけれど。
 でも、元の世界の居心地も悪かったし、どうしても戻りたいかと言われると悩んでしまう。
 アカートは言い出しにくいことを切り出すために咳ばらいをした。

「それで、だ。チカシ、お前はαだよな? そのガタイからすると」
「α……って何ですか?」
「何ですか……って、性別の話をしてんだよ」
「性別? 男と女じゃないんですか?」

 俺が問うとアカートは軽く首をひねった。

「まさか、お前のとこは男女しか性別がねえのか?」
「男女以外に性別があるんですか?」
「はぁ、なるほどなぁ。こっちじゃ話が違うんだよ」

 言ってアカートは頭をかいた。

「この世界には六つの性別がある」
「六つ、も……?」

 それは最近流行りの性自認によるあれこれだったりするのだろうか。

「まず大きく分けて男と女。そこから更にα、β、Ωと区分される」

 言ってアカートは指を三本立てた。

「アルファ、ベータ……?」
「簡単に言うと、男女問わずαは体格、身体能力、頭脳に優れ、Ωを孕ませる能力を持ち、Ωは女でも男でも妊娠、出産することができる」
「男の人が、妊娠……?」

 この世界のΩの男は子宮があるのだろうか。

「この性別ってのが大事なんだ。お前……まあ、後で検査するが、この馬鹿でかさはαと見ていいだろうな」

 アカートは俺を観察するようにじろじろ見て言ってから、今まで黙っていたディヒトバイの様子を窺うように横目で見た。

「本当にいいのかよ」

 アカートの問いにディヒトバイは頷いた。

「こいつでいい」
「どうなっても知らねえぞ」
「今更だ」

 それだけ告げてディヒトバイは黙った。

「それで、だ。チカシ。協力しないか」

 アカートは言った。

「協力、というと……?」
「お前はこの世界に来たばっかで右も左もわからねえし、生活も何もできねえだろ。それで俺たちはお前に力を貸してもらいてえ」
「だから、それは具体的にどういう……」

 遠回しなアカートの言葉に再度質問する。

「お前、さっきディヒトを襲ったろ」
「な、なっ……!」

 認めたくはないが認めるしかできない。
 だって目の前に被害者がいるのだから。

「それは別にいいっていうか、しょうがねえことなんだ。ここから話が複雑になってくるが、ちゃんとついて来いよ」
「は、はぁ……」

 強姦事件を脇に置かれて心が落ち着いたような、強姦事件を脇に置かなくてはならないほどの事態とは一体何なのだろう、と嫌な予感がした。

「さっき言ったろ、この世界には魔族の親玉の悪魔三機が残ってる。こいつ、ディヒトは一人で悪魔を殺せるほどの力を持つ優れたα、端的に言えば人類最強の英雄だった。さっきも言ったよな、αは身体能力に優れると」
「は、はい」
「だが、八か月前。ディヒトは敵の悪魔の手に落ちた。撤退戦で殿を務めたところをやられたんだ」

 言ってアカートは隣のディヒトバイのほうを気にかけた。

「いい。続けてくれ」

 そう返したディヒトバイの声はわずかに震えていた。

「敵の悪魔、仮称アスモダイはディヒトを捕えて拷問し、声を奪い、体をΩに作り変えた。Ωというのは何より発情期ヒートというのが厄介なんだ」
「発情期……?」
「通常のΩは一か月に一度、一週間程度発情フェロモンをばらまいて交尾を促す。それに釣られてαやβはΩと子供を作る。そうやってこの世界の人間は増え続けてきたわけだ。だが、発情期のフェロモンは強すぎてな。近くにαやβがいると理性が吹っ飛んじまう。特にαはな。さっきのお前みてえに止められなくなる。だからΩの人間は発情期の間は外に出ないか、発情期抑制剤を飲んでフェロモンを抑える」
「ちょっと待ってください、通常の、という前置きは何なんです」
「ディヒトは常に発情期なんだ。そういう体にされちまったんだよ。しかも普通の発情期抑制剤は効かない。ディヒトの発情期を抑えられるのは精液だけ。しかも食べ物も消化できねえ、精液だけがディヒトの栄養なんだ」
「精液だけ……って」
「今のディヒトはαの誰かに精液をもらわねえといけない体なんだよ」

 アカートは苛立たしげに言った。

「今は家畜の繁殖用精液をカプセルにして経口摂取してる。一般のβレベルにスペックは落ちるが生活はできる、発情フェロモンも抑制できる。だが……」
「お前に襲われてから随分調子がいい。やっぱり人間の、αのじゃねえと駄目なんだな」

 ディヒトバイは冷たく言い捨てた。

「つ、つまり、俺と、このディヒトさんが……」

 ディヒトバイに精液を補給する、つまり、寝るということか。
 そこまで言われれば誰だって察する。
 自分の言葉に二人は頷いた。

「お前だって街がズタボロになってるのを見たろ。悪魔との戦いで住むところを失った人間はこのチタニアに集まってる。街はスラム同然だ。そこで生活を保障しようって言うんだ。悪くねえ話だろ」
「い、いや、でも……。いいんですか、俺なんかで……」

 そう言いながらディヒトバイに視線で問う。

「どこの馬の骨とも知らねえ奴よりマシだ」

 それだけディヒトバイは返した。しかし、その言葉は筋が通っていない。

「おい、それを言ったらこいつが一番得体が知れねえだろうが」

 ディヒトバイの言葉にアカートが焦ったように言い返した。

「それでいいって言ってんだろ。千樫、お前は俺よりでかい。力もある。そういう奴だったら多少は気が楽だ」

 どうやら、ディヒトバイより二十センチほど高い自分の身長と体格を認められてのことらしい。
 確かに、同じ境遇で自分より弱い人間に抱かれる、というのはみじめさを加速させるのかもしれないな、と思った。
 申し出について考えた。
 俺はこの世界で一人で生きていく力はない。
 それを、ディヒトバイと体を重ねるだけで衣食住の保障がされる。
 重ねるだけ、というのは言いすぎだが。
 でも、さっきの岩山でのことが初体験だったのだ。
  ただ行き会っただけの、好きでもない相手と寝ることができるのか?
 改めてディヒトバイを見る。
 まるで侍のような、男が憧れる理想的な男性、といった雰囲気だ。
 体格でこちらが優れていようと、風格、実績共にディヒトバイのほうが優れたものを持っている。
 それを、ただの利害関係で関係を持つことができるのか。

「何を悩んでんだ。俺は常に発情期なんだ。好みじゃなくたって抱けるだろ、さっきみてえに」

 それを言われるとそうなのだが。

「悪魔を倒せるのはディヒトしかいねえんだ。人助けと思って、な?」

 アカートが念を押す。
 この二人は、こんな俺を必要としてくれているのだ。
 何もできないこの俺を。
 そしてそれは、この世界を救うのに必要なことらしい。
 俺は堪忍して頷いた。 

「お、俺でよければ……。他にできることもなさそうですし……」
「話は決まったな。じゃあディヒト、これからデータ取りだ。着替えて向こうに行ってくれ」
「わかった」

 言うとディヒトバイは立ち上がり、入口とは違うドアに入っていった。
 見ればガラスの奥には白い服を着た看護師のような人間が何人か待機している。
 やがて入院するときの患者着を着たディヒトバイがガラスの向こうに現れ、寝椅子に横たわった。
 体のあちこちに様々なセンサーが繋げられ、そのデータが操作パネル上で空中に投影された。漫画などでよく見る光景だが、元いた世界ではまだ実現していない。どうやらここの技術水準は発達していると言えるだろう。

「はぁ~。確かに確かに。全盛期以上に体が活性化してんな。人間とは思えん」

 言ってアカートはニヤニヤと笑った。 

「人間とは思えないって、失礼じゃないですか」
「おっ、早速情が移ったか? いいことだ」
「そういう言い方、よくないと思います」
「何言ってんだよ、ディヒトが人間離れすればするほど悪魔を倒しやすくなるんだぞ。尊敬の念だよ。それに、憐みでも情が移れば抱きやすくなるってもんだろ」

 俺はもう口をききたくない、と黙った。

「来い。話はまだある」

 アカートは立ち上がり、操作パネルの前に陣取った。
 嫌々ながらもアカートの横に立つ。

「ディヒトがΩになって、精液がないと生きられなくなったのは機密事項だ。一部の人間しか知らない。お前も絶対に口外するな。そんな体にされたと知られたら、何言われるか、どう扱われるかわからねえだろ」
「Ωっていうのはそんなに悪いんですか……?」
「男のΩは特に、な。この世界の序列は男女のα、β、女のΩ、男のΩだ。男のΩは子宮が発達してねえから妊娠すると言っても大体は流産、よくて未熟児だ。発情期で他人に迷惑をかける上に子作りもまともにできないんじゃあ、扱いもそれなりになるってもんだよ。俺はそういうのよくねえと思うんだがな」

 そういったΩへの差別意識がある上に、他人の精液を摂取することでしか生きられない。
 そんなことになったら下卑た揶揄が飛び交うのは想像に難くない。
 そこで操作パネルのモニターに電子音を響かせて通知が入った。

「これはこれは……」

 アカートはその通知内容に目を通すと、通話ボタンを押してガラスの向こうに話しかけた。

「ディヒト、いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
『……悪い知らせから頼む』
「今回の脱走騒ぎで一週間の謹慎処分だ」
『いい知らせは』
「A級魔族を倒した件で取り消しになった」
『……そうか』

 それだけ言ってディヒトバイは黙った。無駄なお喋りはしない、寡黙な男であるらしい。

「そういえば、ディヒトさんは喋れるんですか? さっき声が奪われたって言ってましたけど……」
「ああ、その説明がまだだったな」

 言ってアカートはこちらに向き直る。

「ディヒトは拷問されてる間、声が嗄れるまで叫び続けた。ディヒトは首輪をつけてたろ。あれは声帯マイクだ。ディヒトの脳波を読み取り、声帯の微弱な振動を増幅させて声を出してる。が、それとは別にもう一つの役割がある」
「もう一つの役割、ですか?」
「そうだ。俺たちには運命の相手と番う、という本能がある。性交しながらΩのうなじに噛みつくと番が成立する。そうするとΩの発情期は収まり、運命の番以外との性交も体が拒否するようになる。首輪はうなじに噛みつかれるのを防ぐ役割もあるんだ」

 その説明を受けて俺は納得がいった。

「ああ、だから首筋に噛みつきたくなったのか……」

 その通りとアカートは頷いた。

「それは……嫌ですよね、勝手に襲ってきた相手と運命の番になるなんて……」
「そうだろ。あの首輪はディヒトに残された最後の自由なんだ」

 そう言ってガラスの向こう側のディヒトバイを見やった。
 アカートは軽薄な男だが、彼は彼なりに真摯にディヒトバイに接しているらしい。
 体をΩにされて身体機能が低下、声を失くし、好きなように飲食することさえ奪われた。
 確かに誰と番うのかはディヒトバイ自身が決めるのが、最後の自由であると言えるだろう。

「……脱走したって言いました?」

 先程聞こえたディヒトバイの低い声を頭の中で再生していると、アカートが脱走騒ぎと言っていたのを思い出した。

「ディヒトのことを誰にも知られるわけにはいかねえんでな。この軍本部から外に出ることは禁じられている。しかし、ディヒトは演習に紛れて外に出たってわけだ」
「…………」

 言う言葉がない。

「そんな、どうしてまた魔族や悪魔に立ち向かっていけるんです……」

 悪魔に体を散々弄ばれたというのに、なぜ立ち上がれるんだ、あの人は。

「本人に聞けよ。少なくとも俺達は聞いてねえ。それが俺のやるべきことだ、としか言わねえんだ」

 それを聞いたとき、鳥肌が立った。
 自分には理解不能だと思ったからだ。
 少なくとも、同じ目に遭わされたら自分ならまた魔族、悪魔と戦える気がしない。
 それを、でたらめな使命感だけで人類を助けようなどと。
 自分にはわからない。

「チカシ、お前も検査だ。血液、身体能力、諸々。その間に部屋の手配をしておく」

 発音を直してアカートは言った。

「ちゅ、注射するんですか?」
「チクっとするだけだろ、いい年した大人が何を怖がってんだ」
「大人……って、まだ十九歳です」

 俺の言葉を聞いたアカートはがばっとこちらに振り向いた。

「十九歳⁉ そのデカさで⁉」
「は、はい……。いつも驚かれるんですけど……」
「息子でもおかしくねえ歳じゃねえか……」

 言ってアカートは手で口を覆う。

「お二人は何歳なんですか?」
「ディヒトは三十六。俺は三十七。ちなみに俺の誕生日は四月九日。プレゼント用意しとけよ」

 言ってアカートは笑った。
 その言い草に何か安心する。
 冗談を言える関係、それは友好の証だ。敵意がないことの現れ。
 協力している間は問題ないように思えた。

「ところで、俺はこれからどうすれば……」

 言うとアカートは空中に浮かび上がっているディスプレイの端を見やった。

「もう午前四時か、いい時間だな。この階に仮眠室がある。この部屋を出てずーっと右の奥の部屋だ。寝てる間に色々用意しといてやる。起きたらまたここに来い」
「わかりました。じゃあ、失礼します」

 そう言って俺は部屋を出た。
 右に曲がって、真っ白なセットのような廊下を歩く。
 廊下には途中いくつかソファが設けられていた。
 廊下の突き当りに行くと部屋の前はホールになっており、休憩スペースなのかテーブルセットが何個も置かれている。飲み物だけでなく軽食の自販機も置かれていた。今は誰もいない。
 仮眠室、と部屋の入り口に書かれている。
 アルファベットだが知らない単語だ。何語なのだろう。
 しかし、さっきのように会話はできるし、書かれたものは読める。それだけ出来れば十分だ。 
 中に入ると、広めのカプセルホテルのようなベッドがあった。
 何個かは扉が閉められており、使用中のようだ。
 入口には未使用の毛布と使用済みの毛布を入れる籠がある。
 未使用の毛布が入った籠から一枚手に取って歩き出す。
 部屋の入り口近くを使うのも落ち着かないので、奥のほうの空いているところに体を滑り込ませた。
 二メートルを超える俺が寝転がっても窮屈ではない。
 この世界では大して珍しくもない身長なのだろうか。
 枕元のデジタル時計は午前四時十三分を表示している。
 毛布をかけて目を閉じると、緊張が解れたのかすぐに睡魔が襲ってきた。
 水に沈むように、意識を手放す。
 その最中、何か大事なことを忘れているような気がした。
 誰かに、助けを求められていたような。
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