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第6部 シンデレラボーイは、この『子猫センパイ』の夢を叶える義務がある!
第20話 お兄ちゃん、仲直り大作戦――失敗!
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乙女戦線の面々が運転するバイクに乗せて貰い、家を出発すること40分。
時速60キロで空気を切り裂くバイクの後ろから、おっぱいの感触を楽しんでいると、あっという間に目的地である町はずれのスクラップ工場の前へとやって来ていた。
「ここが、あの男のハウスね」
何ともツッコミしづらい事を口走りながら、バイクから降りる姉ちゃん。
俺も元気も寅美先輩も、ここまで運転してくださった乙女戦線の面々にお礼を口にしながら、バイクから降りて姉ちゃんに近づく。
姉ちゃんは、ソフィアさん率いる乙女戦線の女の子たちを一瞥しながら。
「おまえらはココで待ってろ。すぐ戻る」
「分かりました」
「ご武運を」
神妙な面持ちで、大きく頷く乙女戦線の面々。
なんか『カチコミ』と勘違いしてないかな、この人たち?
「よし、行くぞ元気、寅美、愚弟! あたしに付いて来い!」
「あいあいさーっ!」
「ガッテンだべ!」
「ねぇ、ほんとに仲直りしに行くだけなんだよね?」
身体中から圧倒的なまでのオーラをまき散らしつつ、ズンズンと寅美先輩の兄貴が居ると思われるスクラップ工場へと入っていく姉ちゃん。
その足取りは何ら躊躇いがなく……う~ん、漢らしいっ!
そんな姉ちゃんのあとに続け! と言わんばかりに、肩を怒らせた元気と寅美先輩が、足並みを揃えてついて行く。
その表情はまさに、はじめて『おっパブ』に向かう新卒社会人のように険しい。
……あの、仲直りに行くだけなんですよね?
なんでそんな合戦に行くぞ! みたいな雰囲気になってるの、みんな?
「いざ、出陣じゃぁぁぁああぁぁ――ッッ!」
「「おぉーっ!」」
勝鬨をあげながら、敵陣に突っ込んでいく姉たちの姿を見送りながら、俺はソフィアさん達に頭を下げた。
「それじゃ、俺たちは行きます。姉ちゃんは『あぁ』言ってましたが、危ないと思ったら、ソフィアさん達だけでも逃げてくださいね?」
「わたくし達の心配は必要ありませんわよ、弟くん」
「そうっす! 例え出雲愚連隊のカス共がやって来ようが、千和さんが帰って来るまで、自分たちはココでずっと待ってるので!」
キラキラと信者の目をしながら、姉ちゃんの後ろ姿を眺めるソフィアさん達。
相変わらず、同性に対しては、とんでもねぇカリスマを発揮する姉である。
俺は姉ちゃんの信者と化した乙女戦線の面々に別れを告げ、3人のあとを慌てて追いかけた。
俺が駆けつけると、案の定というか……白い特攻服の野郎共に囲まれた姉ちゃんたちが、大胆不敵にメンチを切り合っている所だった。
あぁ~、これは平和的な話し合いはMU☆RIだなっ!
と1人納得していると、 白い特攻服を着こんだ男たちの壁の中から、寅美先輩の兄貴が姿を現した。
「ナニを騒いでいるのかと思えば……おいおいっ? 鉄腕チワワさまが、俺たちの根城に何の用だ? まだ約束の日まで余裕があったハズだが?」
「そんな邪険にすんなよ、白いの。別に今日はドンパチしに来たワケじゃねぇっての」
姉ちゃんは軽く肩を竦めながら、まるで友達を駄菓子屋に誘うフランクさで、寅美先輩の兄貴に声をかけていく。
我が姉ながら、心の臓が強すぎる……。
メンタル日本代表か、この人?
「今日は別件があって、テメェに会いに来たんだよ」
「別件だと?」
「おう」
そう不敵に笑って、姉ちゃんは自分のうしろで生まれたての小鹿よろしく、プルプル震えている寅美先輩の背中を押した。
途端に、この場に居る全員の視線が、寅美先輩に突き刺さる。
先輩は「カヒュッ!?」と、呼吸だがため息だがよく分からん吐息を溢しつつ、緊張した面持ちで龍見の兄貴の顔を見上げた。
その手には、龍見の兄貴が好きだと言っていた『肉じゃが』が握られていた。
「お、お兄ちゃん……」
「寅美か。何の用だ?」
「あ、あの……これ」
寅美先輩は震える声音と指先を必死に動かして、龍見の兄貴の方へと、真心こめて作った肉じゃがを差し出した。
龍見の兄貴は怪訝そうな瞳を浮かべたまま、ソレを一瞥し。
「なんだ、コレは?」
「に、肉じゃが。お兄ちゃん、コレ、好きだったよね?」
「……だから? なんだ?」
「その……ね? ま、また一緒に、ご飯、食べよ……?」
縋るような、甘えるような、寅美先輩の声。
小さな彼女に出来る、精一杯の歩み寄り。
その歩み寄りを、龍見の兄貴は――
「――ハンッ! くだらねぇ」
バカにするように、鼻で一笑に付した。
「『家族ごっこ』は、もうウンザリだ。ソレ持って、オレの前から消えな、小娘」
「ご、『ごっこ』だなんてっ!? オイラのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだべさ!?」
「うるせぇっ! 目障りだって言ってんだよ!?」
イライラした様子で、龍見の兄貴が寅美先輩の手から肉じゃがを叩き落とす。
ベチャッ、じゅわぁぁぁ……。
おおよそ、肉じゃがが発する音とは思えない音色と紫色の煙を発しながら、寅美先輩の作った料理が地面にぶちまけられる。
「お、お兄ちゃんっ!」
「だから、オレはもうテメェの兄貴じゃねぇって、言ってんだろうが!」
龍見の兄貴の振りかぶった拳が、まっすぐ寅美先輩へと振り下ろされる。
空気を切り裂く一撃が、寅美先輩の顔に吸い込まれるように放たれ。
――パァンッ!
「いい加減にしろよ、クソアニキ?」
「……喧嘩狼、またオマエか」
寅美先輩の前に身を滑りこませた俺の手のひらに、龍見の兄貴の拳が収まった。
俺はグッ! と、兄貴の放った拳を片手で握り締めながら、腸が煮え切り返る思いで、クソ野郎を睨みあげる。
すると、龍見の兄貴も同じく苛立たしそうな瞳で俺を睨み返してきた。
「どけよ」
「どかねぇ」
「出雲愚連隊とやり合うつもりか? そうなったらおまえ、もう生きてココから戻れんぞ?」
「そーかよ」
俺が1歩も退かないと分かったのだろう。
龍見の兄貴の瞳に、剣呑な色が宿る。
途端に俺たちを囲っていたギャラリーが、一気に騒ぎ出した。
『テメェ、このクソ中坊っ!? 誰に向かってガン飛ばしてんだ!?』
『殺すぞ、クソガキ!?』
『4人でカチコミに来るとは、いい度胸だ! 全員まとめて、あの世に送ってやんよ!』
なんとも血生臭いチンパンジー共の声音が、右から左へと流れていく。
ガン無視してんじゃねぇぞ、テメェ!? と騒ぎ立てるチンパンを無視して、俺は寅美先輩に声をかけた。
「先輩。どうやら兄貴の方が、今日は都合が悪いみたいなんで、また来ましょうか?」
「シロー君……」
「おい待てよ、喧嘩狼」
寅美先輩の背中に手を回し、そのまま引き返そうとした俺の肩を、龍見の兄貴がグッ! と掴んでくる。
「ここまでオレ達をコケにしておいて、大人しく帰れると思ってんのかよテメェ?」
コメカミをピキピキ言わせながら、獰猛極まりない笑みを俺に向ける、龍見の兄貴。
そんな俺の肩にかけられた手を、近くに居た姉ちゃんが払いのけた。
「うるせぇな。そんなイキがんじゃねぇよ? 心配しなくても、あとで全員、あたしがまとめて潰してやるから」
姉ちゃんか小バカにしたように鼻で笑いながら、龍見の兄貴に言い捨てる。
途端に、風船が爆発したかの如く、周りの野郎共の怒声が、俺たちの肌を叩いた。
そんな野郎共の放つ罵詈雑言の嵐を、まるでそよ風のように涼しい顔で受け流す、姉ちゃん。
肝が据わり過ぎて、逆に怖かった……。
「……気分が悪い。今日のところは見逃してやる。はやくその小娘を連れて、どこかへ行きな」
ただしっ! と龍見の兄貴は俺たちを睨みつけながら、血反吐でも吐かんばかりの忌々しさで、こう言い捨てた。
「次は無い。今度来たら、全員コンクリートに詰めて、海に沈めてやるよ」
「そりゃ楽しみだ」
「お兄ちゃん……」
寅美先輩の縋るような視線を無視して、龍見の兄貴は「興が冷めた、寝る」と言って、どこかへ消えて行った。
どうやら、兄貴との仲直りは、そうそう上手くはいかないらしい。
俺は落ち込む寅美先輩の方を軽く叩きながら、小さく苦笑を漏らした。
時速60キロで空気を切り裂くバイクの後ろから、おっぱいの感触を楽しんでいると、あっという間に目的地である町はずれのスクラップ工場の前へとやって来ていた。
「ここが、あの男のハウスね」
何ともツッコミしづらい事を口走りながら、バイクから降りる姉ちゃん。
俺も元気も寅美先輩も、ここまで運転してくださった乙女戦線の面々にお礼を口にしながら、バイクから降りて姉ちゃんに近づく。
姉ちゃんは、ソフィアさん率いる乙女戦線の女の子たちを一瞥しながら。
「おまえらはココで待ってろ。すぐ戻る」
「分かりました」
「ご武運を」
神妙な面持ちで、大きく頷く乙女戦線の面々。
なんか『カチコミ』と勘違いしてないかな、この人たち?
「よし、行くぞ元気、寅美、愚弟! あたしに付いて来い!」
「あいあいさーっ!」
「ガッテンだべ!」
「ねぇ、ほんとに仲直りしに行くだけなんだよね?」
身体中から圧倒的なまでのオーラをまき散らしつつ、ズンズンと寅美先輩の兄貴が居ると思われるスクラップ工場へと入っていく姉ちゃん。
その足取りは何ら躊躇いがなく……う~ん、漢らしいっ!
そんな姉ちゃんのあとに続け! と言わんばかりに、肩を怒らせた元気と寅美先輩が、足並みを揃えてついて行く。
その表情はまさに、はじめて『おっパブ』に向かう新卒社会人のように険しい。
……あの、仲直りに行くだけなんですよね?
なんでそんな合戦に行くぞ! みたいな雰囲気になってるの、みんな?
「いざ、出陣じゃぁぁぁああぁぁ――ッッ!」
「「おぉーっ!」」
勝鬨をあげながら、敵陣に突っ込んでいく姉たちの姿を見送りながら、俺はソフィアさん達に頭を下げた。
「それじゃ、俺たちは行きます。姉ちゃんは『あぁ』言ってましたが、危ないと思ったら、ソフィアさん達だけでも逃げてくださいね?」
「わたくし達の心配は必要ありませんわよ、弟くん」
「そうっす! 例え出雲愚連隊のカス共がやって来ようが、千和さんが帰って来るまで、自分たちはココでずっと待ってるので!」
キラキラと信者の目をしながら、姉ちゃんの後ろ姿を眺めるソフィアさん達。
相変わらず、同性に対しては、とんでもねぇカリスマを発揮する姉である。
俺は姉ちゃんの信者と化した乙女戦線の面々に別れを告げ、3人のあとを慌てて追いかけた。
俺が駆けつけると、案の定というか……白い特攻服の野郎共に囲まれた姉ちゃんたちが、大胆不敵にメンチを切り合っている所だった。
あぁ~、これは平和的な話し合いはMU☆RIだなっ!
と1人納得していると、 白い特攻服を着こんだ男たちの壁の中から、寅美先輩の兄貴が姿を現した。
「ナニを騒いでいるのかと思えば……おいおいっ? 鉄腕チワワさまが、俺たちの根城に何の用だ? まだ約束の日まで余裕があったハズだが?」
「そんな邪険にすんなよ、白いの。別に今日はドンパチしに来たワケじゃねぇっての」
姉ちゃんは軽く肩を竦めながら、まるで友達を駄菓子屋に誘うフランクさで、寅美先輩の兄貴に声をかけていく。
我が姉ながら、心の臓が強すぎる……。
メンタル日本代表か、この人?
「今日は別件があって、テメェに会いに来たんだよ」
「別件だと?」
「おう」
そう不敵に笑って、姉ちゃんは自分のうしろで生まれたての小鹿よろしく、プルプル震えている寅美先輩の背中を押した。
途端に、この場に居る全員の視線が、寅美先輩に突き刺さる。
先輩は「カヒュッ!?」と、呼吸だがため息だがよく分からん吐息を溢しつつ、緊張した面持ちで龍見の兄貴の顔を見上げた。
その手には、龍見の兄貴が好きだと言っていた『肉じゃが』が握られていた。
「お、お兄ちゃん……」
「寅美か。何の用だ?」
「あ、あの……これ」
寅美先輩は震える声音と指先を必死に動かして、龍見の兄貴の方へと、真心こめて作った肉じゃがを差し出した。
龍見の兄貴は怪訝そうな瞳を浮かべたまま、ソレを一瞥し。
「なんだ、コレは?」
「に、肉じゃが。お兄ちゃん、コレ、好きだったよね?」
「……だから? なんだ?」
「その……ね? ま、また一緒に、ご飯、食べよ……?」
縋るような、甘えるような、寅美先輩の声。
小さな彼女に出来る、精一杯の歩み寄り。
その歩み寄りを、龍見の兄貴は――
「――ハンッ! くだらねぇ」
バカにするように、鼻で一笑に付した。
「『家族ごっこ』は、もうウンザリだ。ソレ持って、オレの前から消えな、小娘」
「ご、『ごっこ』だなんてっ!? オイラのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだべさ!?」
「うるせぇっ! 目障りだって言ってんだよ!?」
イライラした様子で、龍見の兄貴が寅美先輩の手から肉じゃがを叩き落とす。
ベチャッ、じゅわぁぁぁ……。
おおよそ、肉じゃがが発する音とは思えない音色と紫色の煙を発しながら、寅美先輩の作った料理が地面にぶちまけられる。
「お、お兄ちゃんっ!」
「だから、オレはもうテメェの兄貴じゃねぇって、言ってんだろうが!」
龍見の兄貴の振りかぶった拳が、まっすぐ寅美先輩へと振り下ろされる。
空気を切り裂く一撃が、寅美先輩の顔に吸い込まれるように放たれ。
――パァンッ!
「いい加減にしろよ、クソアニキ?」
「……喧嘩狼、またオマエか」
寅美先輩の前に身を滑りこませた俺の手のひらに、龍見の兄貴の拳が収まった。
俺はグッ! と、兄貴の放った拳を片手で握り締めながら、腸が煮え切り返る思いで、クソ野郎を睨みあげる。
すると、龍見の兄貴も同じく苛立たしそうな瞳で俺を睨み返してきた。
「どけよ」
「どかねぇ」
「出雲愚連隊とやり合うつもりか? そうなったらおまえ、もう生きてココから戻れんぞ?」
「そーかよ」
俺が1歩も退かないと分かったのだろう。
龍見の兄貴の瞳に、剣呑な色が宿る。
途端に俺たちを囲っていたギャラリーが、一気に騒ぎ出した。
『テメェ、このクソ中坊っ!? 誰に向かってガン飛ばしてんだ!?』
『殺すぞ、クソガキ!?』
『4人でカチコミに来るとは、いい度胸だ! 全員まとめて、あの世に送ってやんよ!』
なんとも血生臭いチンパンジー共の声音が、右から左へと流れていく。
ガン無視してんじゃねぇぞ、テメェ!? と騒ぎ立てるチンパンを無視して、俺は寅美先輩に声をかけた。
「先輩。どうやら兄貴の方が、今日は都合が悪いみたいなんで、また来ましょうか?」
「シロー君……」
「おい待てよ、喧嘩狼」
寅美先輩の背中に手を回し、そのまま引き返そうとした俺の肩を、龍見の兄貴がグッ! と掴んでくる。
「ここまでオレ達をコケにしておいて、大人しく帰れると思ってんのかよテメェ?」
コメカミをピキピキ言わせながら、獰猛極まりない笑みを俺に向ける、龍見の兄貴。
そんな俺の肩にかけられた手を、近くに居た姉ちゃんが払いのけた。
「うるせぇな。そんなイキがんじゃねぇよ? 心配しなくても、あとで全員、あたしがまとめて潰してやるから」
姉ちゃんか小バカにしたように鼻で笑いながら、龍見の兄貴に言い捨てる。
途端に、風船が爆発したかの如く、周りの野郎共の怒声が、俺たちの肌を叩いた。
そんな野郎共の放つ罵詈雑言の嵐を、まるでそよ風のように涼しい顔で受け流す、姉ちゃん。
肝が据わり過ぎて、逆に怖かった……。
「……気分が悪い。今日のところは見逃してやる。はやくその小娘を連れて、どこかへ行きな」
ただしっ! と龍見の兄貴は俺たちを睨みつけながら、血反吐でも吐かんばかりの忌々しさで、こう言い捨てた。
「次は無い。今度来たら、全員コンクリートに詰めて、海に沈めてやるよ」
「そりゃ楽しみだ」
「お兄ちゃん……」
寅美先輩の縋るような視線を無視して、龍見の兄貴は「興が冷めた、寝る」と言って、どこかへ消えて行った。
どうやら、兄貴との仲直りは、そうそう上手くはいかないらしい。
俺は落ち込む寅美先輩の方を軽く叩きながら、小さく苦笑を漏らした。
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