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第5部 シンデレラボーイは、この『オカマ帝国』に逆襲する義務がある!
第23話 それいけっ! おっぱいバレー
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結論から言って、もう負けそうである。
「INッ! 鷹野・大和田ペア、1ポイント!」
『おぉ~っと!? 鷹野・大和田ペア、連続ポイントだぁぁぁぁっ!? 強い、強すぎるぞ、このペア! 誰がこのペアの猛攻を止められるって言うんだぁぁぁぁぁっ!?』
ネットの向こう側でハードゲイと兄上が、笑顔でハイタッチを交わす。
そんなボーイズ達とは反対に、俺とよこたんは、もう泣きそうだった。
『さぁ、これでスコアは9対0。鷹野・大和田ペア、勝利に王手をかけました! 大神・古羊ペア、ここから逆転はもう無理かぁ~? 無理だろうなぁ、コレ……』
実況のお姉さんが、ポロリと本音を唇からまろび出しながら、鷹野たちの次のプレーにワクワクした表情を向けていた。
うん。ギャラリーも含めて、誰も俺たちの勝利を信じていない……寂しい。
「ど、どどどど、どうしようっ!? どうしよう、ししょーっ!? 負けちゃう、あと1点で負けちゃうよ、ボクたち!?」
「お、おお、落ちちゅけっ! 落ちちゅけ、よこたん!? ま、まずは落ちちゅいて……タイムマシーンを探すんだ!」
「落ち着いて、ししょーっ!? 諦めたら、そこで試合終了だよ!?」
2人揃って【あばばばば!?】状態の俺たちを無視して、鷹野が自軍のコートの隅っこへと、ボールを持って移動した。
「これで最後や! イクで、喧嘩狼!」
「こないでっ!? お願い!」
俺の願い空しく、鷹野のジャンプサーブが、またもやラブリー☆マイエンジェルめがけて飛んでくる。
あの野郎、さっきから俺の1番弟子ばかり狙いやがって!
世が世なら打ち首獄門だぞ?
「ひぇっ!? き、きたぁぁぁっ!?」
「うぉぉぉぉっ!? 燃えろ、俺の中のナニかぁぁぁぁぁっ!」
ハードゲイの放った剛速球に、身体が硬直して動けない、よこたん。
そんな爆乳わん娘を庇うように、ボールとの間に無理やり身体をねじ込んで、胸でレシーブする俺。
童貞秘術【雄っぱいレシーブ】である。
「よっしゃ! チャンスボールや、ノブッ!」
「はい、タカさん」
ぼむんっ! と勢いよく弾んだボールは緩い孤を描きながら、鷹野たちのコートへと跳ね返っていく。
そのまま大和田の兄やんが、ネットから少し離れた位置にトスをあげると、鷹野が助走をつけて、女体を前にした男子中学生のようにボールに飛びついた。
「喰らえ! 必殺【喧嘩狼はワシの嫁~罵倒も添えて~】スパァァァ――イクッ!」
謎のフレンチ料理風の技名を口走る鷹野の、強烈なスパイクが俺たちのコートの隅へと突き刺さる。
あっ、終わった。
俺、終わったわ。
大神士狼の【貞操、終了】のお知らせが、脳内テロップで目の前に浮かび上がるのとほぼ同時に、審判の『ピッ!』という笛の音がビーチに響き渡った。
「OUTッ! 大神・古羊ペア、1ポイント!」
『おぉ~っ! 大神・古羊ペア、相手のミスにより、ぎりぎり首の皮1枚つながったぁぁぁ! これにより、サーブ権が大神・古羊ペアに移行します。しかし、それでも点差は9対1! 果たして、ここから反撃なるかぁ!?』
「チッ。命拾いしたのぅ、牛乳女」
だが次はない、とよこたんに言い残して、大和田の兄様のもとへと帰っていく鷹野。
そんなハードゲイの後ろ姿を見送りつつ、俺と爆乳わん娘は「ぶはぁっ!?」と息を吐き捨てた。
「「た、助かったぁ~」」
いやほんと、鷹野があんなにビーチバレーが上手いとは思わなかったわ!
経験者か、アイツ?
「でも、これからどうしようか、ししょー? 下手なサーブなんか打ったら、タカノくん達にアッサリ拾われちゃうよ?」
「そうなんだよなぁ~」
コートの隅に転がっているボールを拾い上げながら、改めて鷹野と大和田の兄上に視線をよこす。
地味に大和田の兄上もビーチバレーが上手いので、素人である俺たちのサーブなんぞ、涼しい顔をして返してきそうだし……う~ん。
「あぁもう!? 打つ手ナシじゃん、チクショウめ!」
「あわわっ!? 諦めちゃダメだよ、ししょーっ!」
「諦めるな言ったって、おまえ……。モチベーションも上がらんし、どうしようも出来んぞ、こんなの!?」
アイツらは勝てば賞品が手に入るから頑張れるが、俺は勝っても自分の貞操を守れる以外に何もねぇもん!
そりゃ必死にこそなるが、気持ちが乗らないわ!
「俺にも何かご褒美があれば、もっと頑張れるのに!」
「ご褒美……」
頭を抱えて絶叫する俺の隣で「ふむ……」と何か考え込む仕草を見せる、よこたん。
やがて、パっ! と顔を上げると、確認するように俺の顔を覗き込みながら。
「ご褒美があったら、頑張れるの?」
「おっ? おぅ、あたぼーよ」
「わ、分かった……」
「???」
若干頬を赤らめ、恥ずかしそうに唇をモニョモニョさせる、ラブリー☆マイエンジェルよこたん。
その瞳は何かの覚悟を決めたように、妖しく輝いていて……んん?
分かった?
なにが?
「おい? どうした、よこたん――」
「そ、それじゃっ! この試合に勝ったら……お、おっぱい! 揉ませてあげる! って、言ったら……頑張れる?」
――ドパァンッ!
瞬間、雷鳴の如き爆音と共に、俺のサーブが敵陣のど真ん中に突き刺さっていた。
「「「「「…………はっ?」」」」」
何が起きたのか、分からない。
そう言わんばかりに、1歩も動くことが出来ず、ただ自軍のコートに突き刺さったボールを見つめる、鷹野と大和田の兄貴。
それは、この試合を見物していたギャラリー達も同じだった。
全員、同じ顔をして、俺の放ったサーブを注視していた。
圧倒的なまでの静寂が、この場を支配する。
が、それも数秒だけ。
「審判。コールは?」
「えっ? ……あっ!?」
俺の声かけに、数泊遅れて、審判の『ピッ!』という笛の音が静寂を切り裂いた。
「い、INッ! 大神・古羊ペア、1ポイントッ!」
審判はコールすると同時、押し黙っていたギャラリーが「ワッ!?」と歓声をあげた。
地鳴りのようにビーチに鳴り響く歓声をすり抜けるように、鷹野と大和田の兄様の声が、俺の耳朶を叩く。
「な、なんや今のは? サーブか……?」
「わ、分かりません。雷のような音がしたかと思えば、ボールがコチラに突き刺さっていました……」
俺は困惑している大和田のあにぃから、ボールを受け取るなり、確認するようにラブリー☆マイエンジェルに笑顔を向けた。
「ご褒美、この試合に勝てばいいんだよね?」
「えっ? う、うん。そうだけど……」
「全力で了解!」
状況が呑み込めていない爆乳わん娘を無視して、俺は再びサーブ体勢に入った。
『よ、よく分かりませんが、これで大神・古羊ペア、連続ポイントです! それでも、やはり点差は9対2。圧倒的に鷹野・大和田ペアが有利ですが、果たして大神・古羊ペアはどうでるぅ?』
実況が何かを言っていたが、流れる汗と共に頭から除外される。
ただ、目の前のコートにボールを叩きこむ。
それだけに全神経を集中させる。
「――憤ッ!」
気合一閃。
俺の放ったサーブが、またしてもピクリとも動けない鷹野と大和田の兄者の間に突き刺さった。
途端にギャラリーと実況が狂ったように声を張り上げた。
『ま、またもや連続ポイントだぁぁぁぁぁっ! 間違いないっ! このチームむちむち、いや、むちむチームは勝負をひっくり返す気だぁぁぁぁぁっ!?』
熱をあげる実況の声が、ビリビリと肌を叩く。
構わず俺はボールを受け取り、流れるようにサーブ体勢に入る。
ふわっ♪ と、天高く上げたボールに渾身の力を乗せ、打ち込む。
ただそれだけで、ボールは吸い込まれるように敵チームのコートへと突き刺さる――
「――舐めるなぁっ!」
苦し紛れに突き出した鷹野の片手が、俺のサーブを拾い上げる。
流石に3度目とあっては対応されるか。
「あわわわっ!? と、取れられちゃった!? 取られちゃったよぉ!?」
わたわたっ!? と、慌てふためく爆乳わん娘を横目に、俺はコートの真ん中にドンっ! と陣取った。
「ノブッ!」
「了解です、タカさんっ!」
助走体勢に入ったハードゲイのもとに、大和田の兄ちゃまが、ふんわりとしたトスを上げる。
鷹野はドンっ! と大きく踏み込むなり、小柄な身体からは想像できない跳躍力で、大和田のお兄様が上げたボールを迎えにいく。
そのまま流れるように、よこたんに向けてスパイクッ!
……すると見せかけて。
トンっ。
ネットインぎりぎりの手元へと、ボールを落としてきた。
今までの執拗なまでのよこたん狙いから、一転してのフェイント。
並みの男なら、反応できない一撃。
だが、悪いな?
「そこはもう、俺の守備範囲内だ」
「「んなっ!?」」
勝利を確信していた鷹野と兄上の顔が、驚きに固まる。
ボールはビーチに落ちることなく、滑り込んだ俺の手の甲に当たり、ぽーんっ! と高く打ち上がっていた。
「な、なんであの位置から反応できるんや!?」
「すまんな? 人は『おっぱい』のためなら、限界なんて軽く超えていけるんだ」
素早く立ち上がり、我らが双子姫さまの名前を鋭く叫ぶ。
「よこたんっ!」
「ひゃいっ!?」
「どこでもいいっ! トスを上げてくれ!」
「えっ? う、うんっ!」
よこたんは、よたよたッ!? と危なっかし足取りでボールの下へと移動すると「え、え~いっ!」と気の抜ける掛け声と共に、明後日の方向へとトスを上げた。
「はんっ、牛乳女がっ! どこへ上げとるんやっ?」
と、鷹野のせせら笑う声を無視して、俺は明後日の方向へ走りだす。
そのままの勢いでジャンプするなり、人体の持てる限りの力を持って、ボール強く相手コートに叩きつけた。
爆音と共に放たれたスパイクに、もはや反応することすら許さない、無慈悲なる一撃。
鷹野の真横を一直線に通り抜け、コートに突き刺さる。
そして、ただただ審判の『ピッ!』という笛の音だけが、無情に響き渡った。
「い、INッ! 大神・古羊ペア、1ポイントッ!」
『い、一体このコートで何が起こっているというのか!? スーパープレイのオンパレードに、もはや何て言ったらいいのか分かりません! しかし、今、1つだけ言える事がありますっ! 我々は、歴史の証言者になろうとしているっ!』
呆然とする鷹野と大和田の兄貴。
俺はそんな2人を尻目に、粛々とボールを受け取りながら、再びサーブ体勢に入った。
「悪いが、大儀のための犠牲となれ」
「INッ! 鷹野・大和田ペア、1ポイント!」
『おぉ~っと!? 鷹野・大和田ペア、連続ポイントだぁぁぁぁっ!? 強い、強すぎるぞ、このペア! 誰がこのペアの猛攻を止められるって言うんだぁぁぁぁぁっ!?』
ネットの向こう側でハードゲイと兄上が、笑顔でハイタッチを交わす。
そんなボーイズ達とは反対に、俺とよこたんは、もう泣きそうだった。
『さぁ、これでスコアは9対0。鷹野・大和田ペア、勝利に王手をかけました! 大神・古羊ペア、ここから逆転はもう無理かぁ~? 無理だろうなぁ、コレ……』
実況のお姉さんが、ポロリと本音を唇からまろび出しながら、鷹野たちの次のプレーにワクワクした表情を向けていた。
うん。ギャラリーも含めて、誰も俺たちの勝利を信じていない……寂しい。
「ど、どどどど、どうしようっ!? どうしよう、ししょーっ!? 負けちゃう、あと1点で負けちゃうよ、ボクたち!?」
「お、おお、落ちちゅけっ! 落ちちゅけ、よこたん!? ま、まずは落ちちゅいて……タイムマシーンを探すんだ!」
「落ち着いて、ししょーっ!? 諦めたら、そこで試合終了だよ!?」
2人揃って【あばばばば!?】状態の俺たちを無視して、鷹野が自軍のコートの隅っこへと、ボールを持って移動した。
「これで最後や! イクで、喧嘩狼!」
「こないでっ!? お願い!」
俺の願い空しく、鷹野のジャンプサーブが、またもやラブリー☆マイエンジェルめがけて飛んでくる。
あの野郎、さっきから俺の1番弟子ばかり狙いやがって!
世が世なら打ち首獄門だぞ?
「ひぇっ!? き、きたぁぁぁっ!?」
「うぉぉぉぉっ!? 燃えろ、俺の中のナニかぁぁぁぁぁっ!」
ハードゲイの放った剛速球に、身体が硬直して動けない、よこたん。
そんな爆乳わん娘を庇うように、ボールとの間に無理やり身体をねじ込んで、胸でレシーブする俺。
童貞秘術【雄っぱいレシーブ】である。
「よっしゃ! チャンスボールや、ノブッ!」
「はい、タカさん」
ぼむんっ! と勢いよく弾んだボールは緩い孤を描きながら、鷹野たちのコートへと跳ね返っていく。
そのまま大和田の兄やんが、ネットから少し離れた位置にトスをあげると、鷹野が助走をつけて、女体を前にした男子中学生のようにボールに飛びついた。
「喰らえ! 必殺【喧嘩狼はワシの嫁~罵倒も添えて~】スパァァァ――イクッ!」
謎のフレンチ料理風の技名を口走る鷹野の、強烈なスパイクが俺たちのコートの隅へと突き刺さる。
あっ、終わった。
俺、終わったわ。
大神士狼の【貞操、終了】のお知らせが、脳内テロップで目の前に浮かび上がるのとほぼ同時に、審判の『ピッ!』という笛の音がビーチに響き渡った。
「OUTッ! 大神・古羊ペア、1ポイント!」
『おぉ~っ! 大神・古羊ペア、相手のミスにより、ぎりぎり首の皮1枚つながったぁぁぁ! これにより、サーブ権が大神・古羊ペアに移行します。しかし、それでも点差は9対1! 果たして、ここから反撃なるかぁ!?』
「チッ。命拾いしたのぅ、牛乳女」
だが次はない、とよこたんに言い残して、大和田の兄様のもとへと帰っていく鷹野。
そんなハードゲイの後ろ姿を見送りつつ、俺と爆乳わん娘は「ぶはぁっ!?」と息を吐き捨てた。
「「た、助かったぁ~」」
いやほんと、鷹野があんなにビーチバレーが上手いとは思わなかったわ!
経験者か、アイツ?
「でも、これからどうしようか、ししょー? 下手なサーブなんか打ったら、タカノくん達にアッサリ拾われちゃうよ?」
「そうなんだよなぁ~」
コートの隅に転がっているボールを拾い上げながら、改めて鷹野と大和田の兄上に視線をよこす。
地味に大和田の兄上もビーチバレーが上手いので、素人である俺たちのサーブなんぞ、涼しい顔をして返してきそうだし……う~ん。
「あぁもう!? 打つ手ナシじゃん、チクショウめ!」
「あわわっ!? 諦めちゃダメだよ、ししょーっ!」
「諦めるな言ったって、おまえ……。モチベーションも上がらんし、どうしようも出来んぞ、こんなの!?」
アイツらは勝てば賞品が手に入るから頑張れるが、俺は勝っても自分の貞操を守れる以外に何もねぇもん!
そりゃ必死にこそなるが、気持ちが乗らないわ!
「俺にも何かご褒美があれば、もっと頑張れるのに!」
「ご褒美……」
頭を抱えて絶叫する俺の隣で「ふむ……」と何か考え込む仕草を見せる、よこたん。
やがて、パっ! と顔を上げると、確認するように俺の顔を覗き込みながら。
「ご褒美があったら、頑張れるの?」
「おっ? おぅ、あたぼーよ」
「わ、分かった……」
「???」
若干頬を赤らめ、恥ずかしそうに唇をモニョモニョさせる、ラブリー☆マイエンジェルよこたん。
その瞳は何かの覚悟を決めたように、妖しく輝いていて……んん?
分かった?
なにが?
「おい? どうした、よこたん――」
「そ、それじゃっ! この試合に勝ったら……お、おっぱい! 揉ませてあげる! って、言ったら……頑張れる?」
――ドパァンッ!
瞬間、雷鳴の如き爆音と共に、俺のサーブが敵陣のど真ん中に突き刺さっていた。
「「「「「…………はっ?」」」」」
何が起きたのか、分からない。
そう言わんばかりに、1歩も動くことが出来ず、ただ自軍のコートに突き刺さったボールを見つめる、鷹野と大和田の兄貴。
それは、この試合を見物していたギャラリー達も同じだった。
全員、同じ顔をして、俺の放ったサーブを注視していた。
圧倒的なまでの静寂が、この場を支配する。
が、それも数秒だけ。
「審判。コールは?」
「えっ? ……あっ!?」
俺の声かけに、数泊遅れて、審判の『ピッ!』という笛の音が静寂を切り裂いた。
「い、INッ! 大神・古羊ペア、1ポイントッ!」
審判はコールすると同時、押し黙っていたギャラリーが「ワッ!?」と歓声をあげた。
地鳴りのようにビーチに鳴り響く歓声をすり抜けるように、鷹野と大和田の兄様の声が、俺の耳朶を叩く。
「な、なんや今のは? サーブか……?」
「わ、分かりません。雷のような音がしたかと思えば、ボールがコチラに突き刺さっていました……」
俺は困惑している大和田のあにぃから、ボールを受け取るなり、確認するようにラブリー☆マイエンジェルに笑顔を向けた。
「ご褒美、この試合に勝てばいいんだよね?」
「えっ? う、うん。そうだけど……」
「全力で了解!」
状況が呑み込めていない爆乳わん娘を無視して、俺は再びサーブ体勢に入った。
『よ、よく分かりませんが、これで大神・古羊ペア、連続ポイントです! それでも、やはり点差は9対2。圧倒的に鷹野・大和田ペアが有利ですが、果たして大神・古羊ペアはどうでるぅ?』
実況が何かを言っていたが、流れる汗と共に頭から除外される。
ただ、目の前のコートにボールを叩きこむ。
それだけに全神経を集中させる。
「――憤ッ!」
気合一閃。
俺の放ったサーブが、またしてもピクリとも動けない鷹野と大和田の兄者の間に突き刺さった。
途端にギャラリーと実況が狂ったように声を張り上げた。
『ま、またもや連続ポイントだぁぁぁぁぁっ! 間違いないっ! このチームむちむち、いや、むちむチームは勝負をひっくり返す気だぁぁぁぁぁっ!?』
熱をあげる実況の声が、ビリビリと肌を叩く。
構わず俺はボールを受け取り、流れるようにサーブ体勢に入る。
ふわっ♪ と、天高く上げたボールに渾身の力を乗せ、打ち込む。
ただそれだけで、ボールは吸い込まれるように敵チームのコートへと突き刺さる――
「――舐めるなぁっ!」
苦し紛れに突き出した鷹野の片手が、俺のサーブを拾い上げる。
流石に3度目とあっては対応されるか。
「あわわわっ!? と、取れられちゃった!? 取られちゃったよぉ!?」
わたわたっ!? と、慌てふためく爆乳わん娘を横目に、俺はコートの真ん中にドンっ! と陣取った。
「ノブッ!」
「了解です、タカさんっ!」
助走体勢に入ったハードゲイのもとに、大和田の兄ちゃまが、ふんわりとしたトスを上げる。
鷹野はドンっ! と大きく踏み込むなり、小柄な身体からは想像できない跳躍力で、大和田のお兄様が上げたボールを迎えにいく。
そのまま流れるように、よこたんに向けてスパイクッ!
……すると見せかけて。
トンっ。
ネットインぎりぎりの手元へと、ボールを落としてきた。
今までの執拗なまでのよこたん狙いから、一転してのフェイント。
並みの男なら、反応できない一撃。
だが、悪いな?
「そこはもう、俺の守備範囲内だ」
「「んなっ!?」」
勝利を確信していた鷹野と兄上の顔が、驚きに固まる。
ボールはビーチに落ちることなく、滑り込んだ俺の手の甲に当たり、ぽーんっ! と高く打ち上がっていた。
「な、なんであの位置から反応できるんや!?」
「すまんな? 人は『おっぱい』のためなら、限界なんて軽く超えていけるんだ」
素早く立ち上がり、我らが双子姫さまの名前を鋭く叫ぶ。
「よこたんっ!」
「ひゃいっ!?」
「どこでもいいっ! トスを上げてくれ!」
「えっ? う、うんっ!」
よこたんは、よたよたッ!? と危なっかし足取りでボールの下へと移動すると「え、え~いっ!」と気の抜ける掛け声と共に、明後日の方向へとトスを上げた。
「はんっ、牛乳女がっ! どこへ上げとるんやっ?」
と、鷹野のせせら笑う声を無視して、俺は明後日の方向へ走りだす。
そのままの勢いでジャンプするなり、人体の持てる限りの力を持って、ボール強く相手コートに叩きつけた。
爆音と共に放たれたスパイクに、もはや反応することすら許さない、無慈悲なる一撃。
鷹野の真横を一直線に通り抜け、コートに突き刺さる。
そして、ただただ審判の『ピッ!』という笛の音だけが、無情に響き渡った。
「い、INッ! 大神・古羊ペア、1ポイントッ!」
『い、一体このコートで何が起こっているというのか!? スーパープレイのオンパレードに、もはや何て言ったらいいのか分かりません! しかし、今、1つだけ言える事がありますっ! 我々は、歴史の証言者になろうとしているっ!』
呆然とする鷹野と大和田の兄貴。
俺はそんな2人を尻目に、粛々とボールを受け取りながら、再びサーブ体勢に入った。
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