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第8部 シンデレラボーイは、この『プチデビル後輩』を幸せにする義務がある!

第9話 喧嘩狼 VS プチデビル後輩 

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 芽衣と契約を結んだ、翌日の昼下がり。

 俺は約束通り、人気の居ない教室で1人ひっそりと待機しながら、大和田ちゃんがやってくるのを、今か今かと待ち望んでいた。

 う~ん? 

 罠だと分かっているのに、どうして女の子を待つ時間は、こんなにソワソワするんだろうか?

 まるでサンタさんにクリスマスプレゼントをお願いする、前日のようだ。

 ……いや、そもそも我が家には、1度もサンタなる不法侵入者のロリコン野郎なんか、来たことなかったわ。

 ほんと『良い子にしてなかったから、サンタさん来なかったぞ?』と、真顔で母親に告げられた時は、幼心ながらサンタ狩りを決行しよう決意したっけ。

 マジでサンタさんの返り血で、己の身体を真っ赤にドレスコートし、サンタさんになり替わろう躍起になったモンだ。

 ふふっ、あの頃は若かった♪

 俺が過去を振り返って微笑んでいると、ガラララッ! と、やや錆びついた音が教室に木霊した。

 見ると、ちょうど黒板の方の入口あたりで、我が待ち人である大和田ちゃんがヒョコッ! と顏を覗きこませて、コチラを窺っていた。

 が、すぐさま俺を見つけるなり、きゃはっ☆ 背後に星をきらめかせながら、トテトテと近寄ってきた。



「あっ! いたいた、せんぱぁ~いっ! ごめんなさぁ~い、待たせちゃいましたかぁ?」

「いやいや、大丈夫! 俺も今来たとこDAZE☆」



 彼女と同じように背景に星を散らせながら、バチコンッ! とイケメン☆ウィンクで応対する。

 きっとこの俺のイケメン過ぎる対応に、大和田ちゃんのメスとしての本能が刺激され、お顔どころか身体まで火照ってきたに違いな……おや?

 なんで彼女は、頬がピクピクッ!? 震えているんだろう?



「き、キモ……じゃなかった。ほんとですかぁ~☆ よかったぁ~♪」



 一瞬『キモい』と言われかけたような気がするが、きっと空耳だろう。

 彼女がそんな下品な言葉を使うハズがない!

 俺はさっそく空いている席へと腰を下ろそうとしたが、ソレを大和田ちゃんが、



「あっ、ちょっと待ってもらえますぅ?」



 と可愛らしい声音で制止してきた。



「ん? どったの? あっ、もしかしてココじゃなくて、中庭の方へ移動する?」

「んん~? そ・の・ま・え・にぃ~♪ 大神センパイに、お願いしたい事があるんですけどぉ。ちょっとコッチの方まで近寄ってきてくれませんかぁ?」

「? 別にいいけど」



 誘われるがまま、フラフラと無防備に彼女のもとまで移動する。

 そのまま、手を伸ばせばお互いの肩が触れ合う距離まで近づいた。

 瞬間。



「ありがとうございます――おバカさん」

「はぇっ? うわっ!?」



 突然。

 突然である。

 大和田ちゃんの顔が『にたぁ~♪』と、邪悪に歪んだかと思うと、勢いよく俺の腕が掴まれ、彼女の方へと無理やり引っ張られてしまう。

 結果、彼女を押し倒すような形で、超至近距離で見つめ合う俺たち。

 うわぁ、綺麗な顔してんなぁ。

 作り物みてぇ。

 なんて感想が、頭の中で浮き上がると同時に。



 ――カシャッ。



 無機質なシャッター音が、鼓膜を震わせた。

 バッ! と、そちらの方に顔を向けると、大和田ちゃんがいつの間にか取り出したスマホで、俺たちの姿を撮影していた。



「これはもう、誰がどう見ても、事案発生案件の写真ですよねぇ☆」

「……うわぁ」



 チラッ! と見せてもらえたスマホの画面には、血走った瞳に鼻の穴をぷくぅ! と膨らませた男子高校生が、幼気いたいけな女子生徒を無理やり押し倒しているように見える写真が、デカデカと映し出されていた。

 というか、俺だった。



「もしこの写真をヤマキ先生あたりに見せたら、センパイ、どうなっちゃうんですかねぇ?」

「お、おそらく先生の拳が、俺の頬にパイルダーオンするんじゃないでしょうか?」

「もしくは停学、最悪退学かもしれないですねぇ!」



 きゃっぴるんるん♪ と言った様子で、心底楽しげに俺の未来予想図を口にする、プチデビル後輩。

 それにしても、まさかここまで芽衣の言った通りになるとは……なんあのアイツ?

 予知能力者なの?

 それとも悪魔的な実の能力者なの?

 いや、悪魔なのは目の前の後輩か。

 大和田ちゃんは、スルスルと器用に俺の腕から抜け出ると、スカートの裾を直しながら立ち上がり、ニンマリと笑みを深めてこう言った。



「さて、センパイ? この写真をバラ撒かれたくなかったら、素直にウチの言うことを聞いてもらいましょうか。あっ! もちろん断るなんて選択肢は、はなからありませんからね☆」

「お、俺に何をやらせるつもりですか……? ハッ!? ま、まさかこのイケてるボディをムチャクチャにするつもりか!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!?」

「……誰得だし、そんなグロ展開」



 スッ、と大和田ちゃんの表情から笑みが消え、ドン引きした声音が耳を撫でる。

 それどころか、砕けた敬語みたいな喋り方から、まさに今風のチャラいJKのような喋り方にシフトチェンジ。

 明るい雰囲気から一転。

 凍ってしまいそうなくらいクールな瞳と、冷たいオーラを身体中から発散させるその姿は、まさに大和田のあにぃを連想させた。

 う~ん、さすがは兄妹だ。

 雰囲気といい、人を追い詰める方法といい、クリソツじゃないか!



「あっ、やっぱり猫を被ってたんっすね?」

「えぇ~? 猫ぉ? ちょっと何を言ってるのか、分かんないですぅ☆ ……そんなことよりもぉ~? ウチのお願い、聞いてくれるよね☆ というか、聞け」

「あっ、命令形なんですね……」



 仮にも一応、先輩なんだけどなぁ……。

 それにしても、なんで美少女という生き物は、みんな猫を被るのは上手なんだろう?

 ほんと摩訶不思議アドベンチャーだなぁ。

 俺の脳裏に腹黒虚乳生徒会長の姿がよぎる中、大和田ちゃんは高圧的な態度で、俺を見据えながら。



「ウチのお願いは、単純明快。あの忌々しい古羊芽衣の弱味を握って、ウチに教えなさい」

「えっ? それっていわゆる」

「そう、スパイってヤツ」



 おっとぉ?

 まさかのスパイ☆ダブルブッキ~ング!?

 そ、そんなことってある?

 というか、薄々勘付いてはいたが、この子、かなり芽衣と思考回路が似ている。

 それはもう、気持ち悪いくらいに似ている。

 なになに?

 もしかして生き別れた妹か何かですか?

 まぁもちろん、そんな茶々を入れることなど出来るハズもなく、俺は黙って彼女の要求に耳を傾け続けた。



「ほら、もうすぐ生徒会長選挙っしょ? ウチはこの選挙で、絶対に生徒会長にならなきゃいけないの。でも、このまま順当にいけば、まず間違いなく次の生徒会長も『あの女』に決まるっしょ? だから打てる手は打っておきたい! っていうのが、ウチの考え」

「そ、それがスパイですか?」

「そっ。パイセン、何でか『あの女』に気に入られているみたいだし。これ以上の人材は他に居ないと思ったわけ」



 さも悪びれた様子もなく、当然のように意地の悪い答えを口にする、我が後輩。

 せ、性格ねじ曲がってるぅ~!? 



「つぅ~わけで♪ パイセンの役目は、古羊芽衣の弱味を握って、ウチに教える事と、出来るだけ『あの女』の選挙活動を邪魔する事の2つね☆ 簡単っしょ?」

「簡単って……おぜうさん(お嬢さん)? そもそもアイツに弱味なんて……あっ」



 あったわ。

 1つ、とんでもねぇヤツが。

 あのお胸についた装甲版。

 もとい超パッドでギガ盛された、虚乳の1件が。

 いやしかし、コレを彼女に教えたが最後、俺はきっと芽衣によって瀬戸内海のお魚さんたちのエサにされること間違いナシだ。

 ぜ、絶対に言えねぇ!



「ん? なになに? さっきの『あっ』は? もしかして、あの女の弱味知ってるの? なら教えるし! 今すぐに!」

「だ、ダメだ! こればかりは、口が裂けても言えねぇ!」

「ふぅ~ん? そういう態度とるんだぁ。いいの? この写真をヤマキ先生に見せても?」



 チラチラと、出来立てホヤホヤの脅迫写真を俺に見せつけてくる、大和田ちゃん。

 くそぅ! なんて女だ!?

 これじゃ、これじゃ――



「――これじゃ、念のために用意しておいたボイスレコーダーが、役に立ってしまうじゃないか!」

「な、なにぃっ!?」



 ポケットからボイスレコーダーアプリを起動させていたスマホを取り出すと、大和田ちゃんの余裕シャクシャクだった顔色が、驚愕の色に変わった。



「な、なんでそんなモノを起動させてるし!?」

「ごめん。俺、女の子の2人っきりになるときは、必ずボイスレコーダーを持参するって決めてるから……」



 ここで『キミの素敵な声を、何度でも聞きたいからさ。ハハッ!』と言えるような、ダンディな男になりてぇ。

 俺はBGMの代わりに、さっきの会話を流してやると、「うぐぅっ!?」と眉根を寄せて呻き始める大和田ちゃん。



「もしこの音声を生徒指導のヤマキ先生に聞かせたら……大和田ちゃんはどうなっちゃうんだろうなぁ~。うん?」

「うぐぐぐぐ……っ!?」



 耳が痛いほどの圧倒的な静寂が、この場を支配する。

 2人の呼吸音だけが、規則正しく鼓膜を撫でる。

 10秒、30秒、1分――と、時が進む中、やがて意を決したように、大和田ちゃんが口をひらいた。



「――ごめんなさい、センパイ。ウチが悪かったです」

「大和田ちゃん……いいんだよ、分かってくれたのなら」

「ゆ、許してくれるんですか?」



 当たり前じゃないか、と出来る限りイケメンボイスで応えてみせる。

 途端に目元をトロンとさせて「あ、ありがとうございます!」と頭を下げる彼女。

 砕けた口調から礼儀正しいモノに変わった大和田ちゃんは、持っていたスマホを胸の前でギュッ! と握り締め、



「ならセンパイ! お互いコレ以上禍根かこんを残さないように、データを一緒に消すというのは、どうですか?」

「OK、初めての共同作業ね♪」

「キモ、じゃなかった。ありがとうございます」



 ふんわり☆ ふわふわ♪ とした笑顔を浮かべる彼女の前で、起動していたボイスレコーダーアプリをポチポチと弄る。

 よし、あとは消去のボタンを押せば、ミッションコンプリートだ。



「ウチの方は準備できました」

「うし、こっちも準備完了」

「それじゃ『いっせーのっで』っで、一緒に消しましょうか?」

「了解。音頭はそっちに任せるわ」



 大和田ちゃんは一呼吸間を置いたのち、甘ったるい声音で「いっせーのっで!」と口にした。

 同時に、俺はさっき録音した音声データを削除。

 そして2人して一仕事を終えた大工のように「ふぃ~」と、ため息をこぼした。



「いやぁ、これで1件落着だね! それじゃ、さっそくお昼を――っ!?」



 食べようか☆ と、続くハズだった俺の言葉は、彼女の顔を見た途端ピシリッ!? と凍りついた。

 そう大和田ちゃんは、ニッ……チャリ♪ と邪悪極まりない笑顔を浮かべていたのだ。

 その瞳には『かかったな、カスが!』と、勝利のドス黒い光が宿っていて!?

 こ、この大胆不敵なまでの笑み……ま、まさかっ!?

 ハァハァ!? と、自然に荒い呼吸が口から発せられる中、大和田ちゃんは、ゆっくりと手に持っていた自分のスマホを掲げ。




「ごみ~ん、パイセン☆ 写真のデータはすでに、ウチのパソコンに転送してあるんすよぉ☆」




 ――というかわけ、二重スパイをすることになりました大神士狼を、今後ともよろしく!
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