13 / 15
第13話
しおりを挟む
ナエマは匕首のまだ刃が残る部分で必死に首に巻きつく腸を断ち切ろうとする。しかし腸は強く首に絡みつく一方だ。
満足に息ができずに視界がぼやけ、意識が薄れていく。
何もできないまま死んでいくというのか。
そう諦めかけた、その時。
「ナエマ!」
シーリュウの声が響いた。
それと同時に自分の首を絞めていた腸は解け、地面に落とされる。
咽せながらも何があったのかと声の聞こえたほうを見ると、饕餮号を纏ったシーリュウが戟で悪魔を後ろから貫いていた。
悪魔は痛みに苦悶の声を上げている。
「シーリュウ、さん……!」
何故シーリュウが再び立ち上がったのかわからない。
しかし、今しかないことだけはわかる。
「やれ!」
「はい!」
ナエマが答えて走り出すと、右手が燃えるように熱を持った。
見ると右手の甲にある薔薇の痣が赤く、眩く光り輝いている。
その時、ナエマは悟った。
今までは神が力を与えてくれているのだと思っていた。
しかし、それは違った。
この痣は神に力を与えられた者の証ではない。神の力を引き出す資格を持つ者の証。
「神よ!」
ナエマが唱えるとさらに痣が輝を増す。
悪魔はもう目の前だ。
聖索に縛られ、戟でその身を貫かれた悪魔は何もできない。最早ただの的だ。
「力を、寄越せ!」
ナエマが叫ぶと痣の放つ光が黄金に変わった。
シーリュウにもらった匕首も黄金の光を帯び、その折れた刃を悪魔の胸に突き立てる。
■■■■■――!
心臓を傷つけられて悪魔が叫ぶ。
しかし、その短い刃では心臓を貫くに至らない。
「この、クソ悪魔――!」
ナエマは言うと同時に、右の拳で匕首の柄を殴りつけた。
その一撃で悪魔の心臓は穿たれ、動きを止める。
■■■■■――!
悪魔は断末魔を上げ、その体が塵となって崩れていく。
そして匕首の刺さった心臓だけが残り、ぼとりと落ちた。
「は、ぁ……、はぁ……」
終わった。
悪魔を討った。
己の復讐を果たした。
しかし、それ以上に。
「シーリュウさん! よかった、生きて、いた……!」
ナエマは饕餮号を纏ったシーリュウを見つめるが、勝手に視界がぼやける。
「ああ、生きている」
鎧で顔は見えなかったが、笑っている気がした。
シーリュウの答えにナエマは膝から崩れ落ちた。
「よかった、よかった……! 死んでしまったのかと……!」
守りたいと思ったものを、守れた。
子供の頃は目の前で大事な人が奪われていくのを見つめるしかできなかった。
今度は、守ることができたのだ。
やがて黒い雨は上がり、暗い雲の隙間から天の祝福のように地上に光が差していた。
満足に息ができずに視界がぼやけ、意識が薄れていく。
何もできないまま死んでいくというのか。
そう諦めかけた、その時。
「ナエマ!」
シーリュウの声が響いた。
それと同時に自分の首を絞めていた腸は解け、地面に落とされる。
咽せながらも何があったのかと声の聞こえたほうを見ると、饕餮号を纏ったシーリュウが戟で悪魔を後ろから貫いていた。
悪魔は痛みに苦悶の声を上げている。
「シーリュウ、さん……!」
何故シーリュウが再び立ち上がったのかわからない。
しかし、今しかないことだけはわかる。
「やれ!」
「はい!」
ナエマが答えて走り出すと、右手が燃えるように熱を持った。
見ると右手の甲にある薔薇の痣が赤く、眩く光り輝いている。
その時、ナエマは悟った。
今までは神が力を与えてくれているのだと思っていた。
しかし、それは違った。
この痣は神に力を与えられた者の証ではない。神の力を引き出す資格を持つ者の証。
「神よ!」
ナエマが唱えるとさらに痣が輝を増す。
悪魔はもう目の前だ。
聖索に縛られ、戟でその身を貫かれた悪魔は何もできない。最早ただの的だ。
「力を、寄越せ!」
ナエマが叫ぶと痣の放つ光が黄金に変わった。
シーリュウにもらった匕首も黄金の光を帯び、その折れた刃を悪魔の胸に突き立てる。
■■■■■――!
心臓を傷つけられて悪魔が叫ぶ。
しかし、その短い刃では心臓を貫くに至らない。
「この、クソ悪魔――!」
ナエマは言うと同時に、右の拳で匕首の柄を殴りつけた。
その一撃で悪魔の心臓は穿たれ、動きを止める。
■■■■■――!
悪魔は断末魔を上げ、その体が塵となって崩れていく。
そして匕首の刺さった心臓だけが残り、ぼとりと落ちた。
「は、ぁ……、はぁ……」
終わった。
悪魔を討った。
己の復讐を果たした。
しかし、それ以上に。
「シーリュウさん! よかった、生きて、いた……!」
ナエマは饕餮号を纏ったシーリュウを見つめるが、勝手に視界がぼやける。
「ああ、生きている」
鎧で顔は見えなかったが、笑っている気がした。
シーリュウの答えにナエマは膝から崩れ落ちた。
「よかった、よかった……! 死んでしまったのかと……!」
守りたいと思ったものを、守れた。
子供の頃は目の前で大事な人が奪われていくのを見つめるしかできなかった。
今度は、守ることができたのだ。
やがて黒い雨は上がり、暗い雲の隙間から天の祝福のように地上に光が差していた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる