少年王は妖艶な妃に恋をする

歌龍吟伶

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第36話

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メラニー騒動が終わり、東方で起きた不正事件の捜査も順調に進む中、イルヴィンドの生誕祭まで後数日。


「ミリスの領主解任は回避されそうだよ」


この日の仕事を終え、夕食後の会話時間。

イルヴィンドの報告にリラフィアは笑みを浮かべる。


「領民からの嘆願書がかなりの数集まったそうですね」


「うん。今まで守ってくれたからって、みんなミリスに感謝してたみたい」


不正の後ろめたさに苦しみながらも領土を守ってきたミリスは人気が高く、九割近い領民の嘆願書が送られてきた。


「僕も国民に好かれる王様にならなくちゃ!」


「うふふ、もう陛下は好かれる王になっておりますわ」


幼さに不安を抱くものも多いが、今まで握りつぶされていた嘆願書を一枚一枚確認し耳を傾ける姿は国民にも伝わり始め、支持率が急上昇しているのだ。


「生誕パレードも皆楽しみにしているようですよ」


その日は国民の休日となり、国全体で祝われる。

すでに城下町では大通り沿いの宿は予約が埋まり、酒の買い占めなども起きていた。


「そんなに大袈裟にしなくていいのになあ」


「陛下のお誕生日ですもの、おめでたい事です」


リラフィアは自分の時のサプライズのお返しとして、イルヴィンドへのプレゼントを内緒にしていた。

日が近づくにつれソワソワしていくイルヴィンドを可愛く思いながら、密かに散歩用のマントを縫っているのだ。


「ふぁあ…あいたたた…そろそろ寝ようか」


成長期らしく背が伸びているイルヴィンド、最近体が痛むようだ。


「はい。おやすみなさいませ、陛下」


相変わらず二人の夫婦生活は何もない、白い結婚が続いている。

しかし寝る前の挨拶に頬への口付けが加わったのは大きな進歩だった。


(本当にリラフィアは綺麗だよな…)


布団に入り目を閉じたリラフィアをこっそり観察するイルヴィンド。

透き通るような白い肌、化粧を落としているのに赤く色づいた唇。


(可愛い…触りたいなんて言ったら嫌な顔されちゃうかな)


その滑らかな肌に触れてみたい、そんな衝動が芽生え始めている自分にイルヴィンドは戸惑っていた。

一方のリラフィア。


(…なんだかとても見られている気がするわ)


イルヴィンドの視線を感じながら、目を開けたら驚かせるだろうと思い寝たふりをしていた。


(そろそろ触れてくれても良いと思うのだけれど。やはりわたくしに魅力を感じてくださらないのかしら)


歳上過ぎて駄目なのか、婚約者がいた身を穢らわしいと思われているのか。

肝心なところでお互いに自信のない夫婦は、この夜も悶々としながら遅くまで眠れずにいた。
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