とある一般人女性の日常

歌龍吟伶

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妖怪試食女

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昔々あるところに、試食女と呼ばれる妖怪がおったとさ。

試食あるところにその女あり。

開店直後から店内を彷徨きうろつき、あちらの店こちらの店へと渡り歩くことで有名であった。

ある時は他の客の波に紛れて。

またある時は死角から突如現れるその女は、販売員達から警戒されておった。

一言も発さず、日々試食を奪い去るだけの妖怪試食女。

常に黒い衣装を身にまとい、白粉おしろいを塗り真っ赤な紅を引いた唇が特徴として語り継がれている。

ーーーある日のことである。

とある販売員がいつものように試食を配りながら接客をしていると、妖怪試食女の姿が視界に入ったため、即座に食べ物を台の裏へと隠したのだ。

すると妖怪試食女は一度通り過ぎ、諦めたかに思えた。

しかし、販売員が一度反対方向へと顔を向け、再び振り向いた瞬間目の前には試食女が。

そして、


「すみませーん、それいただいてもよろしいですかぁ」


一度も声を発したことがなかった女から放たれた一言に固まる販売員。

常に無言で試食をさっと持ち去ることで有名だった女の声は妙に甲高く、正常な思考を奪われた販売員は試食を差し出してしまった。


「こちらの商品は…」


なんとか営業用の商品説明を口にする販売員。

それを頷きながら聞く試食女は、ゆっくりと試食を噛み締め味わうと、いつものように何も買わずにその場を立ち去った。

呆然と見送る販売員。

ふと我にかえり、


「…ねえ!今試食女が喋った!!」


興奮しながら同僚達に報告する。

すると同僚達も驚いた顔をして、


「へぇ…喋れたんだ」


そのような事を言っていた。

長年その姿を確認されているものの、誰も声を聞いたことがなかったのだ。

そしてそれ以来、さらに警戒を強めていたのだが。

ーーーまたある日の事である。

その日は普段配っている人気商品だけでなく、少し値段の高い新製品の試食を用意していた。

そこへ現れた試食女。


「いただいてもよろしいですかぁ」


甲高い声でそう言いながら手を伸ばしてくる試食女に、販売員はいつもの商品を差し出した。


(新製品を食わせてなるものか…これは高いし売りたいんだ)


そんな販売員の心を読んだのか、どうなのか。

試食女から放たれたのは、驚きの一言。


「あ、そちらをいただいてもよろしいですかぁ?」


なんという事か。

試食女は新製品のほうを欲したのだ。

販売員は営業用の笑顔を強張らせながら、やむを得ず新製品の試食を渡した。

無駄だと知りつつも説明をすると、やはり頷きながら聞く素振りを見せる試食女。

ゆっくりと咀嚼し飲み込むと、女は店内を見て回り始めた。

一周し、やはり何も買わずに出て行く妖怪試食女。


(あの女…どんどん知恵がついていく!)


販売員と妖怪試食女との戦いは、数年続いたとか-----
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