最期の日 〜もうひとつの愛〜

織本 紗綾

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Chapter Ⅱ 戦場

15.奇襲攻撃 〜suprise attack〜

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「侵入者は南西方向、SW8から武器庫に向け直進。通路やFTS強制転移システムに加えロイド兵50体を壊し、進んでいます」
「武器庫まで取られれば兵力の4分の1が失われます。急ぎ何とかしなければ」

 騒然とする議場、モニターに映る侵入者は内藤に遥、リンの三人。突如、起きた事態にロイド軍は慌てふためく。

「どうするおつもりです、陛下。既に幹部や重臣達は皆逃げたとか」
「自分達だけ逃げてロイドを見殺しにする気だな! 」
「ロイドだけの新世界など嘘だったんだ!! 」
「労力を返せ! 」

 口々にはやし立てるロイド達はヒートアップし、もはや収まる気配はない。

「静まれ! 陛下は重要な局面でのみご発言される。いちいち騒ぎ立てず、そなたらの頭脳で何とかすべきであろう」

 口を開き静止するのはマスク姿の英嗣だが、火に油を注ぐ結果に。

「御言葉を返すようですが閣下、あの者達は閣下が追われていた重要人物。始末できなかったあなたに責任があるのでは!? 」
「本当か!? 」
「見ればわかる。これは俺等を売り飛ばして荒稼ぎしたあの女だ! 」

 それは遥の事を指していた。議場の誰より最上位の席で、海斗はサファイアブルーの仮面をつけ、映像をじっと眺めている。


「つまみ出せ」


 威厳あふれる一声に静まり返る議場。黙ったまま微動だにしない下々を見下ろし、尚も言葉を続ける。
 
「つまみ出せ。SW8から武器庫であればSW9とSE1に分岐するはずだ。SW9におびき寄せて外へ出せ。SE1に爆薬を配置、爆発させて中心部との接続を遮断し、被害を最小限に食い止める。それでいいか」

「か、かしこまりました!! 」
「私は至急、ロイドの配置を」

「待て」

 慌てて議場を出て行こうとするロイド兵達を呼び止め、海斗は立ち上がる。怯えを含んだ空気の中で星雲を模した床を踏み、ロイド達の元へ降り立った。

「いつも最前線で戦わせている事、誠に心苦しく思う。だが、ロイドの為の新世界を作るにはそなた達の助けが必要だ。人間の勝手で苦労させてしまい申し訳ない」

 ロイド兵の冷たい手を取り、労をねぎらう。

「作戦が成功した暁には逃げた者共の代わりに要職につけ、高待遇を約束しよう」

「ありがたき幸せにございます」
「何としても食い止め、陛下を御守りいたします」

 急ぎ出て行くロイド兵達。まだその座に就いたばかり、しかし、海斗はその心を早くも掴んだようだ。



「さすがだ、皇帝陛下」

 議会を済ませ、皇帝の居室に戻ってきた海斗に、後から来た英嗣がわざとらしい拍手を送る。

「医師よりよほど向いている。やはりこれが宿命なのだな」
「あのロイドを作ったのは誰だ」

 氷より冷たい声。

「あんたじゃないだろ、誰のだ」
「作ったのは私だ。だが売り渡した、あのラボと復讐の為に」
「売り渡した? 誰にだ」
「元の皇帝、羽島だ。今はあいつが引き継いでいる」
「あいつ? 」
「CODE:X1010X、ジュエルネームはヒスイ、今日の会議にただ一人出席していない羽島の手下で一番の忠臣。何が狙いか一向にわからぬ、掴みどころのない男だ」

「ヒスイ……か」

 マスクを取るとなぜか英嗣は、それを海斗の手に握らせる。

「邪魔者を消してやる。後はお前の好きにしろ」
「ヒスイはまだ消すな。俺が話す」

 白衣の背中に言葉をぶつけ、海斗はスクリーンを操る。

「皇帝は俺だ、従ってもらう。それから俺の偽物はどこだ」
「そうだな、従おう。あの偽物は昔のお前によく似ている。女を連れて行方をくらまし戦闘を放棄した、愚かな奴だ」

 英嗣は部屋を出ていった。昔の自分……思わず溜め息をつく海斗、打ちひしがれた瞳でスクリーンを見つめ何を思うのか。

 やがてシステムを起動し、ヒスイを呼び出した。






「サファイア様の仰せのままに」

 いくつかのやり取りを交わし、不気味な電子音声を残し対話は終わった。“この件を一任してくれれば忠誠を誓う”要求を飲むしかなかった海斗は居室で頭を抱え、ヒスイはあの隠れ家で不敵な笑みを浮かべている。


「えぇ、ご安心ください。FTS強制転移システムで時間稼ぎを」

 次に映るのは海斗でなく、白髪の男。

「オニキス様に引き渡しましょう。いえ、魂胆など。私のターゲットではありませんから」
「では約束通り準備するとしよう。全て終ったらあの方とお二人で宇宙旅行を楽しめるよう」
「一人でいい、あの女も消す」

 英嗣は海斗を欺きヒスイと繋がっていた。

「それでサファイアはどうします」
「消す」
「それは残念、なかなか才覚のありそうな御方と思いましたが。御子息なのでしょう」
「息子などではない」
「そうですか……まぁ、私にはどうでもいいこと。パスワードは“20250525”です、成功を祈っていますよ」

 興味がないのか深入りはせず、通信を切ると作戦を開始する。邪魔者はすべて消す──自らのプランの下、成瀬は動き出した。



 そして内藤、遥、リンは成瀬の作ったパスワード迷宮ラビリンスに、苦しめられている。

「遥! リン! 」

 内藤は二人を探しながら走っていた。空中に浮かぶスクリーンにパスワードを入れ、また走り……どこまで行けば辿り着くかもわからない道、それでも立ち止まることはない。

「何年かかったと思ってんだ」

 呟き鋭くなる眼差し。

「こんな所で失ってたまるか!! 」

 狙いを定めレーザーで攻撃、ガラスのような破片が散らばる。

「見てないで出て来い、卑怯者!! 」

 叫ぶと同時、空間が避け狭間から大量のロイド。内藤は囲まれ動けないまま、無益な戦いに時間を取られ、出口の見えない沼に囚われてしまった。


 そして遥は一人、また別の空間に投げ出されている。

「内藤さん! リンちゃん! 」

 起き上がり銃を構えると、用心深く辺りを観察する。灰色の目の粗い壁に目が傷むような古い蛍光灯。

「笹山様、パスワードをご入力ください」

 振り返ると浮かぶスクリーン。何を手掛かりにしていいかもわからない遥は、さっき内藤が答えた数字“19720808”の意味も知らない。

「1972……ロイド……」

 浮かびそうにない遥を襲うのはなぜか男達の笑い声。

「わかるわけないよな、お前みたいな女に」
「おとなしく遊ばれていればいいものを」

「やめなさい! 」

 それは遥にとって痛ましい記憶の断片。耳を塞ぎ必死に立ち向かい、声の先にレーザーを放つ。スクリーンは消え、辺りは闇。

「見苦しいですね」
「水野……さん? 」

 どこからか聞こえてきたのは懐かしい声、驚きのあまり辺りを見回し闇にその姿を探す。

「水野さん、どうしてこんな事……こんな戦争を望んでたんですか」

 悲痛な叫びに応えはない。

 それを聞いているのは本物の水野沙奈ではなく、スクリーンの向こうにいるヒスイ成瀬だからだ。

「おもしろ~い、道を塞がれて困っている蟻みたい」

 隣で笑うのは琥珀アンバー。本名を鈴木楓すずきかえでと言い水野の跡を継いでロイドショップの四代目チーフとなった、遥の仕事仲間だ。

「私をおとしいれた罪、思い知らせてあげる」

 楓は高らかに笑うと、水野の口調を真似て遥を責め立てる。

「そのぐらいにしておけ、遊んでる暇はない」

 冷めた表情の成瀬はスクリーンを操り、システムを起動。

「ヒスイ様、FTSシステムマネージャーのシラーにございます」
「シラー、ダイヤモンドに次のシナリオを。その後、パスワード“20250525”で繋ぎオニキスと鉢合わせさせろ」
「了解しました」 

 そして立ち上がりマスクをつけた。

琥珀アンバー、決戦の場で待て」
「はい」

「シラー、アメジストの元へ飛ばせ」
「了解しました」

 光に包まれ、アンバーとヒスイ成瀬の姿は消えた。

 
誰もいなくなったそこに残るのはチェス盤と駒。ダイヤアメジスト内藤は既に取られ、オニキス英嗣も盤の隅に追いやられている。翡翠成瀬琥珀でキングを追い詰め、ルビーで彫られたクイーンも残っている。

 翡翠成瀬が狙うはサファイアブルーのキングだ。
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