4 / 6
2日目 みんなどうしてる?
しおりを挟む少し遅い昼食を終えた私と夢瑠は、リビングに海斗を残して寝室に来ていた。降り始めた雨は、一層強くなってザアザアと屋根を叩いている。
「これがねぇ、生まれたばっかの時で、こっちが3ヶ月くらいなのかな」
夢瑠が見せてくれたのは、小さなアルバムにまとめられた赤ちゃんの写真。樹梨亜と煌雅さんの子供、梨理ちゃん。あの後、無事に産まれて今年の夏にはもう1歳になるらしい。
「かわいい~!! 」
「でしょー! ふにゃふにゃでね、真っ赤な顔して泣くの! 」
樹梨亜に似て、目鼻立ちのくっきりとしたきれいな顔の赤ちゃんが、樹梨亜に抱かれて笑っていて、お母さんになった樹梨亜は少しふっくらとして優しそうな、幸せそうな微笑みを浮かべている。
樹梨亜、良かったね……。
「これがこの間会ったときのかなぁ」
「え!? もうこんな大きいの? ハイハイしてるー! 」
さっきまで小さくて芋虫みたいだった赤ちゃんは、もう自力でハイハイしていた。
「このイタズラそうな顔、樹梨ちゃんそっくりじゃない? 」
「本当だね、昔の樹梨そっくり」
直接おめでとうって、言えたら良かったな。
「樹梨ちゃんね、お母さんになってから心配性になっちゃってね、ハルちゃん探しに行くって言ったらすごく心配されちゃった」
「樹梨亜は、私がどこにいるか水野さんに聞いて知ってるの? 」
「ううん、知らないよ? だって夢瑠ひとりで聞きに行ったんだもん」
「それなら樹梨亜が心配するのもわかるよ……どんな危険が待ってるかわからないんだし……」
「ハルちゃんだってしたでしょ? カイくんの為に。夢瑠もどうしてもハルちゃんに会いたかったから、ここまで来たの」
「夢瑠……」
「でもね、楽しかったよ! お家に泊めてもらったり、車乗せてもらったり。馬にも乗ったんだよ! 」
「そ、そうなんだ……」
一体、どこをどれだけ巡ってきたんだろう。私と同じように日に焼けた夢瑠は、私が知るよりずっと逞しかったんだ……。
「でも知らなかったなぁ、日本に直接行ける船があるなんて。この間の人に言われて初めて知ったの」
「あぁ、伯父さんね。たぶん貿易船を出してる人に頼んでくれたんだと思うよ」
「そうなの? いい人なんだね」
「うん、海斗の伯父さんなの。お父さんのお兄さんって言ってたかな」
「へぇ~。で、ハルちゃんはカイくんと結婚したの? 」
「な! いきなり何聞くの!? してないよ」
「そうなの? 」
「うん、そんなんじゃないよ……私がわがまま言ってついてきただけだから」
「でも一緒に暮らしてるんでしょ? 」
「それは、ここの気候とか暮らしとか協力しないと大変だから……」
「ハルちゃん? 」
「ん? 」
「そういうのはね、ちゃんとした方がいいと思うよ」
「はい……」
真っ当な意見を真顔で言われるとなんだか反論出来ない。
「カイくんがロイドだから難しいことはあるかもしれないけどね、方法はあると思うの」
「そこまで、知ってるの? 」
「うん、でも別にどうでもいいの。体がなんだってハルちゃんの選んだ人だからね……それは夢瑠だけじゃなくて樹梨ちゃんもそう思ってる」
なんて言ったらいいのか……分からなかった。
「ここで暮らしてるハルちゃんとカイくん見て……幸せならこのままの方がいいのかなって思うんだけど……」
何かを言いかけて、黙ってしまった。
「夢瑠? 」
「……何でもない! そうだ! そういえばね、ハルちゃんのお母さんが怒ってたよ? 好きにしていいとは言ったけど居場所くらい教えなさいって」
「お母さんが? 会ったの? 」
夢瑠、お母さんに会ったことなんて殆どないような……でも本当に言いそう。
「ハルちゃん探しに行くって伝えに行ったの。ハルちゃんが居なくなった時に樹梨ちゃんと会いに行った事があったから。みんな優しいんだね……お兄ちゃんとか」
「兄貴? 優しくなんかないよ。なんかの間違いじゃない? 」
「夢瑠がね、ハルちゃん探しに行くって言ったら一緒に行くって言ってくれたの」
「は!? あの兄貴が? 」
驚いてしまった。
「うん。夢瑠が断っちゃったんだけどね、後から考えたら心配してくれたのかなーって。ハルちゃんのことも、大変な事に巻き込まれてるんじゃないかって心配してたよ? 」
兄貴は、大の人嫌いで……知らない人と旅行なんてできるタイプじゃない。それどころか、夢瑠と話したって事だけでも腰を抜かしそうなのに。
私が居なくなって……知ってる人が、知らない人になっていってるのか……それとも、私が見えていなかったのか……皆の知らない一面が見える。
「ハルちゃんのベッドふかふかぁー」
ぼーっと考える私の横でクルンクルンとベッドの上で遊ぶ夢瑠。
「ハールちゃん」
「なあに? 」
「えいっ! 」
夢瑠の投げた枕が私の顔にヒットする。普通、このタイミングで攻撃する!?
「やったなー! 」
そこから火がついたように枕投げが始まった。二人で一つずつの枕を投げ合うのは忙しかったけど、懐かしくて。
「はー、疲れた」
「でも楽しいでしょ? 昔みたいで」
「うん。よくやったよね、お泊まりの時にさ」
「今度は樹梨ちゃんも一緒にね」
「えー? お母さんになったのに枕投げするかなぁ」
「梨理ちゃんは煌雅さんが抱っこしててくれるよ」
「そうなの? なんか面白い」
久しぶりに……こんなに笑った気がする。さすがに、海斗と二人で枕投げしないし、これはきっと……樹梨と夢瑠と私だけのコミュニケーションだから。
「はぁぁー! 」
騒ぎきった私達は、同時に大の字で横になった。
今度……それがいつ来るのか、本当にあるのか、それは分からないけれど……こんな私でも友達でいてくれる。
それがとても嬉しかった。
その夜……二人が寝静まった後、私は手紙を書いた。心配をかけた家族と、樹梨亜達に。そして、夢瑠にも。最初はいつか帰るつもりだったのに、いつの間にかここでの暮らしが日常になっていて。
海斗がどう思ってるのかちゃんと話したこともないし……情勢的に帰れるかも分からない。
きっとまだ、みんなに会えないけど精一杯の想いを手紙に込めて、夢瑠に託すことにした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
お母様と婚姻したければどうぞご自由に!
haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。
「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」
「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」
「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」
会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。
それも家族や友人の前でさえも...
家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。
「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」
吐き捨てるように言われた言葉。
そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。
そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。
そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる