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第16話:腹を探る

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エレナ主催の茶会当日。

ジークハルトとシズリアは、互いの瞳の色のブローチを胸に飾り参加した。

他にも伯爵家の令嬢や大臣達の娘が呼ばれている。

とにかく仲良しアピール作戦、腕を組んで現れた二人を見たエレナの笑顔に力が入ったのをシズリアは見逃さない。


(さすが、噂通り表面上は笑顔のままね。いきなり仮面を外すようなヘマはしないか)


彼女が腹黒だという噂を知らなければ気にならない程度の表情の変化。

そして柔らかく微笑みながら婚約を祝う言葉を口にする姿は、ごく普通のお嬢様に見える。


「この度はご婚約おめでとうございます。お式は再来月でしたよね、お忙しい時にお呼びしてしまい申し訳ございません」

「いいえ、こちらこそご挨拶に伺えず申し訳ございませんでした。妻となるシズリア・ルペスです」

「お初にお目にかかります、本日はお招きいただきありがとうございます」


よろしくね、と差し出された手は小さくて滑らかで。

か弱い乙女の手と自分を比べてしまい、シズリアは少しだけ胸が痛んだ。


(嫌だわ、余計なこと考えてる場合じゃないのに。この子の悪い評判に引っ張られすぎたかな)


ジークハルトが一緒に来てくれたのだ、彼の顔に泥を塗るわけにはいかない。

完璧な婚約者を演じるべく、シズリアは笑みを浮かべることに全神経を注ぐ。


「どうぞ、おかけになって。本日のお茶は、以前ジークハルト様が美味しいとおっしゃっていたものを取り寄せましたの」


エレナの言葉に、ジークハルトは片眉を上げた。

覚えがないのか、曖昧な笑みを浮かべつつ礼を述べる。


「覚えていてくださったのですね、ありがとうございます」

「当然ですわ、ジークハルト様と過ごす時間はわたくしにとって大切な時間ですもの」

(おーっとイキナリきたぞ?)


匂わせ発言に興奮しながらも、シズリアは微笑みを絶やさない。

そして動揺していない事を強調するため、


「私が出会う前のジークハルト様のお話、是非聞きたいですわ。お茶の好み以外、どのようなお話をされましたの?」


過去を聞く余裕を見せつける。

エレナは微笑んだまま、おっとりとした口調で話し始めた。


「そうですわね、お仕事がない時は体を鍛えてらして、休憩時間に本を読むのがお好きで。何冊もお勧めの本を教えていただいて、ちょうど読み終わったところですの。また新しい本を教えていただきたいですわ」

「流行り物のような本は読みませんので、面白いとは思えませんが」

「あら、ジークハルト様と共有できることが楽しいのです」


婚約者の前だというのにあからさまに熱い視線を送るエレナ。

シズリアは考えながら口を開く。


「ジークハルト様のお部屋には難しい書がたくさんございますものね。どれも為になるものばかりで、私もよくお借りしますの」

(貴女の口振りだと借りたのではなく自分で用意しているようだし、私は直接部屋に行って借りられるアピール!これでどう出る?)

一瞬、性格が悪いのは自分の方なのではないかという考えがシズリアの頭をよぎる。

するとエレナは頬を染めながらこう言ったのだ。


「シズリア様が羨ましいですわ、ジークハルト様はわたくしの初恋の人ですのよ」


あっさりと想いを伝えてきたエレナに、ジークハルトの顔にも驚きが浮かぶ。
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