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第1章〜出会い〜

第7話

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「い、いえ!冷たくて気持ちよかったですし、美味しかったです!!ありがとうございます!!」


ミュフィは慌てて首を振る。

せっかくの厚意、彼が謝ることなどないのだ。

そもそも、港に停泊中とはいえ船の上。

氷はかなり貴重なもののはず。

それを船長自ら振舞ってくれたのだ、噂とは違い優しい男なのだと感じてた。


「色々と良くしていただいて、本当にありがとうございます」


ミュフィは心からの感謝を伝える。

笑顔のミュフィに、微かな笑みを向けるヴィン。

そこへ、コップを手にアルバが戻ってきた。

彼は室内に入ると棚から小瓶を1つ取り、粉をパラリとコップの中へ。


「体を温めます、ゆっくり飲んでください」


大した説明もなく差し出されたそれを、ミュフィはそっと受け取り口をつける。

そんなミュフィを見て、


「無用心ですね、私が入れたのが毒だったらどうするんです?」


サラリと言うアルバ。


「うぐっ?!」


ミュフィは噴きかけて口を押さえる。

ヴィンは、軽くむせるミュフィに布を渡しながらアルバを睨んだ。


「からかってやるなよ。この娘はミュフィ、さっき買ってきた。今日からこの船に乗る」


ヴィンの説明に、アルバは僅かに驚いた顔を見せる。
しかしその顔はすぐに薄い笑みに変わり、


「そうですか、了解しました」


それだけ言うと再び棚の整理に戻る。

もう話すことはない、背中でそう言っているようだった。


「ミュフィ、立てるか?」


ヴィンに促され部屋を後にする。

ドアを閉める前、


「食事は消化にいいものを少量ずつゆっくりと。その様子では急な飲食に耐えられないでしょう、気をつけてくださいね」

アルバがそう忠告してきた。


「…ああ、カーシャに伝える」


ヴィンは頷いてドアを閉めた。


「…カーシャさん、って?」


まだ会っていない人物の名前。

尋ねるミュフィに、ヴィンは振り向くことなく答える。


「料理番だ。普段は大人数が腹を満たせるように作るからな、別メニューになるならあらかじめ伝えておかないといけない」


他の船員たちの視線を浴びながら少し歩いた先のドアを開けると、中は熱気と料理の匂い。
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