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第64話:シズリアのままで

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「シズリアが異世界人…ジークハルトは知っていたのね」


不思議な娘だと思ってはいたけれど、まさかこの世界の人間ではなかったとは。

ディアナは驚きを抑え、二人を見つめる。


「知っていました。出会ったその日に全ての事情を聞き、彼女に契約を提案したのは私です」

「…契約?」

「…婚約者を演じ、妻を演じ、子を成すこと。全て契約した事です」


予想を超える事実に言葉を無くしたのは両親だけでなく、国王達も目を見開きジークハルトを見た。

そして、パシンッと室内に響き渡る乾いた破裂音。

ディアナがジークハルトの頬を平手打ちしたのだ。


「ジークハルト様!…申し訳ございませんお義母様、私がそれで良いと言ったのです。お金で体を売ったのは私です、どうかジークハルト様を責めないでください」

「シズリアは悪くない、俺が言い出した事だ」

「断らなかったのは私の意思です、お金のためだと言い続けたのは私です」


涙を流しジークハルトの頬を撫でるシズリアと、彼女を見つめるジークハルト。

二人の様子は演技に見えない…どこまでが真実なのか、ディアナが問いかけた。


「…始まりの経緯は分かりました。大切なのは今、そしてこれからです。お互いをどう思っているの?」

「俺はシズリアを愛してる」

「私は…」

「素直に言ってくれて良い」

「…ごめんなさい、まだ分かりません」


ジークハルトの事を大切だと思う気持ちはある。

しかしそれが恋なのか、依存なのか。

もはや判断できないところまで来てしまったシズリアには、分からないとしか言いようがないのだ。

ディアナはため息を吐くとジークハルトからシズリアを引き離し、その体を抱きしめた。


「お義母さま…」

「嫌ではない、のね?」

「はい」

「馬鹿息子が変な事を言い出したせいで貴女を縛り付けてしまったのね。ごめんなさい」

「そんな事ありません、ずっと大切にしてくれました」

「嫌いだと思ったら遠慮せずに言いなさいね、わたくしがお仕置きしてあげますから」


真実を知った上で受け入れる姿勢を見せるディアナと、同じように微笑むディルク。

国王らにも見守られ、シズリアは暫く泣き続けた。

ディアナは言う。


「貴女がシズリアでいたいなら、そのままでいいのよ。元の世界には戻してあげられないだろうから、生きる場所を提供するのがわたくしたちの務めだわ。ジークハルトの側で良いのね?」

「はい」


そこは迷いなく答えるシズリアに、安心するディアナ。


「アイリスを産んでくれてありがとう、ジークハルトに愛を教えてくれてありがとう。貴女が望むものがあれば何でも言って頂戴、これからはわたくしたちが返す番だわ」

「私は…このままでいられたら、それで満足です」


大切にしてくれる夫と可愛い娘、そして優しい両親。

支えてくれる使用人達と、見守ってくれた王家の人々。

これ以上ないほど恵まれていたのだと、今初めて実感するシズリアであった。
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