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第42話:歩み寄り

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キリアの直談判から数日。

今日はキリアが休みをとっているため、ジークハルトは最低限の仕事だけ終わらせるとシズリアの部屋へ向かった。

コンコン

部屋を開けてくれたのは侍女のマリン、詳しい事情を知らせていないためシズリアと二人きりにしてほしいと告げ人払する。


「どうされましたか、何か問題が起きたのですか?」


わざわざ日中に訪ねてくるなんて、と不思議がるシズリア。


「いや…様子を見にきただけだ」


ジークハルトの言葉に、シズリアはさらに首を傾げた。


「まあ、珍しい…ご心配いただきありがとうございます、今のところお腹の子は順調ですよ」


金を払ってまで産ませたい子供のことが心配なのだろうと結論づけ、シズリアは微笑んでみせる。

しかしジークハルトは眉を寄せ、落ち着かない様子で室内に視線を彷徨わせた。


「いや、まあ…それは良い事だが」

「他に何か??」

「…キリアが、お前の様子がおかしいと心配していた。何かしたい事やして欲しいことがあれば、なんでも言ってくれ」


シズリアは目を丸くする。

すっかり仲違いしてしまったと思っていたのに、ジークハルトに相談するほど心配をかけていたのか。


「キリアが…そういえばここ数日、今まで以上にあれこれ聞いてくれると思ってました」

「お前が金を数えたり独り言を言ったりしていて心配だと言っていたぞ」

「…そんなに変ですか?」


生まれつきお金持ちのジークハルトや、その側に居続けているキリアには貧乏人の心がわからないのか。

そもそも誰にでもお金風呂やお金布団などという願望があるわけではないのだが、シズリアは子供の頃に読んだ変な本に影響されているのだ。

落ち込むシズリアにジークハルトは笑みを向ける。


「驚いただけさ、俺も慣れたしキリアもすぐに慣れる」

「慣れる必要があるくらい変って事でしょう?」

「む…そうとも言えるか」

「お金広げちゃいけないのかしら…」

「いや、そうではなく…いや、そうなのか?」


ジークハルトは混乱してきた!

労いに来たのに空気が重くなっていく、慌てて明るく振る舞い始めるジークハルト。


「そうだ、音楽は好きか?神殿の聖歌隊に頼めば来てくれるぞ。それに、街にサーカスが来ているらしい。興味があるなら少し出掛けてみるか?」


シズリアは顔を上げ、サーカス…と食いつく。


「外に出た方が気が紛れる気がするんです、見に行ってみたいです」

「そうか、今からでも大丈夫そうか?」

「お仕事はよろしいのですか?」

「急ぎの仕事は終えてある。クラウスを残していくから大丈夫だ」


気晴らしがしたかったシズリアは頷き、侍女らを呼び戻して出掛ける支度を始めた。


(これは任務外?普通のデート?)


そういえば二人で出掛けるといえば茶会や行事など、いわば戦場のみ。

自分のために出掛けてくれるのは初めてだと気づき、シズリアの心はほんのりと暖かくなった。
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