5 / 6
3日目 最後の1日
しおりを挟む翌朝、目が覚めると隣にいたはずの夢瑠がいない。
あれ……?
ベッドから降りてリビングに向かうと、物音が聴こえる。
もう海斗、起きてるのかな。
「おはよ」
「あ、ハルちゃん起きたー! 」
「おはよう」
「二人とも起きてたの? 」
「うん! 朝ごはんね、夢瑠も手伝ったのー! 」
テーブルにはサンドイッチとオレンジジュースが3人分、置かれている。
「ありがとう……えっと、今何時? 」
「もう11時過ぎだよー、食べたらみんなで海行くんだからね! 」
夢瑠はいつになく元気でテンションが高い……私はというと昨日、寝るのが遅かったからかまだぼーっとしながらサンドイッチを口に運んだ。
「うん、美味しい」
「おいしいね! ハルちゃん知ってる? カイくんマヨネーズ作れるんだよ! 」
「うん、知ってる」
「なぁんだ」
「海斗、私より料理できるもん、ねぇ? 」
「ん……うん」
私の言葉に返事をした海斗が、私から視線を外した。
なんで今、目をそらされたんだろう?
「ごちそうさまー! じゃあ、お支度してくるね! 」
夢瑠が寝室に行った後、私は食べ終えたお皿を持って海斗のいるキッチンへ向かう。
「ねぇ? どうかした? 」
「何でもないけど」
そっけない返事……私、何か怒らせるようなこと……したかな。
頭の中で思い返すけど、わからない。
寝坊したの、怒ってるとか……でも今までそんなこと……それか、夢瑠に何か言われた?
「もしかしてさぁ……」
話しかけながら海斗のいた方を見ると、そこにはもう誰もいなかった。
支度を終えて海に出た後も、なんとなく……避けられてるような気がして直接話さないまま、海斗は伯父さんに呼ばれて行ってしまった。
「ねぇ、夢瑠」
「なあに? 」
「今朝、海斗に何か言った? 」
「何かって? 」
「何か私の事とか話した? 」
「朝話したのはねー……卵サンドの作り方? あ! ハルちゃんが卵サンド好きって聞いたよ! 」
「それだけ? 」
「うーん……その前は、晴れたから海の様子見に行ってくれて、その前はなに食べたい? で、その前はおはよう? 」
本当に思い当たる様子のない夢瑠に、これ以上聞くのはやめにした。
夢瑠といられる最後の一日……海斗が何か怒っていたとしても、夢瑠が帰ってからちゃんと話せばいい……よね。
「泳ぐの競争しよ! 」
「え! ちょっと待って! 」
言ったと同時に夢瑠は泳ぎ始めてしまう、私はそれに必死で追いつこうと泳ぐ。50m折り返しぐらい泳いで満足した夢瑠と砂浜に戻り話していると、海斗が伯父さんと一緒に戻ってくる。
「カイくん、何か持ってるよ? 」
海斗と伯父さんは、早めの昼食を作ってくれていた。
「泳ぐと腹が減るからな」
そういって出してくれたのは、立派な鯛のアクアパッツァにガーリックトースト、サラダにアヒージョと豪勢な物だった。
「今日も用事があって島に出たから他にも食材持ってきたぞ」
「いつもありがとうございます」
「こっちも助かってるんだ。また、手伝ってくれたらいいさ」
伯父さんは、海斗の父親と兄弟とは思えないほど優しくて、逞しくて、家を建てるのも魚釣りや狩猟や料理、裁縫にいたるまで何でもやってのけてしまう、スゴい人だ。
「伯父さんは、何でこの島に住んでるんですか? 」
夢瑠がぎこちない様子で伯父さんに話しかける。
「ここが好きだからな。日本は疲れた……人と関わってあくせく働いたり、揉めたり、それに……人間の面倒事は何でも機械にやらせようと機械に依存する暮らしは嫌いだ」
あの人も父親の犠牲者だと……海斗はそう言っていた。伯父さんも昔は医師として活躍していて……海斗の研究のことも少し知っていたらしいけど……一体何があったんだろう。
ふと、海斗の右腕に目が行く。
目立たなくなったなぁ……。
火事の時に削れてしまった皮膚は、伯父さんが治してくれた。応急処置だとは言っていたけど、半袖を着られるくらい目立たなくなったし、本人も元通りになった感覚で右腕に支障はなさそう。
「そんなことより、これも食べなさい」
食事の手を止めて話を聞いていた夢瑠に、アクアパッツァを取り分ける。
「美味しい! こんな美味しいの食べたの初めて! 」
夢瑠はここに来てからそればっかり言ってるけど、普段なに食べてるんだろう……。
「でも夢瑠も一人暮らしだし、ご飯作るでしょ? 」
「普段はサプリだから」
『え!? 』
私も、海斗も、伯父さんも同時に驚く。
「ご飯作る時間がもったいないかなって。特に書いてる時ね」
「でも夢瑠、それは身体に悪いよ。前に体調崩したでしょ? 」
「めんどくさいんだもん」
どうりで……夢瑠はそんなにたくさん食べる方じゃなかったはずなのに、久しぶりに会ったら結構食べるからどうしちゃったのかと思ってた。
「それこそ、機械にやってもらったらどうだ? 今の日本ならそのくらいあるだろう? 」
「クッカーっていう大型の家電があるよね」
「うん。夢瑠なら一人暮らしでもクッカー買えるんじゃないの? ちゃんと食べた方がいいよ? 」
「それ買ったらこういうのも出来る? 」
「アクアパッツァは……どうだろう……? 」
「いやいや、簡単だろ。アクアパッツァなんて言うが酒蒸しみたいなもんだぞ? 」
「あ、じゃあ、材料入れて分数決めて“蒸す”ボタンを押すだけで作れるんじゃないかな? 」
「おいおい…これだから今時の若いもんは。そんなの使う方がややこしいだろ。なぁ、海斗」
「伯父さんのやり方は火加減とか色々難しいから……クッカーの方がやりやすいと思うよ? 」
伯父さんに話を振られて、さっきから口数の少ない海斗がやっと会話に入ってくる。
やっぱり元気がない気がする……海斗、何かあったのかな。
「じゃあ、帰ったらクッカー探そっかな」
夢瑠はその一言で話を決着させて、また美味しそうに鯛を頬張る。その後も、4人でのランチは会話が弾んだのだけど、海斗が気になって……私まで集中出来なくなってしまった。
お腹いっぱいになった後、帰る伯父さんを見送って3人で片付けをする。
「泳いできたら? 俺がやっとくから」
なんだか、一人になりたそうな海斗。
気になりすぎてイライラする。夢瑠がいなかったらとっくに喧嘩になっている。
夢瑠は、待ってましたという感じで海の方へ駆けていく。
「なんで避けるの? 」
イライラを抑えてストレートに聞いてみる。海斗は答えない。
「私、何かした? 」
じっと、海斗を見つめても瞳からは何も伝わってこない。
「もういい! 」
今まで何でも言ってくれてきたのに、なんで黙るの。イライラが怒りに変わって、それだけ言って、夢瑠のところへ行くことにした。
その夜……私は、夢瑠と話すと言って早めに寝室に入った。
それでも海斗から何か言ってくる気配もない。明日……夢瑠が帰ってもこんな感じだったら嫌だな。
すやすや眠る夢瑠の隣で、荒れた気持ちのまま眠れない夜を過ごした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
お母様と婚姻したければどうぞご自由に!
haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。
「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」
「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」
「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」
会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。
それも家族や友人の前でさえも...
家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。
「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」
吐き捨てるように言われた言葉。
そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。
そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。
そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる