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第25話:引っ越し当日の邪魔
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荷造りでバタバタしていると二ヶ月などあっという間に過ぎ、ついにランカスター家の本宅と別宅が入れ替わる日が来た。
すでに両親の荷物で空き部屋が埋まってしまった屋敷に、更に荷物を持ってくるつもりらしい。
「…大丈夫なのでしょうか」
「知らん。俺は何度も連絡したんだ、聞かないあの人達が悪い」
ジークハルトは諦めの表情。
先にジークハルトとシズリアが本宅へ行き、昼食を家族全員でとってから両親が別宅へ移る予定だ。
荷物の一部と共に本宅勤めだった侍女三人が来たのを見届け、最後の荷物と共に馬車五台で本宅へ向かう。
貴族街の奥、最も王城に近い場所にあるのがランカスター家の本宅。
(はぁ…何度見ても立派過ぎて、今日からここに住むなんて信じられない)
何度か招かれて訪れたことがあるが、あくまでもお客さん扱い。
今日からシズリアはここでジークハルトと暮らすことになる。
門には護衛と、継続して働く住み込みの使用人らが並んでいた。
「お帰りなさいませ、ジークハルト様。シズリア様」
「…ああ。父上達は?」
「…それが…」
顔を見合わせる使用人達。
どうしたのかと問おうとした、その時。
「ジークハルト様!」
屋敷の中から、何故かエレナが現れたのだ。
「…エレナ嬢?何故ここに?」
「ジークハルト様が此方に戻ってらして、爵位を継がれると伺いまして。真っ先にお祝いしたいと思い訪問させていただきましたの」
(…諦めてなかったのね。だからって、引っ越し当日に来る?)
驚きと呆れで言葉を失うジークハルトとシズリア。
するとエレナの後ろにいたディアナが口を開いた。
「お祝いにってお茶を持ってきてくれたのよ。でももうお帰りいただくわ、二人ともご挨拶してね」
いつものようににっこりと微笑んでいるように見えるが、目が笑っていない。
母にとっても招かれざる客でありかなり怒っていると感じ、ジークハルトはエレナに向き直る。
「わざわざありがとうございました、後日妻と共にお礼させていただきます」
さっさと帰れ、無表情ながらジークハルトの目は冷たい。
しかしエレナは首を傾げ、
「是非お茶をご一緒にと思いましたのに…お時間いただけませんの?」
上目遣いで強請る。
それを許さなかったのは、ディアナ。
「まあエレナ様、わたくしたちは今から家族水入らずの時間を過ごす予定ですの。夜にはまた別々に暮らすのですから、貴重な家族時間を楽しませてくださいませ」
邪魔だと言葉に出さなくとも、ディアナの笑顔がそう告げている。
おっとりしていて優しい淑女、というのが貴族間でのディアナの印象。
エレナも子供の頃から何度も顔を合わせていて、特に厳しくされたこともなく。
だから強引に押し掛ければ邪魔ができると思ったのだろう、しかし本来のディアナは気が強く、若い頃はかなり男勝りで御転婆だった。
息子夫婦に割って入ろうと引っ越し当日に押しかけてくるような非常識なエレナに負けるはずがない。
「後日、お茶のお礼としてお茶菓子を贈りますわね。本日はお越しくださりありがとうございました、次はご連絡頂ければおもてなしいたしますわ」
そう言うとディアナは使用人にエレナを馬車まで送るよう命じる。
「馬車は裏で待ってらっしゃるのよね、すぐお呼びして。」
「はい、直ちに」
走り去る使用人を見て、悔しげに顔を歪めるエレナ。
しかしこれ以上ゴネても無駄だと悟り、笑顔を取り繕うと優雅に一礼し去っていった。
すでに両親の荷物で空き部屋が埋まってしまった屋敷に、更に荷物を持ってくるつもりらしい。
「…大丈夫なのでしょうか」
「知らん。俺は何度も連絡したんだ、聞かないあの人達が悪い」
ジークハルトは諦めの表情。
先にジークハルトとシズリアが本宅へ行き、昼食を家族全員でとってから両親が別宅へ移る予定だ。
荷物の一部と共に本宅勤めだった侍女三人が来たのを見届け、最後の荷物と共に馬車五台で本宅へ向かう。
貴族街の奥、最も王城に近い場所にあるのがランカスター家の本宅。
(はぁ…何度見ても立派過ぎて、今日からここに住むなんて信じられない)
何度か招かれて訪れたことがあるが、あくまでもお客さん扱い。
今日からシズリアはここでジークハルトと暮らすことになる。
門には護衛と、継続して働く住み込みの使用人らが並んでいた。
「お帰りなさいませ、ジークハルト様。シズリア様」
「…ああ。父上達は?」
「…それが…」
顔を見合わせる使用人達。
どうしたのかと問おうとした、その時。
「ジークハルト様!」
屋敷の中から、何故かエレナが現れたのだ。
「…エレナ嬢?何故ここに?」
「ジークハルト様が此方に戻ってらして、爵位を継がれると伺いまして。真っ先にお祝いしたいと思い訪問させていただきましたの」
(…諦めてなかったのね。だからって、引っ越し当日に来る?)
驚きと呆れで言葉を失うジークハルトとシズリア。
するとエレナの後ろにいたディアナが口を開いた。
「お祝いにってお茶を持ってきてくれたのよ。でももうお帰りいただくわ、二人ともご挨拶してね」
いつものようににっこりと微笑んでいるように見えるが、目が笑っていない。
母にとっても招かれざる客でありかなり怒っていると感じ、ジークハルトはエレナに向き直る。
「わざわざありがとうございました、後日妻と共にお礼させていただきます」
さっさと帰れ、無表情ながらジークハルトの目は冷たい。
しかしエレナは首を傾げ、
「是非お茶をご一緒にと思いましたのに…お時間いただけませんの?」
上目遣いで強請る。
それを許さなかったのは、ディアナ。
「まあエレナ様、わたくしたちは今から家族水入らずの時間を過ごす予定ですの。夜にはまた別々に暮らすのですから、貴重な家族時間を楽しませてくださいませ」
邪魔だと言葉に出さなくとも、ディアナの笑顔がそう告げている。
おっとりしていて優しい淑女、というのが貴族間でのディアナの印象。
エレナも子供の頃から何度も顔を合わせていて、特に厳しくされたこともなく。
だから強引に押し掛ければ邪魔ができると思ったのだろう、しかし本来のディアナは気が強く、若い頃はかなり男勝りで御転婆だった。
息子夫婦に割って入ろうと引っ越し当日に押しかけてくるような非常識なエレナに負けるはずがない。
「後日、お茶のお礼としてお茶菓子を贈りますわね。本日はお越しくださりありがとうございました、次はご連絡頂ければおもてなしいたしますわ」
そう言うとディアナは使用人にエレナを馬車まで送るよう命じる。
「馬車は裏で待ってらっしゃるのよね、すぐお呼びして。」
「はい、直ちに」
走り去る使用人を見て、悔しげに顔を歪めるエレナ。
しかしこれ以上ゴネても無駄だと悟り、笑顔を取り繕うと優雅に一礼し去っていった。
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