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第五話
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イグナシウスに言われた後、街まで出てきた二人は祭りの準備に忙しい人々を見つつ、屋台でサンドイッチを買った。
薄く切ったパンにソースをつけた鶏肉を挟み、仕上げに鉄板で挟んで焼き目をつけたものだ。手渡されたサンドイッチは温かかった。
どこで食べようかと辺りを見回すと、劇をやっている舞台があり、その周りにある長椅子が丁度空いていたので座った。
王子が姫のために竜と戦う昔話の劇を見ながら、クルキが尋ねてきた。
「あの話、コスティはどうしたい?」
「……悪くねえとは思ってるけど」
そう答えたはいいものの、コスティは考えあぐねていた。
衣食住が保障されるのは魅力的なことである。しかし、教会内の組織争いに巻き込まれる可能性があると聞くと、一歩引きたくなるのも事実だ。
しかし。
イングヴァルは戦いを期待しているとは言ったが、仕事内容には雑用も含まれている。
クルキがこの話に乗るというなら、自分は無理に戦わなくてもいいとも言えた。今の状態で弓を持てるかと言われると怪しいものだ。
もしクルキが二人で旅を続けることを選んだら、自分はどうしたらいいのだろう。
自分がもっと強ければ。
魔物なんか一人で簡単に倒してしまえる強さがあれば、クルキに戦わせることはないのに。
「私は、受けてもいいと思ってる。確かに、教会内での揉め事に巻き込まれるかもしれない。でも、あそこだったらコスティとずっと一緒にいられると思うんだ」
クルキの言葉に息を呑んだ。
まだ自分と一緒にいたいと言ってくれるのか。傷付けてしまったというのに。
「コスティとまた会ってから一年間、ずっと旅をしていただろう。南の海は青く澄んでいて、燃えてしまうんじゃないかと思うくらいに眩しい日差しだった。とても綺麗だったし、初めて見るものも沢山あった。それはそれで楽しかったが、大変でもあった。そろそろどこかに安心して帰れるところを作ってもいいかと思っていたんだ。コスティも、最近は調子が悪そうだったし。長い旅の疲れが出ているのかもしれない」
クルキの言葉を聞いて思った。
確かにこの一年間、勢いに任せて旅を続けていた。
知らない土地に行って、見るもの全てが新しくて。何より、クルキの隣でそれを味わえることが何より嬉しくて。
だが、そういった勢いがいつまでも続くわけではない。今まで大過がなかったのは運が良かっただけなのだ。
どこかに腰を据えるのを考えてもいい、というクルキの言葉は確かだった。
今までそういう発想が出てこなかったのは、どこかに定住してやっていける自信がなかったからである。
無論、クルキも自分も生きていくだけの金を稼ぐことはできると思うが、例えばどこかよその場所で暮らしている自分、というのが見えなかったのだ。
クルキにしても、今までそういうことを言い出さなかったのは同じように感じていたからだろう。
だが北境にあるこのソーラスは見知った街だし、二人の生まれ故郷に近くて馴染みがある。ここなら落ち着くのにいいかもしれない。
「確かにな。そうしても、いいかもな」
コスティが返すと、クルキはコスティの手を取った。
「大変なこともあるかもしれない。でも、君と一緒なら大丈夫だ。どんなことでも乗り越えられる」
「……ああ」
俺もそう思いたいよ。
その言葉を飲み込んだ。
クルキの隣にいたい。
でも、クルキを傷付けてしまった自分にその資格があるのか。
クルキの想いに報えるだけの何かをしてやれるのか。
まだ、心にひびが入っていた。
薄く切ったパンにソースをつけた鶏肉を挟み、仕上げに鉄板で挟んで焼き目をつけたものだ。手渡されたサンドイッチは温かかった。
どこで食べようかと辺りを見回すと、劇をやっている舞台があり、その周りにある長椅子が丁度空いていたので座った。
王子が姫のために竜と戦う昔話の劇を見ながら、クルキが尋ねてきた。
「あの話、コスティはどうしたい?」
「……悪くねえとは思ってるけど」
そう答えたはいいものの、コスティは考えあぐねていた。
衣食住が保障されるのは魅力的なことである。しかし、教会内の組織争いに巻き込まれる可能性があると聞くと、一歩引きたくなるのも事実だ。
しかし。
イングヴァルは戦いを期待しているとは言ったが、仕事内容には雑用も含まれている。
クルキがこの話に乗るというなら、自分は無理に戦わなくてもいいとも言えた。今の状態で弓を持てるかと言われると怪しいものだ。
もしクルキが二人で旅を続けることを選んだら、自分はどうしたらいいのだろう。
自分がもっと強ければ。
魔物なんか一人で簡単に倒してしまえる強さがあれば、クルキに戦わせることはないのに。
「私は、受けてもいいと思ってる。確かに、教会内での揉め事に巻き込まれるかもしれない。でも、あそこだったらコスティとずっと一緒にいられると思うんだ」
クルキの言葉に息を呑んだ。
まだ自分と一緒にいたいと言ってくれるのか。傷付けてしまったというのに。
「コスティとまた会ってから一年間、ずっと旅をしていただろう。南の海は青く澄んでいて、燃えてしまうんじゃないかと思うくらいに眩しい日差しだった。とても綺麗だったし、初めて見るものも沢山あった。それはそれで楽しかったが、大変でもあった。そろそろどこかに安心して帰れるところを作ってもいいかと思っていたんだ。コスティも、最近は調子が悪そうだったし。長い旅の疲れが出ているのかもしれない」
クルキの言葉を聞いて思った。
確かにこの一年間、勢いに任せて旅を続けていた。
知らない土地に行って、見るもの全てが新しくて。何より、クルキの隣でそれを味わえることが何より嬉しくて。
だが、そういった勢いがいつまでも続くわけではない。今まで大過がなかったのは運が良かっただけなのだ。
どこかに腰を据えるのを考えてもいい、というクルキの言葉は確かだった。
今までそういう発想が出てこなかったのは、どこかに定住してやっていける自信がなかったからである。
無論、クルキも自分も生きていくだけの金を稼ぐことはできると思うが、例えばどこかよその場所で暮らしている自分、というのが見えなかったのだ。
クルキにしても、今までそういうことを言い出さなかったのは同じように感じていたからだろう。
だが北境にあるこのソーラスは見知った街だし、二人の生まれ故郷に近くて馴染みがある。ここなら落ち着くのにいいかもしれない。
「確かにな。そうしても、いいかもな」
コスティが返すと、クルキはコスティの手を取った。
「大変なこともあるかもしれない。でも、君と一緒なら大丈夫だ。どんなことでも乗り越えられる」
「……ああ」
俺もそう思いたいよ。
その言葉を飲み込んだ。
クルキの隣にいたい。
でも、クルキを傷付けてしまった自分にその資格があるのか。
クルキの想いに報えるだけの何かをしてやれるのか。
まだ、心にひびが入っていた。
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