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第36話:その買い物は誰のため

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食事を終えたリューファは、次に雑貨屋へと向かった。

ガラス細工を扱っている店に入り、部屋に飾る置物をあれこれと手に取る。


「どれも綺麗で迷うな~」

「姫様の部屋に飾るのですか?」

「うーん、自分用もだけど…贈り物用も買いたいの。ルードヴィッヒはどういうものが好み?」


誰かに贈るつもりで選んでいるのか。

ルードヴィッヒの心にモヤがかかる。


「私は…置物を置く趣味がないので」

「こういうの、好きじゃない?」

「美しいとは思いますが」


この国で暮らすようになって十年以上経つが、ルードヴィッヒの私物は極端に少ない。

部屋を飾る趣味もなく、衣類も必要最低限。

趣味といえば読書くらいで、しかし王城の書庫を自由に出入りさせて貰っているため本を買うこともそれほど多くはなく。

物欲が全くないルードヴィッヒには、何かを買いたいという気持ちがあまり湧いてこないのだ。


「じゃあ、どういうのが一番綺麗だと思う?欲しいか欲しくないかはおいといて」


言われてルードヴィッヒは店内を見渡す。

そして目に付いたのは、ガラスの球体の中に炎が燃えているように赤いガラスを閉じ込めた物。

青いグラデーションで水の流れを模したものもあったが、ルードヴィッヒは炎の方に惹かれた。


「こちら、とか」

「これね!グラデーションになっていて綺麗よね、スノードームみたいでわたくしも好きだわ」


手にとってみると、水が入っているのか赤い炎が揺れるようになっている。

揺らめく赤がリューファの炎を思わせるデザインで、ルードヴィッヒは静かに見つめた。


「…いったいどなたに贈るおつもりなのですか?」


楽しそうに選ぶリューファを見ていると、何故かモヤモヤする。

そんな感情にルードヴィッヒは戸惑い、苛立ちを感じていた。


「んー、お世話になってる人?」


うふふと笑って誤魔化すリューファは、いくつか置物とブローチも買うことにしたようだ。

いつもは可愛らしいと思うリューファの笑顔をこの時は見たくなくて、目を逸らすルードヴィッヒ。

会計を終えたリューファが心配そうに見上げる。


「大丈夫?疲れちゃった?」

「いえ…大丈夫です」

「そう?本当はもっとお出かけしたかったけど、そろそろ戻らないとよね…」


今日はこの後、精霊人の大使ローハンが来るのだ。

交流のため一週間ほど滞在する予定となっており、今夜は歓迎会を兼ねた食事会が行われる。

リューファの生誕祭の時に熱心に口説いていたローハンを思い出し、この買い物は彼への贈り物選びなのではないかと考え、心乱されるルードヴィッヒ。


(俺は何を考えているんだ…いつかリューファ様が他の誰かに惹かれるかもしれないと思っていたはずなのに。今更誰にも取られたくないと思い始めている…)


愛されていることに胡座をかいていた自分が、今更なにを焦っているのか。

行き場のない苛立ちを抱えるルードヴィッヒは、リューファが購入した品々が全て彼が興味を示したものばかりだという事に気づいていなかった。
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