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第6部 シンデレラボーイは、この『子猫センパイ』の夢を叶える義務がある!

第3話 ラーメン大好き大神くん

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「相棒ぉ~、見ろやコレッ! 数学のコバセン小林先生が、駅前に出来たラーメン屋『武流怒紅ぶるどっく』の株主優待券をくれたでぇ~っ! ラーメン無料タダやぞ、無料タダっ!」

「おっ、マジで!? でかした元気! 今日の放課後はラーメン屋でパーティーだっ!」

「ガッテンでい!」



 変な女こと、根古屋寅美1年生に助けられて1日経った翌日のお昼休みにて。

 俺は隣の席でスマホをいじっていた女の子に



『オメーが童貞くさいせいで、彼氏にフラれたじゃねぇか!? 出ていけ!』



 と放牧宣言されたので、プラプラと当てもなく校舎の中を散策していると、ちょうど職員室から出てきた我が友、猿野元気がラーメン屋の無料券片手にニコニコしながらやってくる所だった。

 元気は成績を盾に生徒に交際を迫ることで有名な小林女史(40歳独身、彼氏ナシ)から貰ったというラーメン無料券をヒラヒラさせながら、俺に1枚手渡してくる。



「俺、豚に生まれ変わったらラーメンのチャーシューになりたい位、ラーメン好きだわ」
「ワイも♥」



 でへへへへっ♪ と2人顔を見合わせて、上機嫌に微笑む。

 おそらくこの後、元気はこのラーメン券を盾に、小林女史から交際を迫られる事になるだろうが、そんな事は俺の知ったことではないので、脇に置いておこうと思う。

 そんな事よりもラーメンだ!

 2人して「ラーメン♪ ラーメン♪」と鼻歌混じりに廊下を歩いていると。



「おりゃーっ! どりゃーっ! ふがーっ!?」



 ゴイーン♪

 ぼいーん♪

 ぼいーん♪

 体育館の方から謎の掛け声と共に、ダムダムッ! とバスケットボールらしい反発音が聞こえてきて、思わず足を止めてしまった。



「あれ? この声は、もしや?」
「んっ? どったんや相棒? って、どこ行くねん?」



 元気の呼び止める声を無視して、スタスタと体育館の方へ歩いて行くと、そこには俺の予想した通り、チンマリとした女子生徒が、セカセカとバスケットボールを追いかけている姿があった。

 ボールを手に取り、トテトテとバスケで言うところのスリーポイントのラインまで移動し、「ふんすっ!」という掛け声と共に放たれたボールは、見事にバスケットリングを揺らす……ことなく、その手前数メートルで落下。

 ぼひ~ん♪ という反発音と共に、床に弾むボールを「待て待て~っ!?」と追いかける。

 なにアレ?

 小動物かな?



「むきーっ!? なんで入らないんだべさっ!?」
「おいっす~。根古屋後輩、なにやってんの?」
「――ッ!? ば、バーバリアン1号先輩!?」
「よかった、エイリアン先輩って呼ばれなくて♥」
「いや、ポジティブ過ぎひんか相棒?」



 怒れや、とあきれた表情で俺の後をついて来ていた元気を、根古屋1年生はギョッ!? とした目で見据え。



「バーバリアン2号っ!?」
「あぁんっ!? 誰がバーバリアン2号や、小娘!?」
「ひぃぃっ!? ご、ごめんなさい~っ!?」
「まぁまぁ。落ち着けよ、バーバリアン・キング?」
「違うっ! 別に役職で怒ってるんやなかっ!」



 元気に睨まれて、杏仁豆腐のようにぷるぷる震えだす根古屋新入生。

 美味しそうだ。

 俺はガルガルッ! 唸っている元気をやんわりたしなめながら、申し訳なさそうな顔を作って、根古屋後輩に頭を下げた。



「すまんな、バーバリアン0号。ウチのファンキーモンキーがご迷惑をおかけしたみたいで」
「誰がバーバリアン0号だべさ!?」
「というか相棒、この失礼な小娘と妙に仲良さげやが、知り合いか?」



 誰なんや? と、不審そうな目で根古屋1年生をジロジロ見下ろす我が親友。

 そんな親友のねっとりとしたいやらしい視線が耐えられなかったのか、ササッ! と明後日の方向に視線を逃す根古屋後輩。

 あぁっ、そういえば2人は初対面か。



「紹介するわ、彼女の名前は『根古屋寅美ねこやとらみ』。昨日、海で溺れてたから助けてあげた、吉備津彦中学ウチの新入生さ」

「別に溺れてない……。というか、溺れてたのは先輩の方だべさ」

「んで、コッチの人型オーク――もとい、歌と6弦と弟がマキシマムなのが我が親友、猿野元気3年生だ」

「相棒、ちゃう。それワイやない。マキシ●ムザ亮君や」
「本当に親友だべさ?」



 2人の自己紹介も無事に済んだことだし、さてと。

 俺はスタスタと床に転がっているバスケットボールの元まで移動し、ひょいっ! とソレを拾い上げるなり、ダムダムとドリブルしながら2人の方へと戻って行った。



「それで? 根古屋後輩はバスケットボール片手に、何やってたワケ?」
「……見れば分かるべさ。3ポイントシュートを決めようとしてたっぺ」



 そう言って、忌々いまいまし気にバスケットリングを睨みつける根古屋新入生。

 確かに、俺たちが今立っている場所は3ポイントラインの真上だった。

 俺は適当に片手でボールをリングの方へ放り投げながら、感嘆の声をあげた。



「なになに? 練習? もしかして女バスに入る予定でして?」

「いや、ただ純粋に花丸INポイントノートの次のお題が『3ポイントシュートを決める』ことで――えぇぇぇぇ~~~っ!? なんでそんな適当に放ったシュートがゴールに入るんだべさ!?」

「あぁ、相棒に常識を求めたらアカンぞ? コイツ、フィジカル・モンスターやさかい」



 綺麗な放物線を描きながら、俺の放ったシュートがパサッ! と軽やかな音と共に、バスケットリングを小さく揺らした。

 途端に根古屋後輩が驚いたように、リングと俺の顔を交互に見返し始める。

 どうした?

 俺の顔面に見惚れているのか?



「ど、どどど、どうやって!?」
「うん?」
「どうやって決めたべさ!? コツは!? 何かコツとかあるべさか!?」
「コツ? なんだ、知りたいのか?」



 コクコクコクコクッ! と、キラキラした瞳で何度も首を縦に振る根古屋新入生。

 ふむ、何だかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。

 よろしいっ!

 昨日助けてくれたお礼に、シュートのコツを教えてしんぜようっ!



「いいか? ようはシュートフォームが滅茶苦茶でも、ボールがリングの中に入ればいいワケだろ?」

「だべっ!」

「だからまずは、根古屋は覚えている限り、出来るだけリアルなマ●コ・デラックスを想像するんだ」

「だべっ!? マ●コッ!?」



 なんでっ!? と目を剥く根古屋後輩に「シッ! 集中しろ」と、精神統一を促す。

 根古屋は何か言いたそうに口をモゴモゴさせていたが、とりあえず黙って脳裏にマ●コ・デラックスを思い浮かべる作業に戻った。



「よし、いいぞ。次はその横に猿岩石の毒舌王子をセットするんだ」
「か●そめ天国!?」
「この間の放映、面白かったもんなぁ~」



 俺は元気から転がっていたバスケットボールを受け取りながら、全神経をバスケットゴールリングに集中させる。



「最後に司会のアナウンサーを横にそっと添えたら、準備完了だ。リングに向かって、ボールを放て!」

「こんなの絶対に入らないべっ!」
「安心しろ、人事は尽くした」



 懐疑的かいぎてきな根古屋の視線に見守られながら、俺の放ったシュートは綺麗な放物線を描きつつ、吸い込まれるようにリングへと向かっていき――



「――俺のシュートは落ちん」



 パシュッ! とゴールリングを揺らす軽やかな音が、俺たちの鼓膜を優しく撫でた。



「なんでっ!?」
「だから言ったろ? 人事は尽くしたって」

「いや、尽くしてないべさ!? 先輩がやったことは、先週放映された『マ●コ&有吉 か●そめ天国』を思い出しただけだべよ!?」

「やから言うたのに。相棒に常識を求めちゃアカンと」



 ゴール下で待機していた元気から、バスケットボールを再びパスして貰い、根古屋に手渡す。



「まぁまぁ。騙されたと思って、まずはやってみろ?」
「ほんと騙されている気しかしないっぺ……」



 ぶつくさ文句を言うわりには、大人しく指示に従う根古屋後輩。

 はっは~ん? さてはコイツ、いい子だな?



「頭の中にマ●コを思い浮かべて……こうっ!」



 ブンっ! と無茶苦茶なフォームで放たれた根古屋のシュートは、汚い回転のまま、まるで先ほどの俺のリプレイでも見ているかのように、



 ――パシュッ! ……テンテンテンテン。



「嘘ッ!? ほんとに入った!?」
「なっ、だから言ったろ?」



 初めて3ポイントシュートが成功したのが、そんなに嬉しかったのか、ほぼ放心状態でゴールリングを見続ける根古屋1年生。

 おぉ~っ! と野太い歓声をあげる我が親友の声をBGMに、俺は根古屋後輩の肩をポンッ! と叩いた。



「よし、今夜は祝勝パーティーだな。今日の放課後、ラーメンを食べに行くぞ後輩っ!」
「なんか釈然しゃくぜんとしないモノがあるべさ――って、ラーメン!?」



 ブルドックみたいに顔をしかめていた根古屋の表情が、一瞬にしてパっ! と花開いた。

 そのまま架空のシッポをぶんぶんっ! 振り回しながら、どこか期待するような目線で俺を見上げてくる。



「それは所謂いわゆる、か、『買い食い』というヤツだべか!?」

「『買い食い』って言うより『無料タダ食い』だな、無料券あるし。どうした、そんなに身体を震わせて? もしかしてラーメン嫌いか?」

「~~~~ッッッッ!?!?」



 ぶんぶんぶんぶんっ! と架空のシッポと首を真横に振りまわす根古屋1年生。

 どうやら嫌いではないらしい。



「よし、なら決まりだな。昨日助けてくれたお礼に、ラーメンご馳走してやんよ」
「やったー!」
「ちょい待ち相棒。この無料券、相棒とワイの分しか無いんやが?」



 スカートがひるがえって、お子さまパンツ(星柄)が世界まる見えになっている事も構わず、その場でぴょんぴょんっ! と元気よく跳ね回る根古屋後輩。

 そんな根古屋を尻目に、どことなく不満気な表情の元気が、コバセンから貰った無料券をヒラヒラさせながら俺に近づいてくる。



「安心しろ、元気。根古屋の分は俺が出す」
「いいんだべさ、先輩?」

「あぁ。ちょうど今日、姉ちゃんの財布からパクッてきたポイントカード1000円分がある。コレを使おう」

姉御あねごに殺されるで、相棒?」



 ぶるっ!? とジャガイモの擬人化、もとい我が親友の顔から血の気が撤退する。

 おそらく先週、俺と一緒に姉ちゃんに、顔面がマッシュポテト寸前になるまでブン殴られた件を思い返しているのだろう。

 いやぁ、本当あの時は死ぬかと思ったよなぁ。

 比喩ひゆではなくマジで。



「あの先輩? 本当にいいんだべさ……?」

「オフコース。気にすんな根古屋。人の金で喰うめしは最高にうめぇもんだ、それが他人のポイントカードなら猶更なおさらに……な?」

「流石は相棒や。将来はプロおごラレイヤーやなっ!」
「それはただのロクデナシでは?」



 かくして、紆余曲折がありつつも、俺たちは根古屋をお供に、駅前のラーメン屋へと突貫する事にしたのであった。
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