少年王は妖艶な妃に恋をする

歌龍吟伶

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第2話

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イルヴィンドは申し訳なさと情けなさで泣きそうになる。


「いかがされましたか、陛下」


落ち込んでいる雰囲気を察し、リラフィアが顔を覗きこんできた。


「う、ううんなんでもないよ!」


イルヴィンドは誤魔化そうと無理やり笑顔を作って答えたが、リラフィアにはお見通しだったらしく美しい顔を歪められてしまう。


「…陛下、余計なことはお考えにならなくて結構ですわよ。今は国を安定させることに集中なさってください」


「わ、わかってるよ…大丈夫だから」


早く世継ぎを産め。

きっとそう言われて嫁がされたはずなのに、リラフィアはいつでも優しい。

イルヴィンドは益々泣きたくなったが、静かに朝食をとった。

朝食を終えイルヴィンドは執務室へと向かう。

軽く頬を触れ合わせて見送ったリラフィアは、扉を閉めてから小さく息を吐く。

そして先ほど溜息をついた女官を静かに睨みつけながら、扇子を突きつけた。


「女官長マーサ、陛下に圧力を与えるとは何様のつもりですか」


「も、申し訳ございません王妃様…決してそのようなつもりでは…」


「お黙りなさい。言い訳しないで頂戴」


毎晩毎晩、リラフィアが布団に潜り込むと身を硬くするイルヴィンド。

男として頼りなさ過ぎるし、リラフィアも女としての自信を失いそうになる。

嫌われているわけではないようだが、なかなか慣れてくれない夫にリラフィアとてヤキモキしているのだ。

それでも、少なくともあと2年ほどは掛かるだろうなと覚悟を決めている。

少しずつ自分に慣らしていこうとしているのに、毎朝女官長らに溜息をつかれて彼が萎縮してしまっているから厄介なのだ。


「わたくしの計画を台無しにしたら許さないわよ…」


リラフィアの小さな呟きを聞き取れなかったマーサは聞き返したが、再び睨まれ慌てて退室した。

リラフィアは初夜のことを思い出す。

彼は必死に頑張ろうとしてくれた…恐る恐る頬に触れ、かする程度のキスをくれて。


「本当にごめん…君が綺麗すぎて緊張するんだ…」


泣きながらそんなことを言われたら許すしかない。

結局、半年経ってもまだ慣れてくれないけれど。

あの日リラフィアは彼に言ったのだ。


「貴方にとっては政略結婚ですし、わたくしにとっても大きな役目を押し付けられた結婚ですけれど。なにも恋愛してはいけない決まりはありませんわ」


だから。


「夫婦内恋愛、致しましょう?」


そんな提案に目を丸くしてしたイルヴィンドの姿を思い出し、リラフィアは人知れず微笑みを浮かべるのであった。
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