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第6章〜過去〜

第65話

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「お前が大人しく従うなら、仲間を返してやろう」


エリスはそう言うが、彼女らに見逃す気などない事をヴィンは知っていた。


「お前たちが約束を守る保証はない」


警戒を解かないヴィンを見て、エリスは肩をすくめる。


「ふん、信じないのは勝手だが、コイツが死ぬだけだぞ。取引をするつもりがあるから生かしておいてやったのに」


エリスが剣を抜きその剣先でイクスの足を突くと、イクスが僅かに動いた。

まだ息はある、ヴィンはエリスだけを見据えて会話を続ける。


「あの女はなぜ俺を連れてこいと?この場で殺したいはずだろう」


「女王陛下だ、無礼な言動は慎め!」


「俺を探している理由を、お前は知っているのか」


ヴィンの言葉に引っかかるものがあり顔を顰めるエリス。


「どう言う意味だ、私は陛下の信頼を得ている戦士だぞ。陛下のご命令が全てだ、理由などどうでもいい」


「そうか?気にならないのか?いつもならすぐに殺せと言うはずなのに、生捕にしろと言われたんだろう?」


理由を考えないのか、疑問を持たないのか。

そう目で問いかけるヴィンに、エリスは苛立ちを見せ始めた。


「くだらない話は終わりだ!従う気がないならコイツを殺してお前を捕らえる、それだけだ!」


エリスはそう叫ぶと剣を振り上げ、部下たちに命じようと口を開く。

その時、天井付近の窓が一斉に割れジェイたち仲間が飛び込んできた。

隙を窺っていたのだ、ジェイはイクスを吊るしている鎖に飛びつき、破壊。

落下したイクスをガイルが抱き止め、ヴィンも駆け寄る。


「ぅ…」


「大丈夫か、イクス」


「もうしわけ…ございません…」


「謝らなくていい。今は喋るな」


捕虜を奪還され、レークライド軍に動揺が走った。

しかし、


「狼狽えるな!全員一網打尽にしてくれる!」


エリスの一喝によりその瞳に闘志が戻る。


「愚かな、我らを敵に回して逃げ延びられると本気で思っているのか」


「負け戦だとは思っていない」


「外の連中はほとんど始末したから、援軍来るとしてももう少しかかるんじゃなーい」


ジェイの一言にエリスは目を見開く。


「な、馬鹿な…あの人数を倒したと言うのか?!」


アイルド共和国の軍も含めて、100人はいたはずなのに。

エリスは唇を噛み締めたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「これで勝てると思うなよ…お前たちの船が無事なわけがなかろう。今頃は残骸と化しているだろうさ!」


船命のガイルがピクリと反応し、ヴィンも外へ視線を向ける。

異変を知らせる合図は、聞こえない。
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