『ダーク』押し入れの子供達は勇者と魔王どちらを選ぶ

歌龍吟伶

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魔王

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家の前に降り立った黒尽くめの男と、その周辺を固める者たち。

エリック達と違い、彼らにはツノや黒い翼がある。


「わ、すごーい!ねえエル、あの人たちてんしさま?」


天使というものをエルとアイから聞いた話でしか知らないハルは、自分たちと違う特徴を持つ彼らに興味を示す。


「奴らは天使などではない、魔族だ!」


エリックに叫ばれ、ハルは肩を震わせた。


「勇者に先を越されていたか…まあ我らがこの世界を滅ぼす事に変わりはないがな」

「黙れ魔王め!世界の扉は開かれてしまったが、貴様はこの私が倒す!」


剣を抜き斬りかかるエリックを、魔王と呼ばれた男が軽く避ける。


「遅い。人間如きが束になろうとも我らには敵わぬ」


エリックの部下達も次々と攻撃を仕掛けるか、魔王軍にアッサリと弾かれてしまった。

突然始まった戦いに身を寄せ合うエル達兄妹、すると魔王がエルの方を向く。


「…ほう、あれが鍵か」


そう呟いたかと思うと、次の瞬間には二階にいたエル達の目の前まで飛んできていた。


「!!」

「…鍵は…ああ、一番デカイお前か」


魔王はエルの頭を掴み立ち上がらせる。


「いっ…!」


痛みに顔が歪むが、それでもマイを落とすわけにいかないエルは必死に耐えた。


「やめろ魔王!子供を離せ!」

「ふん。世界の鍵を閉められないように始末するだけだ」

「鍵…その子が鍵だったのか…」

「気づかなかったのか?能無し勇者め」


エルの息の根を止めようと、その胸に爪を突き刺そうとする魔王。

その足にアイがしがみつき、必死に抵抗する。


「やめて!エルを離して!」

「邪魔なガキだな。お前から始末してやろう」

「ま…っ…て…!」


エルは声を絞り出した。


「おね…がい…他の子は…助けて」

「…ふん。どうせこの世界は滅びるのだ、死ぬ順番などどうでも良いではないか」

「それ…なら…」


せめて、願いを一つだけ。


「そいつら…を、先に殺して」


目で示すのは、階段の隅に逃げて震えている〝両親〟。


「…ほう?」

「そいつらが、死ぬのを見たい…それから僕を…殺してほしい」


普段の魔王ならば人間の頼みなど聞かない。

しかしこの時は、少年の言葉が気になってしまい手が止まった…そしてニヤリと笑い、エルから手を離す。


「そいつらはお前の何だ」

「…産んだ女と、今の男」

「母親の死を望むのか」

「…心から。」


真っ直ぐに魔王を見上げるエルと、頷くアイ。

魔王は笑った、楽しそうに、満足そうに。


「ははははは!!気に入ったぞ、鍵の子供。良いだろう、願いを叶えてやろう」


そう言うと魔王は〝両親〟の元へ行き、二人の首を掴む。


「あぐっ…!」

「くっ、はな…せ…!」

「さあ、どう料理する?」


殺し方を選ばせてやる。

振り向いた魔王にそう言われ、エルは。


「苦しめて…死ぬその時まで苦しめ…!」


10歳の子供にそんなことを言わせる程のことをしたのだ。

魔王は楽しげに笑い、まずは男を地面に落とす。


「ぐぁあ!」


助けようとするエリック達のことは魔王の部下が食い止め、魔王は男に火を放った。


「あああああ!!熱い!!死ぬ!!」

「死ね。それが子供の願いだそうだ」

「ちくしょおおおおおあああああああづいいいいい」


逃げ惑いたいのに、魔力で足を縫いつけられて動けない。

男が焼け死ぬのを待ち、次は震えている女を下に落とす。


「ギャァアアア!!た、たすけて!!誰か…!!」


エル達は静かに女を見ていた。

待ちに待った、死ぬその瞬間が見られるのだ。


「人間とは愚かで醜いな…だからこそ面白い」


魔王が放った炎が女を包み込んでいく…響き渡る女の悲鳴を聞いても、エル達が耳を塞ぐことも目を閉じる事もなかった。

やがて静かになり、〝両親〟だったモノは跡形もなく消滅。

見届けたエルの顔には、満足感と安堵の笑みが浮かんでいた。
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