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どーも、サンタです♡(続)
25日のふたり
しおりを挟む「んっ! このチキン美味しい」
「ピザも美味いよ、食べてみ」
「ねぇ、ケーキ見てるとろうそく立てたくならない? 電気消してふーってするの」
チキンやケーキ、美味しいご飯と最愛の人に囲まれて、玲奈は人生最良のクリスマスイブを過ごした。
幼い頃から冷え切った愛のない家庭で育ち、家族の温もりを知らずに生きてきた彼女は、普通の穏やかな日常を欲していた。
そして、その日常を共に楽しめる人とめぐり逢った。
しかし、それでも彼女はこの幸せを自ら捨てようとしている。
「あ~、もう食えん」
「ほんと、お腹いっぱいだね」
また明日、食べるかと言って冷蔵庫にしまう亘は、一瞬その表情が曇るのを見てはいない。
二人で片付けをして、順番に風呂を済ませると隣り合って座り、沈黙の時を過ごす。
心地いいのか、気まずいのか。
「もう一本飲むか」
何かを言おうとしてはやめる亘の雰囲気を、玲奈は感じ始めている。
「玲奈……」
やがて酒がまわった亘は、玲奈の肩に頭を下ろしもたれた。
シャンシャンシャン……
どこからか鈴の音が聞こえてきそうな夜、やがて聞こえてくる寝息に微笑むとそばにある毛布を亘に掛け、呟く。
「亘……大好き」
そうして玲奈も亘に寄り添い、そっと目を閉じ眠りについた。
そして翌朝。
先に目覚めた玲奈は、そっと起こさないように亘から離れ着替えると、手紙とプレゼントをテーブルに置いて一人、部屋を出る。
まだ空は明るくなり始めたばかり、駅までの遠い道のりを玲奈は一歩ずつ歩いていく。
寒さで手がかじかんでも、もう温めてくれる人はいない。
玲奈は童顔だと言われるそのあどけない表情を捨て、自身の境遇を受け止め大人になる決意をした。
中学2年の秋、両親の離婚で街を離れ、そこから苦労の連続だった。父や母方の親族から見捨てられ精神的に不安定な母を支えながらバイト漬けの日々。進学も成人式も彼女の人生にはなかった。
働きに働いて、それでも暮らしは楽にならない。そして追い討ちをかけるよう母が病気に。一人で家計と治療費を捻出しなければならなくなり追い詰められた玲奈は、亘との関係にけじめをつけ、体を売る決意をした。
“もっと若ければキャバも行けたけど喋れないでしょ? デリヘルなら稼げるよ”
もっと早く決めていればお母さんは病気にならなかった、決断できなかった自分を、玲奈は責めている。
他に道はない──歩き続け亘から遠く離れていく。
「玲奈!! 」
叫ぶと夢が消え、いつもの部屋にいた。夢か……ほっとした束の間、隣で眠るはずの玲奈がいない。
「玲奈? 玲奈! 」
トイレもキッチンも、もちろんこの狭い部屋のどこにも玲奈はいなかった。どこに……スマホを取ろうとして気づく。
見覚えのない箱と封筒。
“バイバイ、亘”
夢の中、玲奈の言葉が蘇る。
急いで開けると見覚えのある小さな文字が並んでいた。もう会えない、それだけ見つけて走り出す。
どうして昨日、言わなかった。
最初から、玲奈は俺と別れるつもりだったのか。
靴を履いてからあれを持っていない事に気づいて取りに戻る。とにかく駅へ、慌てて外へ飛び出した。
階段を降り、道へ。
人通りなんてない、静かな朝。もちろん玲奈の姿もない。
いつ家を出たのか、電車は動いているのか、何も知らない。後悔とか反省とかそんな事ばかりが頭をもたげる。
あんなに笑って、楽しくてしょうがなくて、俺には玲奈しかいない。
正夢にしたくない。
夢の中で俺達は仲良く笑いながらプレゼントを配っていた。あの日のようにそりに乗って……でも配り終えたその時、玲奈は飛び降りた。俺が落とされたように玲奈が建物に吸い寄せられていく、そして。
玲奈が自殺なんて、考えたくない。
様子がおかしいのなんてわかっていたはずなのに、妙にテンションが高かったり、一瞬泣きそうな顔をしたり……玲奈は助けを求めていたかもしれないのに俺は、別れを突きつけられたくなくて見ないふりした。
玲奈……玲奈……走りながらもずっと心では呼び続けている。
やっと見つけ出した。初めて電話で声を聞いた時には決めていた。
電話で声を聞くたび無性に会いたくなって、何度も玲奈の所に行こうとした。
玲奈はあの夜、サンタになりきって勇気を振り絞って会いに来てくれた。中学の時も……呼び止められてみんなに見られているのがはずかしくて、ついそっけない態度を取ってしまった。
たくさん後悔したはずなのに、俺はまた同じ失敗で、玲奈を失うのか。
電話でもメッセージでも、いつも俺の話ばかり。玲奈がどんな暮らしをして何に悩むのか、何も知らずに彼氏だなんて浮かれていた。
何かにつまずいて足を取られた。でも止まるわけにいかない。
駅に向かってとにかく真っ直ぐ……玲奈はいつ家を出たのだろう。そしてどこに向かったのだろう。
大好きな亘へ……手紙はそう始まっていたはず。
好きだと言ってくれてありがとう、でも亘にはもう会えない、ごめんなさい。
後は……他にも色々書いてあったはずなのに思い出せない。自分のバカな脳みそが死ぬほど嫌になる。
間に合ってくれ……遠くに駅が見えてきて、俺はラストスパートをかけた。
「玲奈! 玲奈! 」
ロータリーを抜け切符を買い、亘は躊躇なくホームへ降りていく。
人目も気にせず玲奈を呼び続け探すも、玲奈の街へ行く白い電車は少しずつ加速し、ホームから離れていく。
「玲奈! 玲奈! 」
追いかけても足が電車に追いつくはずはなく、力尽きた亘の足はとうとう止まった。
間に合わなかった……膝に手をつき、腰をかがめて苦しそうに息をする。
「玲奈……」
顔を上げたその先のベンチ、座っていたのは。
「玲奈、玲奈」
最後の力を振り絞り駆け寄る姿に俯いていた女性が顔を上げる。
「亘……どうして」
言い終わる前、亘は玲奈を抱きしめる。
「来てくれたんだ」
「何でだよ、別れるなんて…もう会えないなんてどうして」
「手紙も、読んでくれたんだね」
優しく微笑みかけると玲奈は亘から体を離す。
「ごめんね、色々あって……これから忙しくなりそうだから」
「待ってくれ」
聞いて欲しい事がある、亘は握りしめていた小さな箱を開け、大きく息を吸う。
「結婚してほしい」
二人の時が止まった。
「受け取れないよ……私、亘に言えてないことたくさんある、だから」
「だから全部話して、隠してること。玲奈の本当の気持ちも。家族になって、それから一緒に考えよう」
指輪をはめてもう一度、亘は玲奈を抱きしめた。
さっきより強く、もう二度と離れられないように。
─数年後─
「ママ、みてみて!! 真央にもサンタさんきてくれたの! おてがみにかいたプイキュアのおもちゃくれたんだよ! 」
「そう、よかったね」
「パパにもみせてくるー! 」
「お腹に乗っちゃだめよ、パパまだ寝てるから」
遠くで聞こえる声。
ドンッッ!!
「うぐっ……」
腹に受ける衝撃、思い出した。
「パパー!! みてみて、サンタさんがねぇ、真央にくれたんだよ。ねぇパパったらぁ」
あの夜、俺は。
”あー、疲れた。サンタがいるなら帰りを待っていてくれる家族でも見つけてくれよ“
暗い部屋に明かりをつけ、確かに言った。クリスマスで浮かれる世の中に愚痴っただけ。
「おーい、パパきいてる? まだねてるのかなぁ」
鼻をつまんだり、頬をぺちぺち叩いたり……やっぱりそっくりだ、俺の娘は。
「真央、パパお腹痛い痛いって。ね、降りてあげて」
陽射しが明るい、そろそろ起きるか。
「あ、パパおはよー」
あの夜、届けられた本当の贈り物は玲奈と真央、愛しくて仕方ない俺の家族だ。
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