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第6部 シンデレラボーイは、この『子猫センパイ』の夢を叶える義務がある!

第24話 この『約束』に花束を

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「ボスぅ~っ!? 免許取りたてのペーペーに、この夜道は難易度ゲキムズっすよぉ~!?」
「泣きごと言うな。帰りもおまえが運転して帰んだからな?」
「ひぃ~んっ!?」



 ワンボックスカーの運転席で『乙女戦線』と刺繍の入ったスカジャンを着込んだ、ガタイのいい女の人が、実にSっ気を誘う声で泣いていた。

 時刻は午後9時少し前。

 俺は姉ちゃんに頼んで、『乙女戦線』の人たちに『とある場所』へと連れてきて貰っていた。



「本当にここでいいのか、愚弟?」
「ここでいい。運転のお姉さんも、ここまでありがとうございます」



 どういたしましてぇ~っ! と、半分泣きが入っているお姉さんにお礼の言葉を述べながら、ワンボックスカーから1人降りた。

 目の前には、廃車になった車やら何やらが、高く積み重なっている。

 町はずれのスクラップ置き場……出雲愚連隊が根城にしている場所。

 寅美先輩のバカ兄貴が、居る場所。



「1時間だけ待ってやる。それまでに終わらせろよ?」
「あいよ」



 小さく首肯しゅこうしながら、スクラップ置き場の奥へと進んでいく。

 やがて白い特攻服の男たちの姿が目に入るや否や、俺を囲むように鋭い視線を向けてきた。



「あぁっ? なんだテメェは? ……って、コイツ? この間の中坊じゃねぇか?」

出雲愚連隊いずもぐれんたいに何の用だ、クゾガキ?」

「バカ兄貴んに、カチコミに来ました~♪」



 特攻服の野郎共が、不審そうに俺を見てくる。

 俺はそんな野郎共の視線を一身に受け止めながら、



「悪いんだけどさ? おたくのリーダー、呼んでくれる?」
「ガキが。何の用かは知らんが、総長はおまえには会わんよ。帰れ!」
「あっ、そう。じゃあ、いいよ。――無理やり会いに行くから」



 はぁっ? と声を揃えて間抜けた声をあげる特攻服野郎に、問答無用で右の上段回し蹴りを叩きこむ。

 そのまま、返す刀で隣に居た男のみぞおちに足刀を放り込んだ。

 悲鳴すらあげることなく吹き飛んでいく、特攻服の男達。

 瞬間、俺の周りを囲っていた野郎共が、一気に色めき立った。



「こんの、クソガキッ!?」
「て、敵襲ぅ~っ! 敵襲だぁ~っ!」
「上等だ、やっちまえ!」



 目を血走らせた野郎共が、一斉に殴りかかってくる。

 俺も負けじと、声を張り上げ、迎え撃つ。

 右頬を殴られたら、左頬を蹴り返す。

 みぞおちを蹴り抜かれたら、お返しに顔面を蹴り抜く。

 頭突きされたら、金的を蹴り上げる。

 とにかく、ガムシャラに暴れ回った。



「な、なんだ、コイツ!? 1人でどんだけ暴れるんだ!? ――うぎゃっ!?」

「弱ぁぁぁぁぁいっ! 初セクロスで息子が使い物にならなくて落ち込む、男子大学生のメンタルより弱ぁぁぁぁぁいっ! テメェら、それでも西日本最強の兵隊かぁぁぁぁっ!?」 



 俺の足刀が、野郎1人の喉を貫く。

 白目を剥いて崩れるソイツの横から飛んでくる拳を、紙一重で躱し、後ろ回し蹴りを叩きこむ。



「マジかよ、コイツ!? バケモンか!? もう何人、コイツにやられた!?」

「んっ? おい、なんの騒ぎだ?」
「そ、総長っ!? か、カチコミですっ!」
「何だと? 相手は何人だ?」
「ひ、1人ですっ!」

「はぁっ? ひとりぃ~? おまえら、たった1人にこんなに苦戦してんのか?」

「そ、それが、とんでもなく強いクソガキでして……」

「とんでもなく強いクソガキぃ~? ――って、ん? アイツは……」



 もう何人蹴り倒したか分からない。

 10人超えたあたりで、数えるのもバカらしくなって止めた。

 倒しても、倒しても、全然数が減らねぇ……。

 どうやら、今日は長い1日になりそうだ。

 と、覚悟を決め直していると、よく通る男の声が俺の耳朶じだを震わせた。



「テメェら、下がれ! どうやらソイツは、オレの客人らしい」



 男の一喝いっかつで、俺に殴りかかってきていた野郎共の動きが、ピタリッ! と止まった。

 そのまま、モーゼが海を割ったかのように、野郎共がザザザザッ! と脇へと退いていく。



「ひぃ、ふぅ、みぃ……30人ちょいか。よくもまぁ、1人でこれだけの人数を倒せたモンだ。流石はあの『鉄腕チワワ』の弟といったところか。ほんと、末恐ろしい中坊だぜ」

「……よう、龍見の兄貴? 会いたかったぜ?」



 ツカツカと、真っ白な特攻服を夜風になびかせながら、俺の前までやって来たのは、出雲愚連隊の総長、龍見虎太郎。

 寅美先輩の兄貴分にして、俺が今日、絶対に会わなきゃいけない人物だ。



「何の用だ、喧嘩狼? 鉄腕チワワに何か命令でも受けたか?」



 そう言って、余裕の笑みを崩すことなく、不敵に笑う、龍見の兄貴。

 俺はそんな兄貴に、ハッキリとこう言った。



「寅美先輩が死んだ」



 瞬間、龍見の兄貴の笑顔が凍った。



「……なに?」

「昨日の朝方、飲酒運転していた大学生の車に轢かれて、寅美先輩が死んだ。即死だってよ」

「……そうか。それがどうした?」



 龍見の兄貴は、一瞬だけ苦しそうに瞳の奥を揺らしたかと思えば、すぐさま、また不敵な笑みを顔に張り付けた。



「アイツがどこで野たれ死のうが、オレには関係ない」
「そっか」
「そうだ。おまえ、ソレを言うために、わざわざここに来たのか?」



 ご苦労なことで、と小バカにしたように鼻で笑う龍見の兄貴。

 俺はそんな兄貴に向かって、ゆっくりと首を横に振った。



「いや、ここには約束を果たしに来ただけだ」
「約束?」
「あぁ、約束。テメェの妹との、大事な約束だ」



 俺は龍見の兄貴の手首をガッチリと掴みながら、



「行くぞ、バカ兄貴? 仲直りの時間だ」



 そう言って、龍見の兄貴を引っ張って行こうとして――振りほどかれた。



「何すんだ、テメェ?」

「言ったろ、仲直りの時間だって。寅美先輩が、セレモニーホールで待ってる」

「……オレにアイツの最後を見送れってか? ハッ!」



 龍見の兄貴は、身体中から殺気をほとばしらせながら、敵意の籠った瞳で俺を睨んできた。



「行くわけねぇだろ? アホらし。なんで他人の死んだつらなんか、拝みに行かにゃならねぇんだ?」

「別にどう言おうが構わねぇが、テメェに拒否権なんか最初はなからねぇよ」

「あぁん?」



 俺は今にも人を殺しそうな龍見の兄貴の視線を、真っ向から受け止めながら、ハッキリと宣言した。



「例えテメェが拒否しようが、関係ねぇ。抵抗しようが、泣き叫ぼうが、駄々をこねようが、俺はテメェの手足をへし折ってでも、テメェを寅美先輩のもとへ連れて行く」

「……上等だ。やれるモンなら、やってみろ?」



 龍見の兄貴が獰猛どうもうに笑った。

 俺も笑った。

 みんな笑った。



 ――瞬間、俺と兄貴の拳が、お互いの頬にめりこんだ。
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