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Chapter Ⅱ 戦場
21.因縁 〜fate〜
しおりを挟む「水野さん! 」
ロイド軍の基地で三人は再会を果たした。懐かしいはず、それなのに水野は遥に突きつけた銃を下ろそうとしない。
「銃を下ろせ、さもなくば撃つ」
内藤は遥を庇うように立ちはだかり、水野を隠す。これ以上傷つけたくない……しかし、その想いごと水野は冷めた視線を向ける。
睨み合う二人。
「奏翔さん、やめて」
「黙ってろ、遥に手出しする奴は誰だろうと許すわけにいかない」
引き金に指が掛かる、微かな音がやけに大きく響く。
バスン!
「何だ」
「EMERGENCY,EMERGENCY,CODE1.B3-F4通路に侵入者発見、至急集合せよ」
何か落ちたような爆音とサイレン。廻る非常灯、鮮やかな赤が空間を照らす。地響きのごとく迫る無数の足音、招集されたロイド兵が集まってくる。
レーザーの嵐、咄嗟に水野も内藤も遥の盾となり反撃する。
「離れなさい」
水野は一言そう言うと銃をしまい、グローブを撫で指先から青白いレーザーを放った。
弓のように放たれた光線、しかし兵に届くと爆発、ロイド兵数十体を一気に弾き飛ばした。
「EMERGENCY,EMERGENCY,CODE1.B3-F4からF8通路に移動中。侵入者3名、特徴は……」
それでも続くサイレン、三人の身体的特徴を細かく捉え武器の仕様までアナウンスされ。
「どういう事だ」
「見られています、もちろん音声も。基地内すべてにカメラが。今時珍しい事ではありません」
「来る……」
遥が呟くも二人には何が来るか、わかる前に遥がレーザーを放ち遠くで命中する。
「逃げないと……」
「カメラのない所にな」
「来なさい」
水野の先導で共に走り出す。信じていいのか……内藤は不安の眼差しを向ける。遥がまた裏切られる、それだけは避けたかった。
宮殿中に響くサイレン、それは海斗が閉じ込められているあの部屋にも聞こえていた。
「誰か!! 誰かいないか! 」
どこからかやってきた炎で室内は燃え始めていた。立ちはだかる金の扉を拳で叩き、必死に叫ぶも助けが来る気配はない。
「EMERGENCY,EMERGENCY,CODE1.侵入者移動中。B2-D1通路から消息不明。周辺を捜索せよ」
侵入者の排除に衛兵まで出払っているのか、海斗の顔が悔しそうに歪む。あいつを殺し、全て終わらせるつもりが逆に罠にはめられてしまった。
「クソッ……」
漂う煙、焦げ臭い匂い、バチバチ弾けるような音……脳裏に浮かぶあの火事。
「誰か…誰か……来てくれ…」
声を出すたび煙が気管に、気力も体力も奪っていく。いつもは兵士の持つ個人IDで開けていた扉、しかし停電でシステムが全てダウンしてしまった。助けなど……呼んでも無駄なのかもしれない。
「ゲホッ、ゴホッゴホッ……」
叩く力は次第に弱まり、やがてずるずると……滑るように体勢が崩れる。やがて倒れた海斗に、起き上がる力はもう残っていない。
うっすらと、開いた目から流れる一筋の涙。
「は……る……」
最期の時、うっすらと微笑み海斗は静かに力尽きた。魂の抜けた肉体から転がり落ちる黒い塊。
ころころ転がり壁に。
火に触れた瞬間、爆発した。
バキッ…メリメリ……
「何の……音? 」
「揺れるぞ、かがめ! 」
ドゴォォォン!!
衝撃を感じ、立っていられない程の揺れに襲われた。元々、雑に作られていた回廊の壁に亀裂が走り、砂埃が立つ。
「急ぎましょう」
まずは二人を安全な場所へ、頭を守るよう指示し先を急ぐ。爆発のせいかロイド兵からの攻撃はなくなった。まだ通れそうな通路からむき出しの配管を上り、夕陽の射す地上へ。
去り際、水野は振り返る。
まさか……海斗に渡したのは不発弾、投げたとしても爆発はしない。何をするかわからない……虚ろな目が頭から離れなかった。
「うまくいったな」
「さすが父さん」
暗闇の中、ネオングリーンの光に照らされる不気味な口元。
「翡翠はどうだ」
「焦ってるよ、モニターの前でね。彼女とケンカしてるみたい」
「怒ったら煮豚か焼豚か……笑えるな」
「容姿については言わないほうがいいよ。彼女もじきに捨てられる、可哀想な人なんだから」
「お前は女に甘すぎる」
高らかに笑う二人。ここは草野医院の地下にあった研究室と同じ造りのラボ、そこにいるのは白衣姿の英嗣と偽物の海斗だ。
「あれから8年……長く屈辱の日々だった。あんなぼんくらに取り入ってラボを建てさせ計画を進め……まず海斗の始末に成功した」
「誰に知らせる? やっぱり裏切り者の遥かな」
「考えてある」
英嗣は古びたキーボードをカタカタと鳴らし、何かを打ち込む。
「データを送っておいた。その通り動け」
海斗の手の甲に光る文字が。スクロールして全て読むとわかったと頷いた。
「隠れて生きる日々ももうすぐ終わる。成功すればお前が本物の海斗だ、立場をよく考えて行動するようにな」
「わかってるよ、約束したんだ。全部終わって偉くなったら由茉を迎えに行くって。だから遥には死んでもらわないと」
由茉、その名に英嗣の眉がぴくりと動く。
「行ってくるよ」
出て行く海斗、その背中に呟いた。
「偽物は所詮、偽物にしかすぎん」
立ち上がる英嗣、仮面を被り白衣を翻すとシステムを消してラボを暗闇に。
「宿願を……晴らす時が来たな」
宿願……海斗を、そして遥を殺さなければならない程の恨みを英嗣は持っている。二人の身に迫る危険、家族の別離はそのせいで起きていたのかもしれない。
二人はどこに向かったのだろうか。
遥は膝を抱え茫然としていた。水野が去り再び二人きりになった隠れ家で内藤は遥を心配そうに見つめ、そっと抱き寄せる。
胸に抱かれ、遥の瞳が不思議そうに内藤を見つめる。吸い寄せられ触れ合う唇、我慢できなくなり勢いづくも我に返り身体を離す。
「ごめん……」
謝る内藤の頬に触れる白い手。
「いいよ……来て」
微笑み遥は内藤を受け入れる。
孤独に傷つき愛を求め重なる二人、幸福や性欲ではなく、それは動物が傷を舐め合う行為と似たような事なのかもしれない。
水野は跡地にやってきていた。天井の一部が抜け通路はむき出しに、ロイド兵や幹部達がいる気配はない。
止まない胸騒ぎ、やはり爆心は皇帝の居室だったらしい。
辺りを探ると何かが焦げた跡……瓦礫が鳴る音。
「無事だったのですね」
音と影で見つけた海斗の背に声を掛ける。夜空を眺めていた海斗が振り返った。
「案内しましょう、遥の所へ連れていきます」
歩き出す水野、しかしその背に思いがけない言葉が。
「関係ない、彼女がどうなろうと」
「本気で言っているのですか」
答えない海斗。水野が振り返った時、そこにもう姿はなかった。
海斗と遥の動き方に疑問を感じつつ水野は隠れ家に戻ってきた。頭を抱え座る内藤、傍らに眠る遥……上着らしき物は掛かっているが雰囲気で気づいてしまう。
「抱いたのですか」
軽蔑を隠さない水野に内藤は頭を掻き苛立ちをあらわに。
「露骨過ぎんだろ……聞き方が」
「意外です、あなたがこういう手段に出るとは」
「どういう意味だよ」
「目を付けるのも当然です。この戦争は草野英嗣が羽島と結託し起こしたもの、そして駒として遥と海斗を使った……そう考えるのが自然です。遥の協力なくしては起こり得ない」
「バカな事言うな」
水野の目的、それに気付いた内藤は怒る。
「あり得ない、んな事あるわけねぇだろ」
「海斗の命を盾に脅されたのでしょう。今、あなたと共にいるのも監視の為」
「違う……」
「海斗の為なら何でもします」
「理由がねぇんだよ……遥があんな事される理由が」
何をされたのか、内藤は知ってしまった。
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