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一歩進んで二歩下がる

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街に戻ったキール一行は、宿屋ではなく町医者を頼った。

魔王城に最も近い場所にあるこの街は、何度も襲撃を受けながら驚異的なスピードで復興を繰り返しており、医者も魔法関係の治療が上手いのだ。

しかし、何度も魔王軍にやられた患者を診てきた医者ですらトーマの状態は初めて見るもの。

さらには治癒魔法への拒絶反応も強く、手の施しようがなかった。


「キールさん…」


サーラは涙を流しトーマを手を握る…魔力を流し込まなければ触れても大丈夫のようだ。

医者に匙を投げられ、途方に暮れるキール達。


「本人の自己治癒力に任せるしかないのか…」


パトリックの時も数日掛かったが回復した。

今回は更に酷いため日数はかかるかも知れないが、目覚めるのを待つしかない。

その間散歩でもと言われたキールとアナスタシアだったが、さすがにトーマを心配し宿に篭っていた。

トーマの熱は三日間も続き、サーラが献身的に看護する日々。

熱が下がるとようやく赤いひび割れのような痕も薄くなっていき、肌の色も少しずつ元に戻り始めた。

トーマの体を拭こうとして力が足りずに悪戦苦闘するサーラ、そんな様子を見てアナスタシアが声をかける。


「サーラさん、わたくしが代わりますわ。少し休まれてください」


ほとんど寝ていないサーラはフラフラなのだ。

回復の兆しが見えてきたから治癒魔法も効くのではないかと期待したが、残念ながら未だにトーマの体は治療を拒んでいた。


「ありがとうございます…すみません、少し休んだら戻ります」


サーラは青白い顔でトーマから離れ、休憩を取りに行く。

彼女は自分がトーマの才能に気づいたせいだと思い、責任を感じていたのだ。


「サーラもだいぶ参っているな」


アナスタシアだけに看病はさせないと言ってキールもトーマの部屋に残っている。

キールがトーマの体を横向きにし、アナスタシアと二人掛かりで綺麗に拭いていく。

まだ肌は青紫で、所々赤くなっており痛々しかった。


「トーマさんは頑張り屋さんですわね…」


ポツリと呟くアナスタシアに、キールも同意する。


「そうだね…僕らの誘いを断っていれば関わらずに済んだのに。彼は勇敢だよ」


怖いから無理ですと言って逃げても良かったのだ。

しかしトーマは自分の能力を開花させたいと願い、見事に実現させた。

本人が望んだこととはいえ、戦ってもらっている身であるキールの心は痛む。


「早く元気になっておくれよ、トーマ。みんな待っているから」


キールの優しい声に、トーマの瞼がピクリと反応した。
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