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英雄さまの独白
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「本当にもう行くのか?」
心の底から残念そうな声を出す男に苦笑をしつつ、青年は荷物を持ち上げた。
「そうだよ。今からギルドは忙しくなるだろうけど、俺でないと達成できない依頼なんてそうそう出てこないだろうし。だったら他のやつに依頼をまわしてやらないと、王都が壊滅するぞ」
そういってぐるりと周りを見渡した。
ここは冒険者ギルドである。「冒険者」というと格好いい響きではあるのだが、実際は大小様々な市民の悩みを解決する何でも屋のようなものだ。
屋敷の掃除であったり、臨時の使用人募集であったりというただの求人もあれば、薬草摘みや狩人の真似事をするような事もある。だからこそ、護衛や魔物退治などの「冒険者」らしい依頼はランクがそこそこ上がらないと受けられはしない。
最高難度の「魔人討伐」という依頼が達成された今、滞っていた流通が復活し、魔人に抑え付けられていた魔物が溢れ、復興に人員が必要となる。
つまり、稼ぎ時なのだ。
復興の為に人が集まれば、それだけ経済が回る。
旅人が増えればそれだけ宿屋や店の需要が増え、店の仕入れの為に物流が増え、その隊商の護衛に冒険者が雇われ、懐の潤った冒険者の財布の紐が緩めば落ちる金も多くなる。
物事は良くも悪くも循環するものである。
ここでもし自分が他の冒険者の仕事を奪ってしまえば、引退し田舎に引っ込んでしまう冒険者が増えてしまう。そうなると店をたたまざえるを得ない所も増え、結果、経済が回らなくなってしまう。
それだけならまだいい方で、仕事が無くなった冒険者崩れが賊にジョブチェンジするなんて話も良くある事だ。
そして冒険者が減ってしまった所為で賊に対応しきれず、無法地帯になってしまう……。
例え話ではなく、本当に王都だけでなく国自体が弱体化してしまう恐れがある。
魔人の討伐で一生遊んで暮らせるほどの報奨金を貰った身としては、これ以上欲を出すことなく他の冒険者達に仕事を回してあげて欲しい――というのは八割方タテマエなのだけれど。
「じゃあ、俺は行くから」
色々と耐えられなくなってきた青年は、そそくさとギルドを後にした。
※ ※ ※
――いや、ホンとマジ止めてほしいんだけど。
「英雄」などと称えられていてもあまり顔を知られていない為、街を歩いていても声をかけられる事はない。
それがどれだけ有難いことなのか、理解出来る人間はいないのだろう。
「英雄」だってさ。「最強」だってさ。いやマジ有り得ない。
俺程度が最強なんて、一体皆どれだけ無知なんだよ。
確かに、田舎から出てきて冒険者なんてものになって「あれ、俺って結構強い?」と思った事は結構あった。
けれど、賞賛されればされるほど、居心地が悪くなっていくのも事実で。
だって、俺より強い人間を、少なくとも一人知っている。
――それは、ウチの親父だ。
これだけ聞くと、自分の父親が強いとか最強とか、それどんなファザコンだよと思うかもしれない。いやしかし違うんだ。そうじゃないんだ。
別に、精神的に頭が上がらないという意味ではない。勿論そういう意味も多少は含んでいるが、本当に、物理的な意味で親父には勝てない。いや、ホントまじで。
そもそもことの発端は、武者修行的な感じで田舎を飛び出した事だった。
小さい頃から親父は凄いなぁ強いなぁと思っていた。けれども世間的には、成長するに従って親父の背を追い抜いたり力が強くなったりして、まだまだ小さい子どもだと思っていたのにいつの間にか成長していたんだなぁしみじみ。なんて初めて親父と酒を酌み交わしながらのお涙ちょうだい感動的なシーンがあったりするもんだよな。
しかし現実はそんなに甘くない。俺がどれだけ努力しようと成長しようと一向に親父に勝てる気配もなく、いつまで経っても若輩者あつかいで。
きっと田舎で親父と二人暮らしだから強くなれない。世界中の強者と戦い、腕を磨いてきてやると田舎を飛び出したのが多分間違いだった。
ギルドに登録すれば多少なりともお仕事が貰えるらしいので、それで旅の資金を稼ごうと思った。
それにギルドなら世界中の強者の情報が集まるだろう。うむ、完璧だと思っていた。
でも一番の誤算があった。
世界に強者、居なかった。
俺でも出来る仕事があればいいな~どきどき。と思って受けたギルドのお仕事、全部簡単だった。
強いと噂の冒険者や魔物と戦ってみたけど、親父どころか俺より弱かった。
……あれ、俺結構強くない?
うん。この段階でとってもいやな予感がしていたんだよね。
そして現状「世界最強」であり「最凶」であろう魔人はそこそこ強かったけど、やっぱり特に苦も無く倒してしまった。
そして、気付きたくない事実に気付いちゃったんだよね。
俺が弱いんじゃない。
俺の親父が化け物だった。
心の底から残念そうな声を出す男に苦笑をしつつ、青年は荷物を持ち上げた。
「そうだよ。今からギルドは忙しくなるだろうけど、俺でないと達成できない依頼なんてそうそう出てこないだろうし。だったら他のやつに依頼をまわしてやらないと、王都が壊滅するぞ」
そういってぐるりと周りを見渡した。
ここは冒険者ギルドである。「冒険者」というと格好いい響きではあるのだが、実際は大小様々な市民の悩みを解決する何でも屋のようなものだ。
屋敷の掃除であったり、臨時の使用人募集であったりというただの求人もあれば、薬草摘みや狩人の真似事をするような事もある。だからこそ、護衛や魔物退治などの「冒険者」らしい依頼はランクがそこそこ上がらないと受けられはしない。
最高難度の「魔人討伐」という依頼が達成された今、滞っていた流通が復活し、魔人に抑え付けられていた魔物が溢れ、復興に人員が必要となる。
つまり、稼ぎ時なのだ。
復興の為に人が集まれば、それだけ経済が回る。
旅人が増えればそれだけ宿屋や店の需要が増え、店の仕入れの為に物流が増え、その隊商の護衛に冒険者が雇われ、懐の潤った冒険者の財布の紐が緩めば落ちる金も多くなる。
物事は良くも悪くも循環するものである。
ここでもし自分が他の冒険者の仕事を奪ってしまえば、引退し田舎に引っ込んでしまう冒険者が増えてしまう。そうなると店をたたまざえるを得ない所も増え、結果、経済が回らなくなってしまう。
それだけならまだいい方で、仕事が無くなった冒険者崩れが賊にジョブチェンジするなんて話も良くある事だ。
そして冒険者が減ってしまった所為で賊に対応しきれず、無法地帯になってしまう……。
例え話ではなく、本当に王都だけでなく国自体が弱体化してしまう恐れがある。
魔人の討伐で一生遊んで暮らせるほどの報奨金を貰った身としては、これ以上欲を出すことなく他の冒険者達に仕事を回してあげて欲しい――というのは八割方タテマエなのだけれど。
「じゃあ、俺は行くから」
色々と耐えられなくなってきた青年は、そそくさとギルドを後にした。
※ ※ ※
――いや、ホンとマジ止めてほしいんだけど。
「英雄」などと称えられていてもあまり顔を知られていない為、街を歩いていても声をかけられる事はない。
それがどれだけ有難いことなのか、理解出来る人間はいないのだろう。
「英雄」だってさ。「最強」だってさ。いやマジ有り得ない。
俺程度が最強なんて、一体皆どれだけ無知なんだよ。
確かに、田舎から出てきて冒険者なんてものになって「あれ、俺って結構強い?」と思った事は結構あった。
けれど、賞賛されればされるほど、居心地が悪くなっていくのも事実で。
だって、俺より強い人間を、少なくとも一人知っている。
――それは、ウチの親父だ。
これだけ聞くと、自分の父親が強いとか最強とか、それどんなファザコンだよと思うかもしれない。いやしかし違うんだ。そうじゃないんだ。
別に、精神的に頭が上がらないという意味ではない。勿論そういう意味も多少は含んでいるが、本当に、物理的な意味で親父には勝てない。いや、ホントまじで。
そもそもことの発端は、武者修行的な感じで田舎を飛び出した事だった。
小さい頃から親父は凄いなぁ強いなぁと思っていた。けれども世間的には、成長するに従って親父の背を追い抜いたり力が強くなったりして、まだまだ小さい子どもだと思っていたのにいつの間にか成長していたんだなぁしみじみ。なんて初めて親父と酒を酌み交わしながらのお涙ちょうだい感動的なシーンがあったりするもんだよな。
しかし現実はそんなに甘くない。俺がどれだけ努力しようと成長しようと一向に親父に勝てる気配もなく、いつまで経っても若輩者あつかいで。
きっと田舎で親父と二人暮らしだから強くなれない。世界中の強者と戦い、腕を磨いてきてやると田舎を飛び出したのが多分間違いだった。
ギルドに登録すれば多少なりともお仕事が貰えるらしいので、それで旅の資金を稼ごうと思った。
それにギルドなら世界中の強者の情報が集まるだろう。うむ、完璧だと思っていた。
でも一番の誤算があった。
世界に強者、居なかった。
俺でも出来る仕事があればいいな~どきどき。と思って受けたギルドのお仕事、全部簡単だった。
強いと噂の冒険者や魔物と戦ってみたけど、親父どころか俺より弱かった。
……あれ、俺結構強くない?
うん。この段階でとってもいやな予感がしていたんだよね。
そして現状「世界最強」であり「最凶」であろう魔人はそこそこ強かったけど、やっぱり特に苦も無く倒してしまった。
そして、気付きたくない事実に気付いちゃったんだよね。
俺が弱いんじゃない。
俺の親父が化け物だった。
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