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第4部 シンデレラボーイは、この『文化祭』を成功させる義務がある!

第25話 本物の『外道』を見せてやる

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「呼ばれてないけどジャジャジャジャ~ン♪」


 間の抜けた赤髪の少年、もとい士狼の小さなつぶやきが、この場に居る全員の身体に大音量となって駆け巡る。

 途端に、その場に居た男子学生たちの顔からサァッ!? と血の気が引いていった。

 全員の顔に「ヤバいっ!?」と焦りの表情が浮かび上がる中、士狼の正体を知らない一色を含めた大学生たちは、不愉快そうに眉根を寄せながら、値踏みするかのようにジロジロと士狼を睨みつけた。



「な、なんだテメェは? って、あっ!? おまえ、確か昨日のオカマ野郎じゃん? び、ビビったぁ~。先公かと思って、焦ったぜ」

「なになに? あっ、おたくの彼女さん、もうすぐ美味しくいただきまぁ~す! なんちゃって!」

「おいおい、ボケてる場合か、おまえら? どうするコイツ?」



 下品に笑い合う大学生の声が、不愉快に士狼の鼓膜を撫でる。

 もちろん、そんなこと知らん! とばかりに、一色誠は吐き捨てるように声をこぼした。



「とうぜん口止めだ。ちょっと痛い思いをしてもらうが、なぁにスグ済む。……おい、おまえら? ソイツの身体を押さえろ」



 茶髪の一色がガタガタッ!? と震える後輩たちに命令を下すが、返事がない。

 どうやら全員、足が震えて動けないらしい。

 そんな頼りない後輩たちに「チッ」と舌打ちをかましながら「しょうがねぇなぁ」と、一色はかったるそうに溜息ためいきをこぼした。



「使えねぇ後輩のために、先輩が一肌脱いでやりますかなぁ」

「おっ? イッちゃんのメガトンパンチが火を吹いちゃう? 吹いちゃうかなぁ? んん~?」

「よっ! 未来の世界チャンピオン! 何か分からんけど」

「茶化すな、茶化すなって。……よっとっ!」




 拳を握りしめた一色が面倒臭そうに士狼に近づきながら、有無を言わさずコメカミめがけて大振りの右フックを仕掛ける。




 が、フックがコメカミに突き刺さるよりも早く、士狼の槍のように鋭い右足の一撃が、一色のみぞおちに、深々と突き刺さっていた。




 カハッ!? と肺の中に入っていた空気を強制的に吐き出さされ、みぞおちを押さえながら、膝から崩れ落ちる大学生。

 士狼は冷めた眼つきでひざまずく一色を見下ろしながら、再びヤツの顔面めがけて右足を振り抜いた。

 ゴキャッ! と鈍い音を立てながら、近くで震えていた男子生徒たちを巻き込んで、吹き飛んでいく一色。

 まるでサッカーボールのように飛んでいく人体を前に、双葉宗助と三条スバルは『意味が分からない』とばかりに、目を見開いた。



「……えっ? い、イッちゃん?」
「う、ウソだろ……?」



 口から泡を吹き、完全に白目を剥いて意識が飛んでいる仲間を前に、双葉と三条の2人は青ざめた顔でポツリと溢す。

 そんなOBの言葉など耳に届いていない士狼は、クルリと控室を一瞥した。

 無造作に制服を脱がされている女子生徒たちに、胸を鷲掴みにされている洋子。

 そしてなにより、今にも大事な所が見えそうなギリギリのラインで下着が見えている芽衣。

 それだけで、現状を把握するのは充分であった。



「うわぁ、こりゃまた派手にやっとるのぅ」



 ひょっこり! と士狼の背後から、鷹野と大和田が顔を出す。

 大和田はキョロキョロと控室の中を見渡し、あられもない姿で男子生徒たちに身体を触られている最愛の妹の姿を発見するや否や、鬼の形相へと表情を変えた。



「の、信菜さんっ!? ――テメェら、ウチの可愛い嫁入り前の妹に、何してくれとんじゃっ!? ぶち殺すぞ、ワレェっ!?」

「おっと、ノブの『る気スイッチ』が入っちゃったぜよ。可哀そうにのぅ、おまえら。残念やけど、全員半殺し決定や」



 グルルルッ! と獣の如き吐息を溢す大和田と、それを飄々とした様子で楽しそうに男子生徒たちを眺める鷹野。

 もはやミスコン実行委員の男達は、混乱の極致であった。

 な、なんであの鷹野と大和田が、ここにっ!?

 九頭竜高校の頭と参謀の登場で、余計に身体が硬直する男たち。

 大和田は血走った瞳のまま、妹の身体に手を出している生徒たちの1人のもとまで突貫すると、有無を言わさず、その顔面に拳を叩きこむ。

「す、すみませっ!?」と泣き謝る男子生徒を無視して、鼻が折れようが、前歯が折れようが、お構いなしに、拳を叩きこみ続ける。

 本物の鬼が、そこには居た。



「この腐れ外道共が……楽に死ねると思うなよ? 苦痛に苦痛を重ねて、苦しみながら殺してやるっ!」



 呪詛を唱えるかのように、口をひらく大和田。

 そんな大和田に、意外なほど冷静な声をかけたのは、誰であろう士狼であった。



「それは違うぜ、お兄様。コイツらは、外道でも何でもねぇよ」



「喧嘩狼……?」と、怪訝けげんそうな瞳を士狼に向ける大和田。

 士狼はそんな大和田の視線を浴びながら、完全に恐怖で顔が強ばっているOBと男子学生たちに、ハッキリと言ってやった。



「安心していいぜ? テメェらは外道なんかじゃねぇよ」



 双葉宗助と三条スバル、そしてミスコン実行委員会の野郎どもを一瞥しながら、士狼がそう言うと、全員安心したかのように『ほっ……』と顔をほころばせた。

 助かった……っ!

 全員がそう思った。

 が、それもほんの数秒だけ。

 すぐさま士狼の次の言葉によって、自分たちが『狩られる側』であることを思いだした。



「外道なんかじゃねぇよ……。例え私利私欲で女の純情とプライドをもてあそぼうが、性欲を満たすためだけに襲おうが、そんなの外道とは呼ばねぇよ」



 ピリッ! と肌がヒリつくような圧迫感が、部屋を支配する。

 圧倒的なまでの存在感。



「「「「「――ッ!?」」」」」



 瞬間、頭が理解する前に、彼らの細胞が理解してしまった。

 目の前にいる怪物いきものは、自分たちとは別の生き物だ――ということに。

 数秒遅れて、この場にいる全員が理解した。

 あぁ……自分たちは踏んではいけない狼の尻尾を踏んでしまったのだ、と。

 少年たちは、選択を誤った事を全力で後悔した。

 が、今さら後悔したところで、もう遅い。

 士狼の小さく、静かな声は、男子学生たちの耳に大音量となって駆け抜けていった。




「――行くぜ、三下。本物の『外道』ってヤツを、今からテメェらに見せてやる」




 士狼がそうつぶやいた瞬間、芽衣の意識はぷっつりと途切れた。
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