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第17話:読まずに燃やす

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お前の両親を名乗る人間から手紙が来た。

そうギルファンから告げられ、ルードヴィッヒは即答した。


「そうですか、お手数ですが燃やしてください」


今更何の用か知らないが関わる気などない。


「読まなくていいのか?」

「興味ありませんし必要もありません」


するとバン!と扉が開き、リューファが駆け込んできて手紙を引ったくると顔だけ竜化して火を吐く。

お気に入りのリボンごと燃えてしまったがそれどころではないほど怒っているようだ。


「こらリューファ、盗み聞きか」

「だってなんか変な気配がしたんだもん。ルードヴィッヒの事ならなんでもわかるんだから!」


最近の彼女は、部分的に竜化するという器用な芸当を習得したらしい。

今日は顔だけ竜化し直ぐに人型に戻った。


「ルードヴィッヒ、もし人間に虐められたらすぐに教えてね!わたくしが守ってあげるから!」


頼もしく可愛らしい姫の言葉に心が温かくなるルードヴィッヒ。

無意識に強張っていた表情が和らぐ。


「ありがとうございますリューファ様」

「ではルードヴィッヒよ、手紙は読まないと返事を送っておくぞ」

「お手数おかけし申し訳ございません…ところで陛下、それはどちらから送られて来たのでしょうか」


内容は読む気がないが、送り主は少し気になる。

個人的に送って来たとは思えない、そんなルードヴィッヒの疑問にギルファンは。


「ああ…これはエメル王国からわざわざ王室経由で送られて来たのだ」

「エメル王国ですって?」


その名にリューファが反応する。

嫌な女を思い出し怖い顔になっていくリューファ。

一方のルードヴィッヒは少し驚いていた。

自分の存在をひた隠しにしていたはずの両親が、王家に伝えたということか。


「…王家経由とは、力が入っていますね」

「フローラ王女がまだ諦めていないのかも知れんな…」


嫌な予感がする、顔を見合わせる二人。

リューファは焼け焦げた手紙を踏み付け叫んだ。


「あの女!ルードヴィッヒを困らせるなんて許せない!」

「やむを得まい、抗議文を送るとしよう」

「申し訳ございません陛下、私のせいで大ごとに」


争いは避けたい、ルードヴィッヒは困惑する。

そんな彼の頭をポンと撫で、ギルファンは笑った。


「気に病むことではないぞルードヴィッヒ、お前は息子同然なのだからな。守るのも我の努めだ」


実の両親から得られなかった愛情を与えてくれる竜王、その大きな手の温もりにルードヴィッヒは泣きそうになる。


「そうよルードヴィッヒ、遠慮しないでね。未来の旦那様を守るのもわたくしの努めよ!」


リューファの言葉にも感謝を伝え、ルードヴィッヒは自室へと戻った。


(…今更なんだというんだ。あの王女に言われて手紙を寄越したのだろうが、私は二度とエメルになど行かない)


愛してくれる人、必要としてくれる人。

守ろうとしてくれる大切な人たちを守るために。

ルードヴィッヒは鏡に映る自分を睨みつけた。
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