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1.スタジアムで初めて知り合いに出会う
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雲ひとつない晴れ渡った空。
日差しは暖かいが、まだ風が少し冷たく感じる3月中旬の午後1時。
「ようやく着いた――……」
市内のバス乗り場からバスに揺られること30分。
ようやく目的地に着き、バスから降りると私、高藤弥生は「ふぅ」と一息吐いた。
目の前にはこれからプロリーグのサッカーの試合が行われる陸上球技場が出迎えてくれた。
陸上競技場の前の広場には、唐揚げやお好み焼き、フライドポテトなどの屋台が並び、人々が列を作り、買い並ぶ姿がちらほら見える。
今日、私は地元のプロサッカーチームの試合を見にきたのだ。
1部から3部までのプロリーグで、応援しているチームは現在2部リーグ。
万年下位に沈む弱小チームだ。
チームに所属している選手の幟が会場のあちこちに立てられて風になびき、チームのマスコットキャラクターたちが広場をのんびり自由に歩き回りながら観戦に来た人たちと一緒に写真を撮ったりしているのを横目で見ながら、私も1人でブラブラと広場を歩きまわることにした。
「グッズ先に買ってから食べ物買うかなぁ――……」
今日出店している飲食のラインナップをざっと見回し、ある程度購入する候補を絞ったところで、チームのグッズを販売している場所へ向かって移動する。
「前回の試合で発売になったタオルあるかなぁ……」
仕事の都合上、毎試合観戦出来ないし、友人知人にサッカーが好きな子もいない為、代わりに買ってもらうという手段も取れない。
完売していて買えなかったグッズも過去にはあった。
毎試合観戦できる人羨ましいなぁ……と思いながら歩いていると、
「あれ?高藤さん?」
と自身の名前を呼ばれ、声の方へ視線をやる。そこには長身の男性が私に向けて小さく手を振っていた。
職場の営業担当で来ている吉川恭二さんだ。
キリッとした眉に、前髪をラフにかき上げ、サイドに流れるようにしたオールバックで細身ではあるが男らしい人だ。
営業マンということもあるのか、ダークブラウン色の髪色をしている。
職場に来てもさわやかな笑顔で私たち店員に挨拶を交わし、職場の女性たちからは好印象しか持たれていない。
意外な人との遭遇に思わず声を上げてしまった。
「えっ!吉川さん?!」
吉川さんは私の方へ歩み寄り、笑顔で挨拶をしてくれた。
「こんにちわ。まさかこんなところで高藤さんに会うとは思わなかった」
「いえいえ!むしろ私の方こそ吉川さんにここで会うとは思いませんでした!」
観戦歴3年目にして初めて知っている人に会った事に驚きを隠せない。
何故なら、観戦しているクラブはプロチームで1~3部まである中の2部リーグ。
その中で観客動員数も平均3000人台だし、地元メディアの露出も少ないし、サッカーに興味ない人は今日ここで試合があるということも知らないだろうくらい知名度は低いのだ。
「今日は仕事休みなの?」
と吉川さんに尋ねられら首を縦に振る。
「あ、はい。試合見に行きたかったので今日は休みをいれました」
私の職場は書店でサービス業だから、土日は基本出勤なのだけど、月に1回は土日のどこか、それぞれ休み取ろうということで、皆と予定被らないよう相談しながら休みを入れている。
私はその休みをほぼ試合観戦に当てている。
「吉川さんのところは土日休みでしたっけ?」
たまに土日に店に来ていたような気がしたので訪ねてみる。
「たまに土日出勤あるけど、基本は休みだよ」
と吉川さんは答えてくれた。
試合は基本土日に開催だから土日休みっていうのは羨ましい。
「土日休み羨ましいです!私は月に1回休めるだけなので」
と私は苦笑する。
サービス業だからまだ月1で休み取れるだけありがたいと思わないといけないんだけどね。
「吉川さんは観戦は今日が初めてですか?」
吉川さんの今日の姿を見るに、黒のコートにワインレッドのマフラーをしていて、どこにもチームのグッズを身につけていないので、初めての観戦かなと思い訪ねてみたが、吉川さんは首を横に振り否定する。
「いや、今日で2回目。前回は友人から誘われて来たんだ」
「今日もお友達さんと来てるんですか?」
「いや、直前で出張が入ったらしくて来れなくなったんだ。俺の方はすでにチケットも買ってたし、無駄にするの勿体ないと思って今日は1人で来たんだ」
そう言って困った様な表情を見せる。
そして私を見て、
「高藤さんは……よく試合見にているの?それユニフォームだよね?友人が着ているのと一緒だ」
と言ってきた。
今日の私は、ヒートテックの上に選手が試合で着るユニフォームを着用し、黒のコートを着ている。
そしてバックにはチームマスコットのキーホルダー。
明らかに試合によく来ていてチームを応援していますというスタイルだ。
なので、頷きながら、
「そうですね、3年くらい前から試合見に来ています。でもユニフォーム買ったのは今年が初めてなんですよ。だからユニフォーム着たの今日が初めてなんです」
と答えた。
42試合あるうちの8試合くらいしか見に行けないのだが、試合見始めて3年目。
1年目は吉川さんのように私服で観戦し、2年目はチームのキーホルダーやタオルなどのグッズを身につけて観戦。
そして3年目の今年はユニフォームを買おうという気になって今年初めてユニフォームを購入したのだ。
ユニフォームのお値段約2万円。
高いっっっ!!!!
普段服にお金を掛けていない自分からすると、とても高くて購入するのにすごく勇気がいった。
10回も着て見に行けるかどうかわからないけれど、やっぱりユニフォームを着て観戦して応援したいなぁという気持ちが止まらなくて、意を決して購入した。
だからユニフォーム着ているということはチームを特に応援している人という見方になる。
まあ、私服の人でも何年もチーム応援しているという人もいるかもしれないがおそらく少数派だろう。
「そうなんだ。かわいいね」
と吉川さんはニコリと微笑んで褒めてくれた。
かわいいという単語がどれをさしているのか……私が可愛いと言って……る訳ないと心の中でツッコミ入れつつ、
「今年のユニフォームかわいいですよね。去年のはシンプルだったので」
とユニが可愛いって事だろうと思ってそう返事を返した。
毎年ユニフォームの柄はかわるのだが、今年は菱形の濃いオレンジと薄いオレンジのアーガイル柄で可愛い。
去年はオレンジの無地に縦線ラインが入っただけのシンプルなユニフォームだったから余計に今年のユニフォームが良く見える。
ユニフォームが発表されたのを見て、迷うことなく購入を決めたくらいだ。
吉川さんは、
「今日誰かと一緒?」
と聞いてきたので、私は、
「いいえ、1人で観戦です」
いつもとは言えずそう答えた。
すると、
「じゃあ一緒にみてもいい?今日は俺も1人だし。観戦初心者だから色々教えて?」
と吉川さんが言って来たので、せっかくの機会だし悩むことなく私は頷く。
「いいですよ!座席のチケットどれでとっていますか?」
と座席を確認する。
S席、A席とそれぞれ座る席によって場所が変わるため、吉川さんと一緒の座席のチケットである必要があるのだ。
「C席。高藤さんは?」
「私もC席です」
良かった。同じ席ならチケットの差額払う必要なかったと私はホッと一安心する。
「スタジアムの中に入る?それとも何か買ってから行く?」
という吉川さんの言葉に、
「あ、グッズ売り場行ってもいいですか?その後に食べ物買ってからスタジアム入りましょう!」
忘れずにタオル買わないと!
「じゃあグッズ売り場は……あぁ、あそこか。じゃあ一緒に行きましょうか」
吉川さんは自身の斜め前方向にグッズ売り場があるのがわかったようだ。
私はニコリと笑顔で頷き吉川さんとグッズ売り場に向かって一緒に歩いて行った。
私は観戦し始めて3年目にして、初めて一緒に観戦してくれる人と出会ったのだった。
日差しは暖かいが、まだ風が少し冷たく感じる3月中旬の午後1時。
「ようやく着いた――……」
市内のバス乗り場からバスに揺られること30分。
ようやく目的地に着き、バスから降りると私、高藤弥生は「ふぅ」と一息吐いた。
目の前にはこれからプロリーグのサッカーの試合が行われる陸上球技場が出迎えてくれた。
陸上競技場の前の広場には、唐揚げやお好み焼き、フライドポテトなどの屋台が並び、人々が列を作り、買い並ぶ姿がちらほら見える。
今日、私は地元のプロサッカーチームの試合を見にきたのだ。
1部から3部までのプロリーグで、応援しているチームは現在2部リーグ。
万年下位に沈む弱小チームだ。
チームに所属している選手の幟が会場のあちこちに立てられて風になびき、チームのマスコットキャラクターたちが広場をのんびり自由に歩き回りながら観戦に来た人たちと一緒に写真を撮ったりしているのを横目で見ながら、私も1人でブラブラと広場を歩きまわることにした。
「グッズ先に買ってから食べ物買うかなぁ――……」
今日出店している飲食のラインナップをざっと見回し、ある程度購入する候補を絞ったところで、チームのグッズを販売している場所へ向かって移動する。
「前回の試合で発売になったタオルあるかなぁ……」
仕事の都合上、毎試合観戦出来ないし、友人知人にサッカーが好きな子もいない為、代わりに買ってもらうという手段も取れない。
完売していて買えなかったグッズも過去にはあった。
毎試合観戦できる人羨ましいなぁ……と思いながら歩いていると、
「あれ?高藤さん?」
と自身の名前を呼ばれ、声の方へ視線をやる。そこには長身の男性が私に向けて小さく手を振っていた。
職場の営業担当で来ている吉川恭二さんだ。
キリッとした眉に、前髪をラフにかき上げ、サイドに流れるようにしたオールバックで細身ではあるが男らしい人だ。
営業マンということもあるのか、ダークブラウン色の髪色をしている。
職場に来てもさわやかな笑顔で私たち店員に挨拶を交わし、職場の女性たちからは好印象しか持たれていない。
意外な人との遭遇に思わず声を上げてしまった。
「えっ!吉川さん?!」
吉川さんは私の方へ歩み寄り、笑顔で挨拶をしてくれた。
「こんにちわ。まさかこんなところで高藤さんに会うとは思わなかった」
「いえいえ!むしろ私の方こそ吉川さんにここで会うとは思いませんでした!」
観戦歴3年目にして初めて知っている人に会った事に驚きを隠せない。
何故なら、観戦しているクラブはプロチームで1~3部まである中の2部リーグ。
その中で観客動員数も平均3000人台だし、地元メディアの露出も少ないし、サッカーに興味ない人は今日ここで試合があるということも知らないだろうくらい知名度は低いのだ。
「今日は仕事休みなの?」
と吉川さんに尋ねられら首を縦に振る。
「あ、はい。試合見に行きたかったので今日は休みをいれました」
私の職場は書店でサービス業だから、土日は基本出勤なのだけど、月に1回は土日のどこか、それぞれ休み取ろうということで、皆と予定被らないよう相談しながら休みを入れている。
私はその休みをほぼ試合観戦に当てている。
「吉川さんのところは土日休みでしたっけ?」
たまに土日に店に来ていたような気がしたので訪ねてみる。
「たまに土日出勤あるけど、基本は休みだよ」
と吉川さんは答えてくれた。
試合は基本土日に開催だから土日休みっていうのは羨ましい。
「土日休み羨ましいです!私は月に1回休めるだけなので」
と私は苦笑する。
サービス業だからまだ月1で休み取れるだけありがたいと思わないといけないんだけどね。
「吉川さんは観戦は今日が初めてですか?」
吉川さんの今日の姿を見るに、黒のコートにワインレッドのマフラーをしていて、どこにもチームのグッズを身につけていないので、初めての観戦かなと思い訪ねてみたが、吉川さんは首を横に振り否定する。
「いや、今日で2回目。前回は友人から誘われて来たんだ」
「今日もお友達さんと来てるんですか?」
「いや、直前で出張が入ったらしくて来れなくなったんだ。俺の方はすでにチケットも買ってたし、無駄にするの勿体ないと思って今日は1人で来たんだ」
そう言って困った様な表情を見せる。
そして私を見て、
「高藤さんは……よく試合見にているの?それユニフォームだよね?友人が着ているのと一緒だ」
と言ってきた。
今日の私は、ヒートテックの上に選手が試合で着るユニフォームを着用し、黒のコートを着ている。
そしてバックにはチームマスコットのキーホルダー。
明らかに試合によく来ていてチームを応援していますというスタイルだ。
なので、頷きながら、
「そうですね、3年くらい前から試合見に来ています。でもユニフォーム買ったのは今年が初めてなんですよ。だからユニフォーム着たの今日が初めてなんです」
と答えた。
42試合あるうちの8試合くらいしか見に行けないのだが、試合見始めて3年目。
1年目は吉川さんのように私服で観戦し、2年目はチームのキーホルダーやタオルなどのグッズを身につけて観戦。
そして3年目の今年はユニフォームを買おうという気になって今年初めてユニフォームを購入したのだ。
ユニフォームのお値段約2万円。
高いっっっ!!!!
普段服にお金を掛けていない自分からすると、とても高くて購入するのにすごく勇気がいった。
10回も着て見に行けるかどうかわからないけれど、やっぱりユニフォームを着て観戦して応援したいなぁという気持ちが止まらなくて、意を決して購入した。
だからユニフォーム着ているということはチームを特に応援している人という見方になる。
まあ、私服の人でも何年もチーム応援しているという人もいるかもしれないがおそらく少数派だろう。
「そうなんだ。かわいいね」
と吉川さんはニコリと微笑んで褒めてくれた。
かわいいという単語がどれをさしているのか……私が可愛いと言って……る訳ないと心の中でツッコミ入れつつ、
「今年のユニフォームかわいいですよね。去年のはシンプルだったので」
とユニが可愛いって事だろうと思ってそう返事を返した。
毎年ユニフォームの柄はかわるのだが、今年は菱形の濃いオレンジと薄いオレンジのアーガイル柄で可愛い。
去年はオレンジの無地に縦線ラインが入っただけのシンプルなユニフォームだったから余計に今年のユニフォームが良く見える。
ユニフォームが発表されたのを見て、迷うことなく購入を決めたくらいだ。
吉川さんは、
「今日誰かと一緒?」
と聞いてきたので、私は、
「いいえ、1人で観戦です」
いつもとは言えずそう答えた。
すると、
「じゃあ一緒にみてもいい?今日は俺も1人だし。観戦初心者だから色々教えて?」
と吉川さんが言って来たので、せっかくの機会だし悩むことなく私は頷く。
「いいですよ!座席のチケットどれでとっていますか?」
と座席を確認する。
S席、A席とそれぞれ座る席によって場所が変わるため、吉川さんと一緒の座席のチケットである必要があるのだ。
「C席。高藤さんは?」
「私もC席です」
良かった。同じ席ならチケットの差額払う必要なかったと私はホッと一安心する。
「スタジアムの中に入る?それとも何か買ってから行く?」
という吉川さんの言葉に、
「あ、グッズ売り場行ってもいいですか?その後に食べ物買ってからスタジアム入りましょう!」
忘れずにタオル買わないと!
「じゃあグッズ売り場は……あぁ、あそこか。じゃあ一緒に行きましょうか」
吉川さんは自身の斜め前方向にグッズ売り場があるのがわかったようだ。
私はニコリと笑顔で頷き吉川さんとグッズ売り場に向かって一緒に歩いて行った。
私は観戦し始めて3年目にして、初めて一緒に観戦してくれる人と出会ったのだった。
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