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第36話:一方、エレナは

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シズリアと街中で会って以降のエレナは、毎日苛立っていた。

当初の予定では、ハンカチを拾うのはシズリアだと思っていたのに。

侍女が拾って怪我をしたのは予想外だったが、事前に打ち合わせした通りに取り巻きたちが駆けつけてくれた。


「どうなってるのよ、リノン達は何をしているの!?」


元々あの場でどうにか出来るとは思っていなかったため、数日後に茶会を開いてシズリアへの疑惑を広めるつもりだったのに。


「怪しい、自作自演でわたくしを虐めようとした…そう口裏を合わせろと言っておいたのに!!」


取り巻きであるリノン、シャーリー、ミランダ。

三人のうちシャーリーが茶会を欠席、他の二人は曖昧に相槌を打つだけで話に乗ってこなかったのだ。

それぞれ別々にも噂を流せと命じておいたのに、それもした様子がない。

まさか三人ともがツェーザルの虜になっているとは知らず、エレナは部屋で物に当たり散らす。


「役立たずなんだから!もう優遇してあげないわ、お父様に言いつけてやる!!」


そこへ父の帰宅を知らせに使用人が来たため、エレナは部屋を飛び出した。


「お父様!」

「…ああ、エレナ」


浮かない顔の父を見て不安になるエレナ。


「どうなさいましたの、本日はジークハルト様が爵位に就かれたのですよね」


まさかあの騒動について王の前で何か言ったのだろうか。

青ざめるエレナに対し、父バリアン•カーチェスの顔は怒りで赤く染まっていく。


「陛下があの夫人に耳飾りを授けられたのだ!!しかも王妃からだという!!」

「な、何ですって…両陛下から、あの女に?」

「何故だ、何故陛下はランカスター家を贔屓するのだ…昔からいつもいつも!!私が宰相になった時よりも、あの息子が手柄を立てた時の方が喜ばれる!!」


バリアンは昔からランカスター家の当主ディルクに嫉妬していた。

公爵家に生まれ、頭が良くて王の相談もよく受けていて。

お人好しだけれど、そこが人々から愛されていたディルク。

男勝りだったディアナはバリアンにとって憧れの女だったが、一目惚れだと言ってあっさり二人はくっついてしまった。


(ディアナ…お前を手に入れるための努力は無駄だったが、お陰で宰相になれた。顔と実家の財力で選んだ女は美しい娘を産んでくれた。後はお前の息子を手に入れれば、ディルクを消し去りお前を手に入れるつもりだったのに…!)


バリアンの妻は3年ほど前に病死しているが、実はバリアンが毒を盛ったということを知るのは本人のみ。

歪んだ初恋と失恋を引きずり続けた男、それがバリアンだった。


「エレナ!お前ももっと努力をしろ!!陛下に認められるのだ、あんな薄汚い庶民出の女に負けることなど許さん!!」

「お父様…でも、ミノン達が役に立たなくて…約束が違うのよ、あんな子達もういらないわ!」

「分かった、奴らへの支援は打ち切る。とにかく早く陛下に認められるような事をするんだ。いいな、一刻も早く陛下から贈り物を賜るのだぞ!!」


父が最後に褒めてくれたのはいつだっただろうか。

王立学校を卒業したときも、当たり前だと言われて冷たかった…

幼き日の寂しさはシズリアへの憎しみに変換され、エレナもまた嫉妬の沼に身を沈めていく。
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