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第13話

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 ナエマは匕首のまだ刃が残る部分で必死に首に巻きつく腸を断ち切ろうとする。しかし腸は強く首に絡みつく一方だ。
 満足に息ができずに視界がぼやけ、意識が薄れていく。
 何もできないまま死んでいくというのか。
 そう諦めかけた、その時。

「ナエマ!」

 シーリュウの声が響いた。
 それと同時に自分の首を絞めていた腸は解け、地面に落とされる。
 咽せながらも何があったのかと声の聞こえたほうを見ると、饕餮号とうてつごうを纏ったシーリュウが戟で悪魔を後ろから貫いていた。
 悪魔は痛みに苦悶の声を上げている。

「シーリュウ、さん……!」

 何故シーリュウが再び立ち上がったのかわからない。
 しかし、今しかないことだけはわかる。

「やれ!」
「はい!」

 ナエマが答えて走り出すと、右手が燃えるように熱を持った。
 見ると右手の甲にある薔薇の痣が赤く、眩く光り輝いている。
 その時、ナエマは悟った。
 今までは神が力を与えてくれているのだと思っていた。
 しかし、それは違った。
 この痣は神に力を与えられた者の証ではない。神の力を引き出す資格を持つ者の証。

「神よ!」

 ナエマが唱えるとさらに痣が輝を増す。
 悪魔はもう目の前だ。
 聖索に縛られ、戟でその身を貫かれた悪魔は何もできない。最早ただの的だ。

「力を、寄越せ!」

 ナエマが叫ぶと痣の放つ光が黄金に変わった。
 シーリュウにもらった匕首も黄金の光を帯び、その折れた刃を悪魔の胸に突き立てる。

 ■■■■■――!

 心臓を傷つけられて悪魔が叫ぶ。
 しかし、その短い刃では心臓を貫くに至らない。

「この、クソ悪魔――!」
 
 ナエマは言うと同時に、右の拳で匕首の柄を殴りつけた。
 その一撃で悪魔の心臓は穿たれ、動きを止める。

 ■■■■■――!

 悪魔は断末魔を上げ、その体が塵となって崩れていく。
 そして匕首の刺さった心臓だけが残り、ぼとりと落ちた。

「は、ぁ……、はぁ……」

 終わった。
 悪魔を討った。
 己の復讐を果たした。
 しかし、それ以上に。

「シーリュウさん! よかった、生きて、いた……!」

 ナエマは饕餮号を纏ったシーリュウを見つめるが、勝手に視界がぼやける。

「ああ、生きている」

 鎧で顔は見えなかったが、笑っている気がした。
 シーリュウの答えにナエマは膝から崩れ落ちた。

「よかった、よかった……! 死んでしまったのかと……!」

 守りたいと思ったものを、守れた。
 子供の頃は目の前で大事な人が奪われていくのを見つめるしかできなかった。
 今度は、守ることができたのだ。
 やがて黒い雨は上がり、暗い雲の隙間から天の祝福のように地上に光が差していた。
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