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第29話
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「雪はいい。全てを埋め尽くし、その重みで何もかも踏み潰し、凍えさせる。平等に、加減なく。儂の暴力と同じよ」
城から離れた山の中、自分のものとなった相馬城を眺めながら、勝重は隣にいる角解に問いかけた。
昼だというのに雲のかかった空は薄暗く、陰鬱な気分にさせる。
周囲には誰もおらず、勝重と角解の二人だけだった。
吐く息すら白く染まり、鼻先がわずかに赤くなっていた。
勝重の言葉に角解は何も返さなかった。
「どうだ角解、検地のほうは貴様に任せきりであったが」
「順調に進んでおります。あと半月もすれば終わるかと。雪が降らねばの話ですが」
角解の言葉に勝重は感心したように片眉を上げた。
「ふむ。貴様はこういう地味な仕事が得意だの。戦も調略で終わらせおる」
「刀や槍はいくら言っても言うことを聞きませぬが、人には言葉が通じます故」
角解の言葉に勝重は声を上げて笑った。
「人なら何でも言うことを聞かせられるとでも言いたげだな。事実、そうなのかもしれぬが」
言うと勝重は角解のほうに向き直った。
「儂はずっと気になっておった。それほどの男が何故儂の下におるのだ。仕えた主の首を刎ねる気概があるなら何でもできるであろう」
角解はかつての主を斬ったことを蒸し返されるのが嫌なのか、勝重の視線から逃れるように目を伏せた。
「……私にはどうしても成さねばならぬことがあります。そのために鶴木におります」
「なんだ、その成さねばならぬこと、とは」
勝重はそう言いかけ、口を押さえてげほげほとむせこんだ。
なかなか咳は止まらず、角解が声をかけようとしたところで、口を押さえた勝重の指の間から血が滴った。
「殿……! 今すぐ医者を……」
角解が勝重に近寄ろうとしたところで、勝重はその必要はないと静止した。
「待て角解。よいのだ」
「ですが……!」
「半年も前からこうだ。もう出来ることはないと言われておる。明日にでも死ぬかもわからん」
その言葉に角解は目を見開き、隠せない驚愕に震えた。
「で、では、先日の風邪というのも……」
角解の言葉に勝重は頷いた。
「死ぬ前に鹿衛の戦いぶりを見ておきたくてな。貴様は鹿衛を使わずに戦を終わらせおったが」
「そうと聞いておれば……」
「病を隠していたのは儂だ。望みが叶わなかったとて誰も恨まぬ」
勝重の言葉に角解はわずかに安堵した。
「他に殿の病を知っている者はいるのですか」
「護国寺には全て話してある。ここに来る前に遺書も預けた。護国寺に国を譲るとな。儂が何も考えずに大きくした鶴木の国だが、護国寺なら上手く治めよう」
護国寺なら、と角解も頷いた。
勝重が城を留守にする際、護国寺に全てを任せるほど信頼しているのである。
武名も人格も優れた男で、家臣も何かあった際はまず護国寺に意見を聞くほどだ。
「儂のことなどよい。貴様の話をしようではないか」
言って勝重は角解を見つめた。
蛇のようなその目に見据えられ、恐れに角解は身動きが取れなくなる。
「角解、貴様はでかい何かをしでかす男だと思っていたが、それを知らぬうちに死ぬのは勿体ない。貴様、何をしようとしている」
角解は観念したように目を閉じ、俯いた。
「殿、私は……」
城から離れた山の中、自分のものとなった相馬城を眺めながら、勝重は隣にいる角解に問いかけた。
昼だというのに雲のかかった空は薄暗く、陰鬱な気分にさせる。
周囲には誰もおらず、勝重と角解の二人だけだった。
吐く息すら白く染まり、鼻先がわずかに赤くなっていた。
勝重の言葉に角解は何も返さなかった。
「どうだ角解、検地のほうは貴様に任せきりであったが」
「順調に進んでおります。あと半月もすれば終わるかと。雪が降らねばの話ですが」
角解の言葉に勝重は感心したように片眉を上げた。
「ふむ。貴様はこういう地味な仕事が得意だの。戦も調略で終わらせおる」
「刀や槍はいくら言っても言うことを聞きませぬが、人には言葉が通じます故」
角解の言葉に勝重は声を上げて笑った。
「人なら何でも言うことを聞かせられるとでも言いたげだな。事実、そうなのかもしれぬが」
言うと勝重は角解のほうに向き直った。
「儂はずっと気になっておった。それほどの男が何故儂の下におるのだ。仕えた主の首を刎ねる気概があるなら何でもできるであろう」
角解はかつての主を斬ったことを蒸し返されるのが嫌なのか、勝重の視線から逃れるように目を伏せた。
「……私にはどうしても成さねばならぬことがあります。そのために鶴木におります」
「なんだ、その成さねばならぬこと、とは」
勝重はそう言いかけ、口を押さえてげほげほとむせこんだ。
なかなか咳は止まらず、角解が声をかけようとしたところで、口を押さえた勝重の指の間から血が滴った。
「殿……! 今すぐ医者を……」
角解が勝重に近寄ろうとしたところで、勝重はその必要はないと静止した。
「待て角解。よいのだ」
「ですが……!」
「半年も前からこうだ。もう出来ることはないと言われておる。明日にでも死ぬかもわからん」
その言葉に角解は目を見開き、隠せない驚愕に震えた。
「で、では、先日の風邪というのも……」
角解の言葉に勝重は頷いた。
「死ぬ前に鹿衛の戦いぶりを見ておきたくてな。貴様は鹿衛を使わずに戦を終わらせおったが」
「そうと聞いておれば……」
「病を隠していたのは儂だ。望みが叶わなかったとて誰も恨まぬ」
勝重の言葉に角解はわずかに安堵した。
「他に殿の病を知っている者はいるのですか」
「護国寺には全て話してある。ここに来る前に遺書も預けた。護国寺に国を譲るとな。儂が何も考えずに大きくした鶴木の国だが、護国寺なら上手く治めよう」
護国寺なら、と角解も頷いた。
勝重が城を留守にする際、護国寺に全てを任せるほど信頼しているのである。
武名も人格も優れた男で、家臣も何かあった際はまず護国寺に意見を聞くほどだ。
「儂のことなどよい。貴様の話をしようではないか」
言って勝重は角解を見つめた。
蛇のようなその目に見据えられ、恐れに角解は身動きが取れなくなる。
「角解、貴様はでかい何かをしでかす男だと思っていたが、それを知らぬうちに死ぬのは勿体ない。貴様、何をしようとしている」
角解は観念したように目を閉じ、俯いた。
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