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第2章〜航海〜

第10話

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初めての船旅。

ミュフィは船酔いでダウンしていた。


「うぅ…想像以上にキツイ」


次に停泊するのは1月後の予定と聞いている。

それまでは海の上での生活だ。

しかも、いつ戦闘になるかもわからない不安定な旅。

ミュフィは早速心が折れそうだった。

始めはミュフィにどう接していいか分からない様子だった船員たちも、すぐに受け入れてくれて船酔いした彼女を心配してくれている。

新入りのくせに足手まといだというのに、誰も咎めない。

申し訳なさでいっぱいだったが、思うように動けず…泣きたい気持ちを抑えながら必死に過ごすこと1週間。


「陸に上がるぞ」


なんとか洗濯物を取り込んでいたミュフィに、ヴィンがそう言った。


「え?!停泊はまだまだ先では??」


「…予定が変わった」


ヴィンはそれだけ言うと立ち去る。

その後からひょっこり顔を出した船員の一人が、一番心配していたのは船長だよと教えてくれた。

ヴィンはミュフィのために予定を変更してくれたのだ…航路近くにあった小さな無人島に立ち寄ることを決めてくれたらしい。


(ヴィンさん…)


彼の優しさに触れれば触れるほど、ミュフィは惹かれていく自分に気づく。


(だめだめ、これは勘違い!恋とかじゃないから!)


感謝を恋と錯覚しているだけだと自分に言い聞かせ、ミュフィは首を振った。

予想外の休憩だったが、船員たちは何も言わずに停泊の支度をする。

ミュフィは船大工のガイルの手を借りて陸に降り立った。

ガイルは身の丈2メートルを超える大男で、極端に口数が少なく笑顔を見せることもない。

いつも一人黙々と船の点検を行っているが、今回は足元がおぼつかないミュフィに手を貸してくれた。

船の男たちは好戦的で口の悪い者が多いが、皆心根は優しい。

大地を踏みしめ、久し振りに草木と触れ合う。

それだけでもスッと心が軽くなり体の調子も良くなった気がした。

船酔いもあるが、感情を押し殺して過ごしているのも不調の原因の一つなのだろう。


「歩いてたほうが楽なら、少し散歩してきな。洗濯はあたしらがやっておくから」


数少ない女乗組員たちの優しさに甘えてることにして、ミュフィは一人で島を歩きだす。
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