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第5章〜ライアン〜

第46話

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アンリと呼ばれ動きを止めたライアン。

信じられないものを見るような目でケルパ兵士を見つめている。


「まさか本当にアンリ・フォレスなのか?まさか…あの女を取り戻しにでも来たのか」


その言葉にライアンは目を見開き、ケルパ兵士に掴みかかった。


「セシルのことか?!ここにいるのか!!」


「ぐっ…なんだ、知らずにきたのか…は!馬鹿なやつだ」


「答えろ!セシルはどこにいる!!」


「…国王のところだ。行けるものなら行ってみろ、手遅れだがな」


ライアンは弾かれたようにケルパ国内へ目を向ける。

王城があるのは港町を抜け内陸地の更に中心部。

ギリリと奥歯を噛み締めるライアンを見て、ケルパ兵士は口の端を吊り上げた。


「案内してやろうか?そうだな、仲間を差し出すなら城まで連れて行ってやってもいい」


「何を…言ってる」


「会いたいんだろう、あの女に。城まで続く地下通路があるんだ、案内してやるぞ」


兵士の誘いに、ライアンは。


「…ごめんね」


小さく呟き、予想外の事態に驚いていたミュフィの腕を掴む。


「え?!ライちゃん、なにを」


「この女は船長のお気に入りだから、鉢合わせした時のために連れて行く」


声色も表情も、いつものライアンではない…それは完全に知らない男。

ケルパ兵士はこの隙に海賊団を捕らえようと周囲を見渡したが、呼んでいた海軍は全滅しておりケルパ国軍も壊滅状態。

今この場では勝ち目がないと判断し、仲間達の目を盗んでライアンたちを誘導することにした。


(馬鹿なやつだ…まあいい、俺はこんなところで死にたくないからな。テキトーなところで逃げさせてもらうぜ)


エリー達はミュフィが連れていかれるのを止めようと武器を手にしたが、ミュフィは首を振ってみんなを止める。


(ライちゃん…何があったの?)


豹変したライアンを見ても、彼女はまだ信じていたのだ…彼が仲間であることを。

ガイルたちもライアンの動きに気づいたが、まだ戦闘が終わっておらず船を離れられない。

戦闘の混乱に乗じて闇夜に消えていくのを視界の端に捉えながら、


「あいつ何してるんだ」


「おやおや…これは流石に予想外ですね」


「ヴィンに知らせないと…」


船を守ることを優先し、異常を知らせる閃光弾を空に放った。
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