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第8部 シンデレラボーイは、この『プチデビル後輩』を幸せにする義務がある!

第5話 アタシの右手が真っ赤に燃えるぅぅぅぅぅ!

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「……ねぇ芽衣さん? あなた1回、ボクシングで世界をってきた方がいいんじゃないの?」



 芽衣の情熱を顔面で受け止めた、数分後の校舎裏にて。

 俺は震える膝を必死で叱責しっせきしながら、恨むような視線を芽衣さまへと送っていた。

 芽衣は、そんな俺の視線など『どこ吹く風』とばかりに、偽物の乳をプルン♪ と揺らしながら、小さく肩をすくめて見せた。



「大げさねぇ。たかだが可憐な乙女に頬を撫でられた程度で、ピーピーわめくんじゃないわよ? その口、縫い合わせちゃうわよ?」

「へぇ~。最近の乙女は、人の頬をグーで殴ることを『撫でる』って言うんだぁ。シロウ、初めて知っちゃった☆」



 何なのコイツ?

 乙女は乙女でも、戦乙女じゃん……。

 もしかしたら前世はアマゾネスだったのかしれない。

 自称乙女こと我らが生徒会長は、俺から視線を切るなり、芝生の上で目を回してノビている妹へと意識をむける。

 そのままグィッ! と肩を抱き、強制的に起き上がらせると、



「ほらっ。そろそろ起きなさい、洋子」



 パンパンパンパンッ! と、妹の頬を往復ビンタし始める。

 おいおい?

 おまえ、ホントにコイツの姉か?

 扱いが雑過ぎない?



「いたた……ハッ!? こ、ここはっ!?」

「ようやく目が覚めたようね」

「ッ!? め、メイちゃん!? ち、違うよ!? こ、この耳と尻尾には、深い事情があって――っ!?」

「あぁ~、うるさい、うるさい。事情なら、もう把握してるから大丈夫よ。ようは洋子を人間に戻せばいいんでしょ? ならさっさと戻して、家に行くわよ」



 至極面倒臭そうに、そう口にする芽衣。



「いやいや、芽衣さんよ? そう簡単に言ってるがな、案外難しいんだぞ。コレ?」

「問題ないわ。洋子の中の犬的欲求を解消すればいいんでしょ?」



 なら簡単よ。

 と、芽衣はチャイナ姿の実妹の肩を抱きしめるなり、そのまま2人で体育倉庫の影へと消えて行った。

 2人の姿が見えなくなった瞬間、かすかに爆乳わん娘の嬌声きょうせいが、俺の耳を優しく撫で始めた。



『め、メイちゃん!? そ、そこは――ひゃんっ!?』

『いいから。黙ってアタシに身をゆだねなさい』

『そ、そんなあぁぁぁぁん♪ だ、ダメダメ!? ダメだよ!? そんなとこまでぇぇぇぇぇん♪』

『ふふっ♪ ここがいいのかしら? この欲しがりさんめ!』

「…………」



 ゴクリッ! と、勝手に喉が鳴ってしまう。

 気がつくと、この素敵な音楽を一言一句キチンと聞き取るべく、全神経が鼓膜へと集中している俺が居た。

 ひやぁぁぁぁぁぁぁん♪ と、よこたんのなまめかしい声が、ピンクの電流となって、俺の脊髄を駆け巡る。

 くっそぅ!?

 あの向こう側には、一体どんな素敵な光景が広がっているって言うんだ!?

 ダメだ、ガマン出来ねぇ!

 俺は運命に導かれる勇者のように、体育倉庫裏へと移動しようとして、



『あっ、そうだ士狼。覗こうとしたら、例の写真を蓮季さん見せるからね?』

「……はい」



 その場で立ち尽くして、天を仰いだ。

 おかしいな?

 今日はいい天気のハズなのに、空が滲んで見えるや……。



「はい、終了ぉ~♪」
「…………(ぽけぇ~)」



 3分後、再び俺の前に現れたのは、妙にツヤツヤ♪ したお肌の芽衣と、目元がとろんっ♥ と垂れ下がり、頬が上気している、なんともスケベチックな爆乳わんの姿であった。



「いやおまえ、マジで何をした!? ナニをしたよ!?」

「今日からアタシのことは、ゴッドフィンガーの芽衣と呼びなさい」

「し、新世界だった……」

「おいおいっ!? おまえの妹、新世界へ出航ボンボヤージュしたまま、帰ってきてねぇぞ!? よこたん、しっかりしろ! 現実グランド世界ラインへ帰ってこい!」 



 ハッ!? と目を見開き、キョロキョロと辺りを見渡す、爆乳わん娘。

 そのまま自分の頭とお尻に指先を這わせ、パァッ! と顔を輝かせた。



「い、イヌミミとシッポが消えてる!? やった! ボク、人間に戻れたんだ!」

「……うん。おめでとう、よこたん。やったね……」

「な、何でししょーは、そんなにテンションが低いの?」

「あからさまにガッカリしてるわね、この男」



『じとぉ~……』と、湿った4つの瞳が俺を捉える。

 あ~あ、あんなに似合ってたのになぁ……。

 イヌミミのまま、エプロンドレスも着てほしかったんだけどなぁ……。

 もちろん、そんな後悔なんぞ顔には微塵も出すことなく、心の中でひっそりと涙を流す。



「な、泣かないでよ、ししょーっ!?」

「な、泣いてないやい! コレは心の鼻血じゃい!」

「どんな言い訳よ……」



 呆れた声を出しながら、制服の裾で乱暴に俺の目元をこする芽衣。

 そんな芽衣を見て、珍しくムッ! とした表情になる、よこたん。

 コイツがこんな顔をするなんて、珍しいなぁ。

 なんてことを思いながら、芽衣に涙を拭ってもらうクールガイ、俺。



「つぅか、マジでどうやって元に戻したんだよ、ゴ●ドガンダム?」

「誰がゴッドガ●ダムよ?」



 シバくぞ、ポンコツ?

 と、グリグリ俺の目尻を乱暴に擦り始める女神さま。

 いやだって、おまえがゴッドフィンガーなんて言うから……。

 それに胸にいつも装甲パッド着けてるし、似たようなもんだろ? と言おうとしたが、尋常ならざる殺気が芽衣の身体から発散されていたので、素直に口をつぐんだ。



「まぁいいわ。それよりも、2人とも早く着替えなさい。パン屋は中止よ。すぐさま家に帰って、作戦会議を開くわ」

「はぁん? 作戦会議ぃ~?」

「め、メイちゃん。何の作戦会議なの?」



 そんなの決まってるでしょ、と芽衣は獰猛な蛇のように悪い顔を浮かべて、ニチャリ♪ とほくそ笑んだ。



「次の生徒会長選挙の作戦会議よ!」



 その笑顔はどことなく、俺に嵐の予感を感じさせた。
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