上 下
9 / 16

第9話:魔女会議

しおりを挟む
魔女の集いへと向かったトゥリア。

顔を見せた彼女に、他の魔女たちが驚いた声をあげる。


「おや、トゥーリエの森のトゥリアじゃないか」


「お前さんが参加するなんて珍しい」


「槍でも降るのかね」


口々にからかってくる魔女たちに肩をすくめるトゥリア。


「ふん。ある意味ヤリが降るよ、戦争になるんだとさ」


穏やかではない発言、しかし魔女たちは気にしない。

長く生きてきた彼女たちは慣れっこなのだ。


「また戦争かい」


「人間どもは争いが好きだねえ」


「死にたくないって言うなら、まずは殺しをやめればいいのにねえ」


ケラケラ笑う魔女たちは、それぞれ使い魔やお気に入りの人間を連れている。

真っ赤な髪をした魔女サシェルは、可愛らしい顔立ちの少年を。

艶やかな黒髪の魔女ルリナは、二股の黒猫を。

妖艶な金髪魔女エリザベートは、整った顔立ちの青年を。

皆自慢するためにこの場に同行させているのだ。


「トゥリアはまだ趣味が変わらないのかい」


オジサマ好きを知っている面々が笑いながら言う。


「好みなんて人それぞれだろ、口出しするんじゃないよ」


顔を合わせるたびに嫌味を言われたり揶揄されるため、トゥリアは会議が嫌いなのだ。

30年に一度開かれる魔女会議は、使い魔などを自慢しあったり美しさを競ったりするだけのもの。

そういったものに興味がないトゥリアにとっては退屈で無意味で、初めて参加して以来ずっとサボっていた。


「戦争といえば、うちの近くの国が滅んだらしいよ」


「ああ、あそこはしょっちゅう戦争してたからね」


「勝ったのはドルグ王国だっけか、また国を吸収したのかい」


100年ほどの間に勢力を拡大してきているドルグ王国は、じわじわとトゥリアがいるヴァリス王国にも近づいてきている。

長年の天候不良で疲弊している上に間も無く内乱が起きる、ドルグの目がヴァリスに向かなければ良いが。

ヴィンセントのことを思い浮かべ、トゥリアは僅かな表情を曇らせた。


「まあそんなことより、あたしの新しい坊やを見ておくれよ」


サシェルが少年を見せびらかす。

幼い頃のヴィンセントを思い出させるような美少年だが、トゥリアは全く惹かれない。


「可愛いこと。どこで拾ったのさ」


「食糧難で売りに出されてたんだよ」


「おやおや、よく肥してやらないと」


注目を浴びる少年は、虚な表情で立っているだけ。


(…かわいそうに。もうすぐ食われるって分かってて諦めてるんだね)


サシェルは物理的な意味で食べるわけではないが、精気を吸い取られた人間は干からびてミイラになる。

一時的に拾われただけの命だと理解しているのだろう、少年の目に気力は見られない。


(あんな坊やから吸い取っても不味そうだけどね。あたしのほうがあんたらを理解できないわ)


エリザベートが連れている青年も、その美しい顔に力ない笑みを浮かべて立っているところを見ると近い将来訪れる死を覚悟しているのだろう。

青年を紹介していたエリザベートは、自慢げに豊満な胸を揺らす。


「相変わらず胸にばかり栄養がいくね」


「そのうち胸だけになるんじゃないかい」


他の魔女たちにからかわれても、エリザベートはご満悦だ。

トゥリアにとっては実りのない無駄な時間が過ぎていき、会議という名の茶会は終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水
恋愛
あのこはフリーライター。 そのお手伝いの副産物。 短い文章やら、メモやら、写真やら。 フィクションまたはファンクション。 相も変わらず性別不安定な面々。 ※意図的にキャラクターのほとんどは「あの子」「きみ」などで表現され、名前もなく、何タイプのキャラクターがいるのかも伏せてあります。

臣と野薔薇の恋愛事情

花咲蝶ちょ
恋愛
ハッピーエンドです。 オクテでオタクな年の差恋愛×オカルト体験なストーリー あやかしと神様の恋愛成就と祈り姫のキャラクターのスピンオフです。 そちらも読んでもらえると嬉しいです。 祈り姫☆恋日和で載せていて長くなったので別枠に移動しました。 2019/11/10 タイトルをオタクとオクテの恋愛事情から臣と野薔薇の恋愛事情に変えました。

枯れ専で何が悪い!

嘉ノ海祈
恋愛
 ―何かが違う。侯爵令嬢であるエリワイドはその違和感に頭を抱えていた。違うのだ。かっこいいと思う基準が。周りの令嬢は若くて顔の良い貴族令息に黄色い声を上げる中、エリワイドは一人節くれだったおじさま方の姿に見惚れていた。数多くの有名令息からの縁談も、おじさま好きであるエリワイドの心には響かない。もうすぐ迎える18歳になって初めての社交界で、婚約者をパートナーとして連れて行かなければならないエリワイドはずっと恋焦がれていたとある人物に婚約を申し込む。しかし、その人物は40年以上誰とも結婚をしていないくせ者だった。  絶対に彼と婚約をしたい侯爵令嬢と、絶対に婚約を結びたくない辺境伯の恋の攻防物語。 ※小説家になろうにも掲載しています。

サイコパス魔女だけど、風の魔王に溺愛されたから彼を利用することにしたよ。自分から彼を愛することはないだろうね

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
自称『悪い魔女』――性格に難ありな17歳の少女ジャンザは天涯孤独の魔女。 友達の王子様を籠絡しようと惚れ薬を作ったり、ストーカーのごとく行き先に先回りして偶然を装いご挨拶をする日々を送っている。 ある日決死の覚悟で魔物を召喚したら、なんと超美形の風の魔王が出てきて……。 風の魔王はジャンザを嫁にしようと割とマメに接してくるが、ジャンザはそれには気づかずかえって無意識イケメン的な溺愛言動で魔王をメロメロにしてしまう。風の魔王はMっ気のある風の魔王だった。 やがてジャンザの運命が明かされる時が来て。 それは敵だと思っていた組織の……お妃さま!? どこを切っても魔女と魔王がイチャイチャしているお話です。 コメディだったり、シリアスだったり。基本的にイチャラブ。 魔王は3話から登場。 お気に召していただけましたら、お気入り登録、よければ感想もお願いします! 番外編上げました!前編後編となります ・完結しました! ・小説家になろう様でも掲載います。 ・文章を適宜推敲しています。文章だけで、内容は変わりません。 ・ブックマーク登録ありがとうございます!評価もほんとにありがとうございます!嬉しいです! ・誤字あったら遠慮なく教えてくださると助かります!

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...