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第2部 オオカミ少女は、この『シンデレラボーイ』を幸せにする義務がある!

第35話 終わりよければ『すべて』よし!

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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~んっ!? 鹿目ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~んっ!?」


 カッコよく鹿目ちゃんたちと別れ、生徒会室へと帰ってきた俺は、自分の机に突っ伏して、盛大に号泣していた。



「チクショウ、鹿目ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~んっ!?」
「なるほどねぇ。僕とネコちゃんが居ない間に、そんな面白いことが起きてたんだねぇ」
「面白いかはさておき、まぁ大変な1週間でしたよ?」
「……生徒会の恥め。勉強しろ、勉強」
「そ、そんなコト言っちゃダメですよ、ネコセンパイっ!? ほ、ほらっ! 落ち着いて、ししょー? ジュースでも呑んで、元気だしてよ!」



 生徒会の打ち上げも終わり、午後7時ちょうど。

 星たちが騒ぎ出すこの時間、俺は生徒会役員全員に見守られながら、わんわんと、みっともなく泣き続けていた。

 苦笑を浮かべる芽衣。

 わくわく♪ と言った様子で、目をキラキラさせる廉太郎変態。

 侮蔑の眼差しを向けてくる羽賀先輩。

 そして泣きじゃくる俺をフォローする、大天使よこたん。

 生徒会は今日も平常運転であった。



「あっ! あそこを歩いているアイツ、今、俺を見て笑ったぞ!? あっ、アイツもっ!? ソイツもっ!? どいつもっ!? こいつも!? み、みんな笑ってる……お日さまも笑ってる!? る~るるるっる~♪」

「ししょー、案外余裕ない?」



 お魚くわえたドラ猫を、裸足で追いかけるどころか、全裸でデストロイしかねない気分に浸っていると、羽賀先輩が「……うるさい」と迷惑そうに顔をしかめた。



「……女なんて星の数ほど居るんだ。たかが1人にフラれた程度で、ピーチクパーチクわめくな雑種ざっしゅ

「まぁ星には手は届かないんだけどねっ! どんまい、シロちゃん♪」

「ちょっと待って、ししょーっ!? なんで窓から身投げしようとしてるの!? ここ3階だよ!? 洒落にならないよっ!?」

「離せ、よこたんっ! もう俺はこの世界で生きていける気がしないんだ! さっさとこの人生に見切りをつけて、異世界へと転生し『ロリ』『ジト目』『無愛想』3つ揃えばパーフェクトな家庭教師とキャッキャウフフな『おねショタ』ライフを満喫してやるんだぁぁぁぁぁっ!」



 俺が無職のまま異世界へと転生するすべく、窓から身を乗り出そうとするが、ソレを何故か必死に食い止めようと、俺の腰に抱き着く爆乳わん

 えぇい、邪魔だ! 離せ!?

 ロリっ家庭教師が、俺を待っているんだぁぁぁぁぁ!


「ハァ……。士狼が生徒会に入部してから、毎日が騒がしいですね」


 ワーキャー騒ぎ続ける俺たちから1歩距離を取っていた芽衣が、呆れたように肩をすくめた。



「どうせ士狼のコトですから、あんなカッコいいことを言っておきながら、心の底では『もしかしたら、鹿目ちゃんが俺に惚れ直してくれるかも!?』とか、思っていたんじゃありませんか?」

「思ってたぁぁぁぁぁぁっ!『ワンチャンあるかな!?』って、思ってたぁぁぁぁぁぁっ! 60%くらい、あるんじゃないかなって思ってたぁぁぁぁぁぁっ!」

「こ、降水確率なら100%だったね」



 よこたんの謎のフォロー(いやこれフォローか?)を受けながら、おんおんと涙をポロポロ。

 ついでに思い出もポロポロ。

 いやだってさ? あの流れは、完全に俺に惚れる流れじゃん?

 俺にほの字になって、ホテルへ直行の流れだったじゃん?



「チクショウっ!? なんで俺を追いかけて来てくれなかったんだぁ!? なんで『やっぱりしゅきです、センパイ♪』って、抱きしめに来てくれなかったんだぁぁぁぁぁぁっ!?」

「未練タラタラじゃないですか」

「しょ、しょがないよ、ししょー。だってシカメさんは彼氏さんのことが大好きだから、ししょーのことを騙していたわけだし……」

「……つまり最初からチャンスなんて無かった」
「くぅぅぅぅっ! 聞きたくない情報が湯水のようにぃぃぃぃっ!」



 慰めるフリをして俺の心に深い傷を与えていく生徒会シスターズ。

 もしかして彼女たちは、俺を脱水症状で殺そうとする、どこかの刺客だったりするのだろうか?

 俺は大雨洪水警報を発令している顔面のまま、酔っ払いが喚き散らすように。


「やっぱりこの世の中、俺のことを好きでいてくれる女の子なんていないんだぁぁぁぁっ!」
「そ、そんなことないって! ししょーのことを好きな女の子は必ずいるよ!」
「じゃあここに連れて来てみろよ!? 今すぐに!」
「荒れていますねぇ」


 くそったれめ! 俺の未来のマイ☆ワイフは、一体どこに居るんだよ?

 俺はいつでも受け入れ態勢万全だというのにっ!


「どこに居るの? 俺の運命のマイワぁぁぁ――イフッ!?」
「あ、案外すぐ近くに居たりして……なんて」
「あらっ、洋子? 顔にお菓子がついていますよ? 取ってあげますね?」
「えっ、ほんと? ありがとう、メイちゃ――痛い痛いっ!? 痛いよ、メイちゃん!?」


 えへへっ、と恥ずかしがる大天使よこたんの顔を、ハンカチでグリグリと乱暴にこする芽衣。

 なんかよく分からんが、よこたんの言葉が芽衣の癪に触ったらしい。暴君かなアイツ?

 そんなことをしていると、コンコンッ! と、生徒会室のドアがノックされた。

 瞬間、すぐさま生徒会長モードの外行き笑顔スマイルで「どうぞ」と返事を返す芽衣。

 そしてやや遅れて重苦しい音を立てて扉が開くと、マッチョ限定『としまえん』の異名を持つヤマキティーチャーが、ズカズカと中へ入ってきた。


「やはりここに居たか大神。まだ帰ってなくて安心したぞ」
「先生? どうしたんすか、こんな時間に?」
「なぁに、ちょっとおまえに用件があってな」


 俺に用件? と首を傾げていると、先生は本当に心の底から申し訳なさそうな顔を浮かべて。



「一応、おまえの保護者には先に伝えてあるんだが……」
「なんですか? そんなモジモジして? 可愛くありませんよ?」



 そこには大きな巨体をモジモジさせ、言いづらそうに口をモゴモゴさせる、筋肉の塊がいた。

 あの、先生?

 そういうのは美少女がするから可愛いのであって、筋肉モンスターの先生がすると、化け物にして見えませんよ?

 と、俺が口を開くよりも速く、ヤマキティーチャーは覚悟を決めたように、まっすぐ俺を見つめて。



「なぁ、大神よ。おまえが入学して1年と少し、色んな事があったよな?」
「急にどうしたんですか、先生?」



 ヤマキティーチャーは遠い目をしながら、まるで青春時代を思い起こすかのように、小さく吐息を溢した。



「入学2日目にして放送室を占拠せんきょしてカラオケしたり、お昼の放送をジャックして18禁催眠音声ASMRを流したり、あげくの果てには先生のパソコンでギャルゲーを始めたり……正直、とんでもねぇヤツが入学してきたもんだと、我々教師陣は戦々恐々したもんだ」

「放送室占拠って……『アレ』ししょーの仕業だったんだ……」
「いやぁ、お恥ずかしい♪」
「褒めてませんよ?」



 古羊姉妹の冷ややかな視線を一身に浴びながら、ヤマキティーチャーの言葉に耳を傾けていく。



「校長先生に至っては、もう地獄に1番乗りする気マンマンのおまえの行動を見て『とんでもないバカが入学してきちまった……』と、職員会議で愚痴っていたよ。校長先生に変わって、謝罪させてくれ。あのときはバカにして、本当にすまない」

「すげぇ。こんなムカつく謝罪をされたのは、生まれて2度目だわ……」



 謝っているフリをして、俺をあおっているとしか思えない。

 なんでこんな人が教職員なの? 

 もっとマシな人材が居ただろうに……。

 俺が現代の教育現場の闇に触れている間に、ヤマキティーチャーは手に持っていたテストの回答用紙を、俺の机の上にそっと置いた。



「でも先生、思うんだ。どんなバカでも、子どもは無限の可能性を秘めた財産なんだって。『落ちこぼれ』だろうが『優等生』だろうが、どんな生徒にも必ず長所はあり、ソレを伸ばしていくのが我々教師の役目であると」

「や、ヤマキ先生……」



 まるで熱血教師のように熱いことを言ってくる筋肉ダルマ。

 なんでそんな急に優しいことを言うのだろうか?

 ヤンキー母校に帰るのだろうか?

 そんなことを考えていると、開けっ放しにした窓から、湿った風が生徒会室を駆け抜けて行った。



「だからな、大神? 最初にコレだけは言っておくぞ」



 途端に桜吹雪が舞うように、俺の机に置かれていたテストの回答用紙がハラハラと宙を舞う。

 そして、俺の足下を狙っていたとしか思えないベストポジションを持って、不時着するソレ。

 俺はソレを拾い上げ、点数の確認をする。

 そこには俺の名前と、




「おまえの長所は――勉学ではないらしい」




 名前の横に、燦々さんさんとした輝きを放つ0点の文字が踊り狂っていた。
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