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エルクィード

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神殿から出たエルクィードは、魔の森を歩いていた。

好きなところへ瞬間移動できる彼だが、あえて実体を保ったままその足で歩く。

魔獣達はエルクィードが見えていないため、彼には反応せず共食いをしていた。

そんな魔獣達をすり抜けながら進むと、悲鳴が聞こえてくる。


「あああああああだすけでえええ」

「いだいいいいいいだいいいいい」


そこに居たのは人間の男女。

彼らは死ぬことを許されず、その身を魔獣に食べられ続ける刑を受けている。

何百年もの間繰り返される苦痛に精神が崩壊しており、目の前にエルクィードが立っても気づきはしない。

ただただ激痛を感じ続けるだけの存在となった彼らを見つめるエルクィードの目は、憎しみに満ちている。


「お前達は永久に許されない。僕が存在する限り、永遠に」


かつて〝両親〟と呼ばれていた二人が苦しむ姿を暫く眺めてから、エルクィードはふわりと飛んで移動した。

空高く飛び上がり、この箱庭を見渡す。

そして手のひらに小さな映像を映し出した。


「おねーちゃんまってー!」

「ここまでおいでー」


そこに映っているのは、幼い姉弟。


「…よかった、今世も幸せそうで」


それはかつて妹と弟だった魂が生まれ変わった姿。

エルクィードには人間だった過去がある。

酷い虐待を受けていた彼は、ある日魔王に救われた。

そして神にも目をつけられ、死後この箱庭の管理人となった彼は、一つだけ神々に願ったのだ…兄妹達の魂が何度生まれ変わっても幸せであるように、と。

その願いは叶えられ、この数百年間何度も幸せな人生を歩んでくれている。

優しい両親の元に生まれ、平和な時代を生きる…それは幼き日のエルクィードが望んでも得られなかったもの。

妹弟達の魂が救われているのを見ることが、エルクィードの幸せだった。


「さて、アイツらはどれくらいもつかな」


神殿に閉じ込めてきた人間達のことを思い浮かべ、ニヤリと笑うエルクィード。

飢えが先か、絶望に耐えられずに自ら命を経つか。

エルクィードは人間達に罰を与える事に快感を覚えているため、彼らの悲鳴に耳をすませる。

嘆き悲しみながら死んでいく様を見ることができる、それが箱庭の管理人特権だ。


「この役を引き受けてよかった」


代わりに輪廻の輪から外されたけれど、エルクィードは後悔していない。

二度と妹弟に会えない、それでもいいと言ったのは自分だから。


「奴らに永遠の苦しみを。その役割を担えるなら安いものだ」


森の奥で体を食われ続けている〝両親〟、そして時折送られてくる罪人達。

彼らに絶望を与えるたびに、過去の自分が報われるような気がして。

エルクィードは今日も笑う、罪人達の悲鳴を聞きながら。

楽しそうに。

幸せそうに。

箱庭を一人漂いながら---
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