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第9部 シンデレラボーイは、この『やりまクリスマス』を祝福する義務がある!

第13話 しゅらば100%!

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「あれれぇ~? シロパイと会長じゃ~ん?」
「ほんとだぁ~。こんなところで奇遇だねぇ、2人とも」



『俺が時を止めた……9秒の時点でな……』と、どこかの奇妙な冒険の台詞がドンッ! と頭の中にフラッシュバックした。

 なるほど。

 あのとき、動けなかったDI●様の気持ちはきっと、今の俺と同じなんだろうなぁ。

 と、高速で現実逃避をしようとしたが、すぐさま「シロパイ?」「ししょー?」と俺を呼ぶ声で現実世界へ強制帰還。

 おそらく俺の周囲には今『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ』の文字が浮かんで見えていることだろう。

 俺は血の気を失って青い顔を浮かべる芽衣から視線切り、ゆっくりと背後へと振り返った。

 そこには……鬼が居た。



「お、大和田ちゃん? それに、よ、よこたんも? ど、どうしてココに……?」

「ヤダなぁ、シロパイ♪ 古羊パイセンが言ってたじゃ~んっ! 『奇遇だって』――ねぇ、パイセン?」

「うんうん。ほんと、こんな偶然ってあるんだねぇ。ねぇ、オオワダさん?」



 にっっっっっこり♪ と微笑む我が後輩と、愛しの新生副会長。

 唇は楽しそうに笑っているのに、瞳の奥はちっとも笑っていない。

 ナニアレ、どうなってんの!?

 その光を呑み込んで離さないブラックホールの如き漆黒の瞳で俺を捉えて離さない、プチデビル後輩と爆乳わん



「そんなことより、ししょーとメイちゃんは2人っきりで何をしてたのかなぁ? ボク、すっっっっっっごく、気になるなぁ~?」

「もしかしてデートだったりぃ☆」



 瞳孔ガン開きのまま、楽しそうに微笑むとマイ☆エンジェルと、キャハ♪ と背後に星を散らせる大和田ちゃん。

 少し前までやましいことを考えていた手前、俺は2人の質問に大いに狼狽えてしまう。

 まるで彼女に『実は、生理きてないんだ……』と死刑宣告を受けた彼氏のように、盛大に慌てふためいてしまう俺。

 ……いやまぁ、そんなことを言われた経験なんて無いんだけどさ。気分的、ね?

「あばばっ!? あばばっ!?」と、壊れたオモチャよろしく、同じ言葉を繰り返す俺。

 そんな俺に代わり、いつの間にか『いつもの』生徒会長モードの笑みを張り付けた芽衣が、俺を背後に隠すように、2人の前へと歩み出た。



「大和田さんに洋子じゃないですか。こんなところで本当に奇遇ですね! ……まるで最初から尾行けていたみたいに」

「アハハ~☆ そんなワケないっしょ~? まったく会長は面白い冗談を言うんだから。ねっ、古羊パイセン?」

「うんうん。それじゃまるで、ボクたちがストーカーさんみたいな言い方だよぉ」

「うふふ、ごめんなさいねぇ? あまりにもタイミングが良すぎたから、つい本物かと疑っちゃいましたよ♪」



 もう酷いし会長ぉ~☆ と、上品に笑い合う乙女3人組。

 なるほど、女3人寄れば姦しいとは、まさにこのことだな。

 なんてことを思いながら、楽しそうに談笑する3人を遠巻きに見守る。

 うんうん、本当に楽しそうだ。

 ……なのに、どうしてかな?

 何故か俺には、3人の居る空間が歪んでいるように見えるんだけど?

 ブゥン! と光が屈折するかのように、3人の背後の景色が歪んでいく。

 それに気がついた他のお客さんたちが「あわわわっ!?」と、恐れをなして我先にとばかりに店外へと避難していく。

 俺も避難したかったが、どういうワケか芽衣にスカジャンの裾を握り締められて、逃げるに逃げられない!



「ところでメイちゃん? その胸に抱えている羊さんは、なぁに?」
「コレですか? コレはさっき士狼がクリスマスプレゼントとして、わたしに贈ってくれた『ぬいぐるみ』ですよ」

「「ふぅぅぅぅぅぅぅん」」



 瞳孔が完全に開いたマイ☆エンジェルと大和田ちゃんの、視線という名の暴力が俺を襲う!

 ついでに店の奥へと引っ込んでいた店員が『何とかしろや、彼氏!』と、熱い視線を送ってきた。

 いや彼氏じゃねぇよ? 

 つぅかその『浮気男くたばれ!』みたいな視線送るの、やめてくんない?

 しまいには泣くぞ?



「い、いや違うぞ、2人とも? コレは日ごろの感謝の意味を込めてのお返しでもあってだな!?」

「「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」」



 アカン、もう心が折れそうだ。

 なんだろう? 

 俺が何か一言発するたびに、2人のプレッシャーが跳ね上がっていくんだが?

 あと芽衣さん?

 なんでそんな勝ち誇った笑みを浮かべてるの?

 何に勝ったの、一体?



「ごめんなさいね、2人とも? 士狼がどうしても、わたしにプレゼントしたいらしくて」

「「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」」



 さっきから、よこたんと大和田ちゃんが「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」しか言ってくれない件について。

 もう、すごいぞ?

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」だけでここまで豊かに感情を表現できる人間なんて、全国を探しても中々見つからないぞ!

 きっと全日本「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」コンテストなるモノがあったら、入賞間違いナシだ! やったね!

 と再び現実世界から妄想の世界へログインしようとした俺の思考を、周りの店員と客の視線がガッチリ阻止する。

 みな『早くなんとかしろ! この3股ヤリチンクソ野郎!』と、目線だけで俺を罵倒してくる始末だ。

 おい、誰がヤリチンだ?

 俺は誇り高き童貞だぞ!

 ……いや誇り高き童貞ってなんだよ?

 テンパり過ぎて、自分でも何言ってるのか意味わかんねぇ!



「わたしは別に、どうでもよかったんですよ? プレゼントなんて? でも、士狼がどうしても『芽衣に受け取って欲しいんだ』なんて言うものですから、ね?」

「「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」」



 俺が周りの視線と格闘している間に、いつの間にか芽衣たち3人のみで会話が繰り広げられていた。

 いや、あの芽衣さん?

 俺、そんなこと言ってないよね?

 なんでちょっと盛ってるのさ?

 盛るのはその胸だけにしてくれ!

 芽衣は困った風を装いながらも、その口元は愉悦に歪んでいた。

 うわぁ、性格ワリィなアイツ……。



「まったく、士狼がわたしのことを大好き過ぎて困っちゃいますよ。ね、士狼?」
「えっ? ここで俺に振るの?」



 なにそれ?

 俺、何て答えればいいの? 

 下手なことを言ったら、プチデビル後輩と爆乳わんなぶり殺されそうなんですが?

 いや比喩ではなく、マジで。

 殺人鬼のような目を俺に向ける、大和田ちゃんとマイ☆エンジェル。

 さっきからずっと無言なのが、逆に恐怖を煽られて仕方がない。

 この場に居る全員の視線が俺に突き刺さる。

 えっ、うそ?

 なんか言わなきゃダメな雰囲気なの、コレ?

 芽衣からのトンデモねぇキラーパス。

 今にも俺を嬲り殺しそうな、よこたんと大和田ちゃん。

 そして『なんとかしろ!』と厳しい視線を送ってくる外野。

 そんなカオスな雰囲気の中、シロウ・オオカミが出した結論は――



「と、とりあえず、カフェにでも行かない?」



 勇気ある撤退であった。
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