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しおりを挟む人々は平和に暮らしていた。
2060年代に入った文明の発展は凄まじく、ワープ技術や宇宙開発など、漫画の世界のような近未来の暮らしがそこにあった。これは人間だけの力ではなく、人造人間(通称ロイド)が人類を支えた結果の発展。
これから先もますます地球は進歩し、発展していく……誰もが光り輝く未来を想像していた。
しかし、争いの火種は世界のあらゆる所である日突然、起き始める。
最初にいなくなったのは遥の親友、樹梨亜だった。まだ街が戦塵にまみれる前の、静かなある夜。
「ぐっすりだね」
「あぁ」
「今日もいっぱい遊んだから……」
「梨理も大きくなったね。あんなにわがままだったのにお姉さんになって」
寝室で、子供達の寝顔を眺めながら話すのは樹梨亜と煌雅。
「樹梨のおかげだね、いつもありがとう」
「煌だって……色々、大変でしょ? いつも私のわがまま、聞いてくれてありがと」
煌雅の肩に頭を寄せ、寄り添う樹梨亜。彼女はパートナーロイドの煌雅を、心から愛している。この夜も、愛する人と子供達に囲まれる幸せに浸っていた。
「さぁ、そろそろ休もう。明日もまた元気な子供達とたくさん遊ばなきゃ」
「うん」
見つめ合った煌雅の瞳が一瞬、異様に光ったのを樹梨亜は見逃した。立ち上がる煌雅は先にドアを開け、部屋を出ようとする。
「煌雅? 」
ドアの前で、不自然に動きを止めた煌雅の異変に気付いた樹梨亜。
ドゥォン!!
彼女の目の前で、煌雅は爆発した。燃え盛る炎の中、何が起きたのか考える暇もなく、パニックを起こした子供達を抱え、必死で逃げる。
「いたぞ、捕まえろ!! 」
それ以来、樹梨亜と子供達の消息は現在も不明だ。
この事件は、煌雅と樹梨亜の担当をしていた遥の胸を大きく傷めた。
「草野さん、先日起きたロイド爆破事件の資料です」
「ありがとうございます。このところ増えていますが、爆発したロイドに何か関連はありますか? 」
「いえ、それが全く。管理する企業も使用する部品も、共通の物はありません。それにしても国内で一日に50件を超えるなんて、さすがに多すぎます。組織的な犯罪を疑われても仕方ありません」
「そうですね……資料、ありがとうございます。修理センターの方は」
「ミーティングにも出てきませんし、何をしているのか……責任者がロイドを管理できていない可能性もあります」
「困りましたね……」
こんな時、あの人達がいてくれたら……どれだけそんな風に考えただろう。
パートナーロイドがいきなり爆発する、そんな事件が最近続いている。手元には今まで起きた事件の資料。
この中には親友の樹梨亜一家も入っている。担当していたのに私は何も、気付くことができなかった。
調べて食い止めないといけない。
「っっ!! 」
また感じる胸の痛み、最近増えてきた……爆破事件の真相、これを突き止めるまでは辞められない。例え、命が尽きたとしても。
「草野さん、大変です!! 」
また別のスタッフが慌てて駆けてくると同時に、街に異様な警報が鳴り響いた。
「どうしたの!? 何が」
「空襲警報です、軍の奇襲攻撃が!! 」
遥がロイドショップに出勤したのはこの日が最後。ロイド反乱軍と名乗る組織が同時多発的に世界各国で争いを起こし、地獄のような戦争が始まったのだ。
同時に異様な電波が放たれ、電化製品や通信機器は使用できなくなった。
情報が得られなくなった国民は混乱し、逃げ惑う。各地のロイドが家族や周囲の人間を殺し始め、とうとう人類も軍隊を編成。終わりの見えない最終戦争の幕が開いた。
そして、弱った地球は更に強大な侵略の危機を招く。
「笹山さん、通信成功しました」
「わかった。すぐ繋げてくれ」
大型のモニターに映るのは、緑色の肌をした異星人。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです、総長。早速ですがお願いがございます」
「これはこれはご冗談を、天下の人間様が我等のような下賤の者にお願いなどとは」
卑屈な嫌味に対抗している場合ではない。笹山和樹……今まさに異星人と対峙している遥の兄には、それがよくわかっている。デスクの下では拳を握りしめながらも、直面する人類の危機に立ち向かうべく、口を開こうとしたその瞬間……異星人の口端が耳の側までニヤリと、不気味に上がった。
「DANGER! DANGER! 」
耳をつんざくような警報音と共に点滅する警告表示。
「何だ! 何が起こった! 」
指揮官の和樹は状況を確認しようと立ち上がり、ドアを開ける。
ダッダッダッダッダッダッ
銃を構えた大勢の軍人が走る足音。数分後には……全ての人間が倒れ、軍人達によって火が放たれていた。
人類は、かねてから親交のあった宇宙連合軍に、協力を仰ぐつもりだった。しかし、地球侵略の絶好の機会とふんだ宇宙連合軍は地球への攻撃を開始。その手始めに通信局を襲撃したのだ。
奇襲は成功、妻である夢瑠の元に“和樹死亡”の悲報が伝えられた。
そして訪れた戦乱の世。
街の外れに暮らす遥と海斗の家は、かろうじて戦火を逃れていた。
「離婚してほしい」
「わかった」
結婚から5年。薄暗く静まったリビングで冷めた言葉を交わすのは遥と海斗だ。荷物も持たず家を出る遥に、忍び寄る人影。
先に家を出た海斗は一人、夜道を進んでいた。これでいい、これでいいんだ……必死に心の中で唱えながら。海斗の真意はわからない。あれだけ愛した遥を戦乱の世に一人追い出すというのは……どんな理由があったにしろ、非情な選択だ。
それぞれの人生は分岐点に差し掛かり、運命どころか……明日は誰にもわからない、暗黒の時代がやって来た。
このあと……。
「俺の手を離すな、絶対だ」
かつて遥を愛した男が。
「何を嗅ぎ回っているのか言いなさい」
ずっと遥の目指す姿だったあの人も。
再び交錯する運命、愛も憧れも全て疑いの暗い影に飲み込まれていく。
内藤と海斗、水野と遥、そして遥と海斗までもが互いに銃口を突きつけ、苦難の道を行く。
そしてもう一人。
「宿願を……晴らす時が来たな」
地獄の果てから蘇る悪魔は、再び巡る因果を呼び起こしてしまうのか。
緑も花も空も色を失くし、広がるのはただ灰色の地表。地上も地下も、人が争いあった場所は全て瓦礫の山へと化していく。
そして消えていく命の灯火。
「しっかりしろ!! 目を覚ませ!! 」
「遥!! 」
命の危機を前に、誰ひとり例外などない。襲いかかる絶望の暗闇に、希望の光は溶けて消えていく。
そして……。
「全部……あなただったのね。どうして……どうしてあなたが」
戦に隠されていた恐ろしい思惑。人類を危機に陥れたのは、意外な人物だった。
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