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第45話:何にでもなりたい夫
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帰りの馬車の中で、ジークハルトはシズリアの手をしっかりと握っていた。
「体勢は辛くないか」
「大丈夫です」
「寒くないか」
「大丈夫です」
またもやオカン化しているジークハルトの様子に笑みを浮かべながら、シズリアはその手の温もりを感じ安心している自分に気づく。
(そういえば、ちゃんとした話ってしてなかったのかもしれない。言われたらすぐやる!って刷り込まれたたからあんまり余計なこと言えないと思ってたし)
仮とはいえ夫婦なのだから、もっと歩み寄って良かったのだ。
「ふふ…」
情けないような、恥ずかしいような。
心がムズムズして笑い出すシズリア。
「今度はどうした」
「もっと早く、ちゃんとお話ししていれば良かったのかなと思いまして」
「そうだな…今からでも遅くなければ、これからはきちんと話そう」
寄り添う姿勢を見せてくれるジークハルトの優しさが嬉しくて、シズリアは彼の肩に頭を預ける。
馬車の揺れも相まってうとうとし始めたシズリアを、ジークハルトは優しく見つめていた。
(俺の勝手に付き合わせたのが始まりとはいえ、ここまできたんだ。支えられるような夫になる努力をしないとな)
シズリアと生まれてくる子供のために。
恥ずかしくない男になろうと心に誓うジークハルト。
屋敷に戻ってもシズリアが目を覚さなかったため、そっと抱き上げ部屋へ運ぶ。
公爵夫人とは思えないほど質素な部屋、金が好きでも無駄遣いはしない。
そこがシズリアの良いところだなと頬を緩ませていたジークハルトは、机の上にまとめられた手紙の束に気づいた。
複数人からの手紙、全て見覚えのある貴族令嬢らの名前。
勝手に見るのは良くない事と知りながらも一通開いてみると…
(なんだこれは…庶民だから体で誘惑するのが上手い?何人もの男に囲まれて満足だろう?病弱なら今すぐ公爵家から出て行け?)
内容は酷いもので、とても令嬢が書いたとは思えないほどの文面も見られた。
他の手紙も開いてみると、どれも定型分なのかというくらい似通っている。
(こんな手紙が届いていたのか)
キリアからもそのような報告は無かった、恐らくは内緒にして一人で抱え込んでいたのだろう。
まだ妊娠を公表していないため、体調不良で茶会を欠席した事で病弱なのかと責められてしまったようだ。
(シズリア…お前一人に戦わせはしない)
支える柱となり、守る盾となり、敵がいるならば剣にもなろう。
嫌がらせの手紙全てに素早く目を通し完全に頭に入れると、ジークハルトは眠るシズリアの額にそっと口付けた。
「これからはもっと頼ってもらうぞ」
その囁きがシズリアに届かないと分かっていても。
確かな決意を胸に、ジークハルトは部屋を後にした。
「体勢は辛くないか」
「大丈夫です」
「寒くないか」
「大丈夫です」
またもやオカン化しているジークハルトの様子に笑みを浮かべながら、シズリアはその手の温もりを感じ安心している自分に気づく。
(そういえば、ちゃんとした話ってしてなかったのかもしれない。言われたらすぐやる!って刷り込まれたたからあんまり余計なこと言えないと思ってたし)
仮とはいえ夫婦なのだから、もっと歩み寄って良かったのだ。
「ふふ…」
情けないような、恥ずかしいような。
心がムズムズして笑い出すシズリア。
「今度はどうした」
「もっと早く、ちゃんとお話ししていれば良かったのかなと思いまして」
「そうだな…今からでも遅くなければ、これからはきちんと話そう」
寄り添う姿勢を見せてくれるジークハルトの優しさが嬉しくて、シズリアは彼の肩に頭を預ける。
馬車の揺れも相まってうとうとし始めたシズリアを、ジークハルトは優しく見つめていた。
(俺の勝手に付き合わせたのが始まりとはいえ、ここまできたんだ。支えられるような夫になる努力をしないとな)
シズリアと生まれてくる子供のために。
恥ずかしくない男になろうと心に誓うジークハルト。
屋敷に戻ってもシズリアが目を覚さなかったため、そっと抱き上げ部屋へ運ぶ。
公爵夫人とは思えないほど質素な部屋、金が好きでも無駄遣いはしない。
そこがシズリアの良いところだなと頬を緩ませていたジークハルトは、机の上にまとめられた手紙の束に気づいた。
複数人からの手紙、全て見覚えのある貴族令嬢らの名前。
勝手に見るのは良くない事と知りながらも一通開いてみると…
(なんだこれは…庶民だから体で誘惑するのが上手い?何人もの男に囲まれて満足だろう?病弱なら今すぐ公爵家から出て行け?)
内容は酷いもので、とても令嬢が書いたとは思えないほどの文面も見られた。
他の手紙も開いてみると、どれも定型分なのかというくらい似通っている。
(こんな手紙が届いていたのか)
キリアからもそのような報告は無かった、恐らくは内緒にして一人で抱え込んでいたのだろう。
まだ妊娠を公表していないため、体調不良で茶会を欠席した事で病弱なのかと責められてしまったようだ。
(シズリア…お前一人に戦わせはしない)
支える柱となり、守る盾となり、敵がいるならば剣にもなろう。
嫌がらせの手紙全てに素早く目を通し完全に頭に入れると、ジークハルトは眠るシズリアの額にそっと口付けた。
「これからはもっと頼ってもらうぞ」
その囁きがシズリアに届かないと分かっていても。
確かな決意を胸に、ジークハルトは部屋を後にした。
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