christmas☆magic

織本 紗綾

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どーも、サンタです♡(続)

24日のふたり

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 病院から外に出ると、冷たい空気が入ってくる。周囲の人の目が気になって足早にバスに乗り込んだ。

 今日は12月24日、クリスマスイブ。

 “今年こそ一緒に過ごそう”

 そう言ってくれた亘の為に仕事を休んであの街へ行く。再会してから二回目のクリスマス、サンタに見せかけ亘の家に押しかけたあの夜のように髪を巻いてメイクもした。

 いらないって言われたけどプレゼントも準備して手紙も。

「ご乗車、ありがとうございました」

 バスが駅について立ち上がる。

 大好きな人と過ごす、最初で最後のクリスマス、今日だけはめいっぱい楽しもう……外に出て大きく深呼吸した。


 ここから亘の暮らす街まで、電車で1時間とちょっと。遠距離恋愛とは言っても行き来できない距離じゃない。

 でも再会してから私達が会えたのは3回だけ。いつも電話やメッセージのやり取りばかりで、会おうって言われても実現できないできた。

 これ以上、言えない事が増える前に終わりに……もしかしたら亘も終わりの気配を感じているのかもしれない、亘から切り出されるかもしれない。

「まもなく、4番線に電車が参ります」

 本当に会いに行くんだ……胸が高鳴っていろんな気持ちがこみ上げてくる。

 混雑し始めた楽しそうな人達に混ざって電車に乗りこむ。懐かしい車両の雰囲気、ドアが閉まって動き出した電車は徐々にスピードを上げて、憂鬱な日常から私を切り離していった。






「お待たせ」
「寒かっただろ」

 改札の前で待っていてくれた亘はいつもよりちゃんとした格好をして、さり気なく荷物を持ってくれる。

「ありがと」
「昼だけどさ、この間の所でいいかなと思ったんだけど無くなってて。ちょっと行きたい所もあるし、少し待てる? 」
「うん、大丈夫」

 話しながら手をさらってポケットに。亘の手は大きくてあったかくて、ドキドキする。色々話してくれる事もあんまり頭に入らないまま、亘に連れられて車に乗り込んだ。






「わぁ、すご~い!! 」

 亘が連れてきてくれたのは出来たばかりの大きなショッピングモールだった。巨大な駐車場にびっしりと並ぶ車を見て思わず声を上げてしまう。

「そう? 」
「うん、こんな大きなモールなんだね」
「あぁ、田舎だから土地余ってんだよ。それにしても空くのか、これ……」

 亘は少し不満そうだけど、広くてきれいで公園みたいな居心地良さそうな場所もあって、車の中から見ても人気の理由がわかる気がする。

「ごめんな、こんな混んでると思わんくて」
「ううん、楽しそう。早く行こっ! 」
「ちょっと玲奈、はぐれるだろ」

 流れるクリスマスソング、楽しそうな人達、それと……一生懸命、働く人達。私もいつもは働く側。心の中でお疲れ様ですと思いながらも、正直うれしい。

 亘とこんな休日を普通に過ごしたいと、ずっと思っていたから。

「メリークリスマス! よかったらどうぞ」

 エスカレーターを降りた所で渡されたのはハートのバルーン。

「奥様、ご自宅にウォーターサーバー置かれてます? 」
「あ、いえ……」
「出産の時とかあると便利ですよ」
「すみません、カップルなんで」
「えっ、あっ、すみません。それぞれご自宅には」

 気まずそうにしながらも営業トークをしようとするお兄さんと、会話を楽しんでる亘が面白い。

「もらっちゃってよかったのかな」
「いいよ、かわいいし。それより俺達、夫婦に見えるんだな」

 いたずらそうな笑顔、夫婦……か。

「さて、飯食ってから色々見よ」
「うん! 」

 何食べたいか言い合って、二人でお店選んで、同じ物を食べて……会うといつも緊張してぎこちなくなってたし、付き合うって言われても彼女らしいことはいつも何も出来ないままで、私じゃだめなんだって思ってた。

 でも今日の私はそんな事も忘れるほど、お腹の底から笑っている。

「楽しい? 」
「うん、すっごい楽しい」
「よかった」

 今日の亘は少しおしゃべりで、前から私と来ようと思ってくれていたとか、健吾くんに説教されてからずっと不安だったとか、色んな気持ちを教えてくれる。

「モールなんて日常感あるとこじゃなくて、イルミネーションとか温泉とか色々あんだろってさ」
「そう? 楽しいよ。いつもこんなお休みだったらいいのに」

 何気なく出た一言、でもなぜか一瞬……真顔になった。

 何を考えたんだろう、気になったけど聞けなくて。まだもう少し楽しんでいたい。

「あ、あれかわいー! 」

 話をそらして駆け出していた。


「服選びたいんだけどさ、何着たらいいかわかんなくて。一緒に選んでくれない? 」

 亘の申し出に頷いてメンズショップを探して、一緒に服を見て。

「玲奈がすっぽり入りそうだな」

 笑いながらビッグサイズのスウェットやTシャツを買った。

「何か飲むか」

 喉が渇いたとスタバを探すけれど超満員。行列が店の外までずっと続いている。

「下にもカフェとか、色々あるみたいよ? 」
「これ、美味そう」
「抹茶好きなの? 」
「うん、甘いのよりかは」

 そんな事を言いながら抹茶カフェ目指して下へ降りる。


「そういえば、今日ご飯どうする? 家でゆっくりしたいって言ってたし、何か作る? 」
「いいよ。大変だし、チキンとケーキ買ってこ」
「そう? 」

 抹茶を買って飲みながら、夫婦みたいな会話してスマホを見るともう17時を過ぎている。

 一階は食料を買う人で更に混んでいて、うまく歩けないほどだった。それでも何とかケーキ屋を見つけ、歩いていくとそこにはものすごい行列が。

「ヤバイな、並んどく? 」
「先にご飯買おっか。ケーキは……食べたい? 」
「甘いの好きだろ? せっかくクリスマスだし買おう」

 私の為……亘は甘い物があまり好きじゃない。そういえば昔、たくさんもらったバレンタインチョコをもらってくれってこっそり家に持ってきたりしてたっけ。それでうっかり亘へのラブレターを読んじゃった事も。

「チキンだけじゃ足りないでしょ? サラダとか……チキンだとご飯じゃなくてパンかな」

 献立を考えながら歩く。スーパーも地域が違うと全然違う。値段や置いてある場所や、売っている物まで。

「玲奈って、女の子なんだな」
「何、いきなり」
「肉だけじゃなく野菜もとか、栄養バランス考えてるしさ、何か懐かしくなった」
「懐かしいの? 買い物なんてしたことあったっけ? 」
「昔、幼稚園の頃、よく二人でままごとしてただろ、俺はロボとか車とか持って遊んでんのに、玲奈がおままごとしようってキッチンセット持ってくるんだ」
「そんな事あったっけ? 」
「あったよ。二人しかいないからさ、結局いつも俺がお父さんで玲奈がお母さん役。ずーっと何か作って食べさせようとしてただろ」

 “どーも、サンタです”

 サンタになりきって亘の家へ飛び込んだあの日、私の事を覚えてなかった亘がそんな小さな頃のことを覚えてくれていたなんて。

「あの時はほら、大人になってたしメイクもしてたからわかんなかったんだよ」

 恥ずかしくなると鼻を触る癖、変わってないな。

「あれはあれで楽しかったけどな」
「じゃあ、今夜もやってみる? サンタさん」

 亘への気持ちが恋だって気づいたのは、私が遠くに行ってから。勇気を出して呼び止めたものの、別れの挨拶もできないまま……雪の降る街で一人、途方に暮れた。

 せめてもう一度だけ、亘に会いたい。

 その願いを叶えてくれた、特別な夜。

「あ、あれかわいい! 」

 もう一つ、最後のお願いも叶ったらいいな。

「ねぇ、これにしない? 」
「え? これでいいの? 」

 小さな、ちょうど2人分くらいのホールケーキ。

「なんか小さくてかわいい」

 チキンに、ケーキにサラダとピザも。たくさんの荷物と思い出を抱えて亘の家に。

「あっという間だな」

 亘の言葉にぐっと寂しさが襲ってくる。

 明日の今頃、私は……考えたくないけど終わりは少しずつ迫っている。

 二人で美味しいご飯を食べて、ゆっくり夜を過ごして……朝が来たら。

 亘、なんて言うかな。

 怒ったりするかな。

 でも亘は優しいからきっとすぐ相手が見つかる。どこかの誰かとこんな日常を。

「疲れた? 」

 無口になったからか、気遣ってくれる優しさがうれしい。

「ううん、大丈夫」

 笑顔で見つめ返すとさりげないキス。

「どうしたの? 急に」
「だめ? 」

 暗い車の中、もう一度キスをする。

 にぎやかな時間が終わって、付き合って初めての特別な夜が始まりを告げる。
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