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番外編:バレンタイン
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第二子妊娠中のシズリアは、キリアとお茶をしていた。
「ばれんたいん?」
「ええ、好きな人にチョコレートを贈る日なの。元々は男性から女性へ下着を贈っていたらしいのだけれど、今では友人や世話になった人にもチョコレートを贈ったりするのよ」
この世界にはない習慣のため、シズリアは説明する。
いままで気にしたことがなかったのだが、自分のことを愛し支えてくれているジークハルトにお礼がしたい…との思いから今年はバレンタインらしいことをしてみようと考えたのだ。
「面白い習慣ですね~、わざわざその日でなくても普段から想いを伝えれば良いのに…」
キリアには理解できない行事だったが、シズリアがやりたいと言うなら協力するだけ。
しかし…
「ジークハルト様はあまり甘いものが好きではないから、コーヒーを混ぜたクッキーにしようかしら。たくさん作って、お義父様やクラウス達にも贈りましょう」
(ああ…やっと特別なことをしてもらえると思ったら結局みんなと一緒。ジーク様が知ったらガッカリしそうね)
計画を聞きながらジークハルトに同情してしまう。
きっと、シズリアのことだから素直に説明するに違いない。
持ち上げて落とされるであろうジークハルトの気持ちを思うと、キリアは少しだけ可哀想な気持ちになった。
(ま、いつものことね。シズリア様なりにジーク様の事を思っての事だし)
シズリアが楽しそうにしているのだからそれで良い。
キリアはジークハルトには内緒で材料を仕入れる約束をし、帰宅後夫に相談するのであった。
そして迎えた、当日。
朝目を覚ましたジークハルトは、なにやら甘い香りが漂っていることに気づく。
「…ん?なんだ?甘い朝食なのか?」
最近甘いものを好むようになった娘アイリスに合わせて、朝からパンケーキやフレンチトーストが並ぶことが増えてきたのだ。
正直ジークハルトにとってそういうものは朝食とは思えないのだが、愛娘のためならば仕方ない…そう思って我慢している。
しかし食事を取ろうと1階に行ってみると、そこに居たのはアイリスと侍女のみ。
妻シズリアの姿が見当たらない…
「おはよう、アイリス。お母様はどこだ?」
「おはようございます、おとうさま。おかあさまはね、キッチンにいるの。アイリスもおてつだいしたいのに、だめっていうの」
どういうことかわからないジークハルトに目で問われ、侍女が肩をすくめる。
「ひとまず朝食を召し上がってください、奥様は先に召し上がっておりますので」
「そんなに早く起きていたのか?一体何をしているのだ」
「とにかく、アイリス様と朝食を。キッチンを覗いてはなりませんよ」
何が何やら。
不貞腐れているアイリスの機嫌を取ることを優先しつつ、ジークハルトは首を傾げるばかりだ。
朝食を終えてもシズリアは現れず、アイリスがグズりだす。
「どうしておかあさまはきてくれないの?はやくあそんでほしいのに」
「お父様が遊んでやろう、何がしたい?」
「いや!おかあさまにだっこしてほしい!」
シズリアが居れば機嫌良くジークハルトにも懐いてみせるアイリスだが、ひとたび不機嫌モードになるとシズリアでなければ落ち着かせることができない。
父親拒否!嫌々モードになってしまったアイリスが本気泣きするかと思われた時、知らせを受けてシズリアが顔を見せた。
「アイリス!ごめんなさいね、寂しかったわね」
「おかあさま!」
「シズリア…一体何をしていたのだ?」
「おはようございます、ジークハルト様。すみません、もう少し早く終わると思ったのですけれど…」
コーヒーとチョコレートを混ぜて作った、甘さ控えめのクッキー。
ようやく全て焼き上がったのだが、つい作りすぎてしまい焼くだけで時間がかかってしまった。
後は少し冷まして、一人ずつ渡せるように箱に入れるだけ。
朝から手伝いに来てくれているキリアと侍女達に任せることにし、シズリアはアイリスを抱き上げる。
「ちゃんと朝ごはん食べたのね、偉いわアイリス。さあ、何して遊びましょうか」
「えっとね、おとうさまも遊んでくれるって!かくれんぼがいい!」
シズリアとジークハルトは、アイリスが求めるままに遊びに付き合った。
しばらくして急にスイッチが切れ眠りについたアイリス。
この隙に!とシズリアはバレンタインの準備に戻る。
「ジークハルト様、今のうちにお仕事をなさってくださいませ」
「あ、ああ…」
避けられている?
妻の言動を不審がりながらも仕事へ向かうジークハルト。
(すみませんジークハルト様…もう少しでお渡ししますからね)
心なしか落ち込んでいる様子の夫の背中を見送ってから、シズリアは食堂へ向かった。
そして昼食の時間になり、アイリスも目を覚まして再び家族が顔を合わせる。
「今日のお昼はお庭でとりましょう」
シズリアの提案で中庭へ出ると、そこにはキリア夫妻、サクリスとツェーザルの姿が。
更には、世界中を旅しているはずの両親まで揃っている。
「どういうことだ??」
「うふふ、ハッピーバレンタイン!です」
意味が分からないジークハルトの表情を見て、シズリアはイタズラが成功した子供のように笑った。
昼食と共に用意されたのは、一人一人に渡すためのクッキー。
それだけではなく、アイリスが喜ぶだろうということで作った大きなケーキ、クラウスが淹れた紅茶に合いそうなお茶菓子など。
パーティーのような豪華な準備がされていた。
「ばれんたいん、とはなんだ?」
「好きな人や、お世話になった人にチョコレートを贈る日なのです。なので、ジークハルト様や皆んなに私から贈りたくて準備しました」
好きな人…その表現にジークハルトの顔が緩む。
(お世話になった人、のほうにまとめられていないと信じたい)
そんな思いも浮かんだけれど、ジークハルトは満面の笑みでシズリアを抱きしめる。
「礼をしたほうがいいのか?」
「…来月、何かお返しする習慣があるのです」
「我が妻は何を強請ってくるのかな」
「何も。ジークハルト様が選んでくださったものが良いのです」
そんな可愛いことを言われたら。
人目がなければ口付けていたところだ。
ニヤケ顔が戻らないジークハルトは、その後参加者たちから突かれまくるのであった。
ーーーーーー------------------
お久しぶりの契約夫人です!
本当はクリスマスに番外編を書くつもりだったのですが書けず、ならばバレンタインにしてみよう!という事で書いてみました。
下書きを保存する前に全部消えてしまってかなりショックでしたが、なんとか書き終えることができて良かったです。
来月開催される恋愛小説対象にもエントリーしておりますので、投票してやっても良いよ!と思ってくださったら嬉しいです。
「ばれんたいん?」
「ええ、好きな人にチョコレートを贈る日なの。元々は男性から女性へ下着を贈っていたらしいのだけれど、今では友人や世話になった人にもチョコレートを贈ったりするのよ」
この世界にはない習慣のため、シズリアは説明する。
いままで気にしたことがなかったのだが、自分のことを愛し支えてくれているジークハルトにお礼がしたい…との思いから今年はバレンタインらしいことをしてみようと考えたのだ。
「面白い習慣ですね~、わざわざその日でなくても普段から想いを伝えれば良いのに…」
キリアには理解できない行事だったが、シズリアがやりたいと言うなら協力するだけ。
しかし…
「ジークハルト様はあまり甘いものが好きではないから、コーヒーを混ぜたクッキーにしようかしら。たくさん作って、お義父様やクラウス達にも贈りましょう」
(ああ…やっと特別なことをしてもらえると思ったら結局みんなと一緒。ジーク様が知ったらガッカリしそうね)
計画を聞きながらジークハルトに同情してしまう。
きっと、シズリアのことだから素直に説明するに違いない。
持ち上げて落とされるであろうジークハルトの気持ちを思うと、キリアは少しだけ可哀想な気持ちになった。
(ま、いつものことね。シズリア様なりにジーク様の事を思っての事だし)
シズリアが楽しそうにしているのだからそれで良い。
キリアはジークハルトには内緒で材料を仕入れる約束をし、帰宅後夫に相談するのであった。
そして迎えた、当日。
朝目を覚ましたジークハルトは、なにやら甘い香りが漂っていることに気づく。
「…ん?なんだ?甘い朝食なのか?」
最近甘いものを好むようになった娘アイリスに合わせて、朝からパンケーキやフレンチトーストが並ぶことが増えてきたのだ。
正直ジークハルトにとってそういうものは朝食とは思えないのだが、愛娘のためならば仕方ない…そう思って我慢している。
しかし食事を取ろうと1階に行ってみると、そこに居たのはアイリスと侍女のみ。
妻シズリアの姿が見当たらない…
「おはよう、アイリス。お母様はどこだ?」
「おはようございます、おとうさま。おかあさまはね、キッチンにいるの。アイリスもおてつだいしたいのに、だめっていうの」
どういうことかわからないジークハルトに目で問われ、侍女が肩をすくめる。
「ひとまず朝食を召し上がってください、奥様は先に召し上がっておりますので」
「そんなに早く起きていたのか?一体何をしているのだ」
「とにかく、アイリス様と朝食を。キッチンを覗いてはなりませんよ」
何が何やら。
不貞腐れているアイリスの機嫌を取ることを優先しつつ、ジークハルトは首を傾げるばかりだ。
朝食を終えてもシズリアは現れず、アイリスがグズりだす。
「どうしておかあさまはきてくれないの?はやくあそんでほしいのに」
「お父様が遊んでやろう、何がしたい?」
「いや!おかあさまにだっこしてほしい!」
シズリアが居れば機嫌良くジークハルトにも懐いてみせるアイリスだが、ひとたび不機嫌モードになるとシズリアでなければ落ち着かせることができない。
父親拒否!嫌々モードになってしまったアイリスが本気泣きするかと思われた時、知らせを受けてシズリアが顔を見せた。
「アイリス!ごめんなさいね、寂しかったわね」
「おかあさま!」
「シズリア…一体何をしていたのだ?」
「おはようございます、ジークハルト様。すみません、もう少し早く終わると思ったのですけれど…」
コーヒーとチョコレートを混ぜて作った、甘さ控えめのクッキー。
ようやく全て焼き上がったのだが、つい作りすぎてしまい焼くだけで時間がかかってしまった。
後は少し冷まして、一人ずつ渡せるように箱に入れるだけ。
朝から手伝いに来てくれているキリアと侍女達に任せることにし、シズリアはアイリスを抱き上げる。
「ちゃんと朝ごはん食べたのね、偉いわアイリス。さあ、何して遊びましょうか」
「えっとね、おとうさまも遊んでくれるって!かくれんぼがいい!」
シズリアとジークハルトは、アイリスが求めるままに遊びに付き合った。
しばらくして急にスイッチが切れ眠りについたアイリス。
この隙に!とシズリアはバレンタインの準備に戻る。
「ジークハルト様、今のうちにお仕事をなさってくださいませ」
「あ、ああ…」
避けられている?
妻の言動を不審がりながらも仕事へ向かうジークハルト。
(すみませんジークハルト様…もう少しでお渡ししますからね)
心なしか落ち込んでいる様子の夫の背中を見送ってから、シズリアは食堂へ向かった。
そして昼食の時間になり、アイリスも目を覚まして再び家族が顔を合わせる。
「今日のお昼はお庭でとりましょう」
シズリアの提案で中庭へ出ると、そこにはキリア夫妻、サクリスとツェーザルの姿が。
更には、世界中を旅しているはずの両親まで揃っている。
「どういうことだ??」
「うふふ、ハッピーバレンタイン!です」
意味が分からないジークハルトの表情を見て、シズリアはイタズラが成功した子供のように笑った。
昼食と共に用意されたのは、一人一人に渡すためのクッキー。
それだけではなく、アイリスが喜ぶだろうということで作った大きなケーキ、クラウスが淹れた紅茶に合いそうなお茶菓子など。
パーティーのような豪華な準備がされていた。
「ばれんたいん、とはなんだ?」
「好きな人や、お世話になった人にチョコレートを贈る日なのです。なので、ジークハルト様や皆んなに私から贈りたくて準備しました」
好きな人…その表現にジークハルトの顔が緩む。
(お世話になった人、のほうにまとめられていないと信じたい)
そんな思いも浮かんだけれど、ジークハルトは満面の笑みでシズリアを抱きしめる。
「礼をしたほうがいいのか?」
「…来月、何かお返しする習慣があるのです」
「我が妻は何を強請ってくるのかな」
「何も。ジークハルト様が選んでくださったものが良いのです」
そんな可愛いことを言われたら。
人目がなければ口付けていたところだ。
ニヤケ顔が戻らないジークハルトは、その後参加者たちから突かれまくるのであった。
ーーーーーー------------------
お久しぶりの契約夫人です!
本当はクリスマスに番外編を書くつもりだったのですが書けず、ならばバレンタインにしてみよう!という事で書いてみました。
下書きを保存する前に全部消えてしまってかなりショックでしたが、なんとか書き終えることができて良かったです。
来月開催される恋愛小説対象にもエントリーしておりますので、投票してやっても良いよ!と思ってくださったら嬉しいです。
応援ありがとうございます!
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