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第1部 シンデレラボーイは、この『オオカミ少女』を幸せにする義務がある!
第12話 冴えない彼女の躾けかた♭
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妹ちゃんと一緒に浮き輪にしがみついて海の中を漂うこと10分。
浜辺の方がなんだか騒がしいのを尻目に、俺たちはなんともまったりとした時間を過ごしていた。
あぁ、今日もいい天気だなぁ。
「あ、あの……」
「寒くないか?」
「えっ? あっ、うん。ボクは平気かな。……お、オオカミくんは? 寒くない?」
「俺か? 俺はほら、なにアン肝? が分泌されまくってるから、大丈夫だ」
「……アドレナリンのことかな?」
海の上で他愛もない話しを繰り広げる。
皮肉なことに、妹ちゃんとゆっくり話す機会を手に入れることに成功していた。
さて何から話すべきか、と考えを巡らせていると、予想外にも妹ちゃんの方から俺に話しかけてきた。
「そ、その……ごめんなさい。ボクのせいでこんな大事になっちゃって……」
「謝んな。ペアの相方がふざけてて、それで海に落ちたんだろ? ならおまえは何も悪くねぇよ」
「う、うん。でも、その……それだけじゃなくて」
「ん?」
生徒会に入って初めて妹ちゃんがまっすぐ俺の瞳を見た……ような気がした。
「しょ、正直びっくりした。お、オオカミくんがこうしてボクを助けに来てくれるなんて。絶対にオオカミくんには嫌われたと思ってたから……」
「はっ? なんで?」
むしろ嫌われていると思っていたのは、俺の方なんですが?
妹ちゃんは気まずそうに渋い顔を浮かべ、
「そ、その……教育係のことで」
とそこまで言うと、俺の脳裏にあの日の妹ちゃんの言葉が鮮明に再生された。
『ぼ、ボクには! オオカミくんの教育係になる資格がありません!』
自分のミスを気にしてか、そんな正直な思いを、気まずいながらも勇気を出して言った、あの言葉。
そして、俺の中学の頃のトラウマを再燃させた言葉でもあった。
「せ、生徒会に入ったばかりのオオカミくんに、ボク、自分の都合と不安だけで、あんなことを口走っちゃって……。本当はもっと早く謝るべきだったんだけど……。責められるのが怖くて、言い出せなかった……。ボクがオオカミくんについても『生徒会のためにならないから』とか……そんなの単に自分を正当化するための言い訳にしか過ぎないよね。本当はもっと、努力して考えていかなくちゃいけない問題なのに……」
「……」
「生徒会役員なのに、いっつもメイちゃんや他の人の足を引っ張って……ハハっ。どうしてボクはこう、ダメダメなんだろうね?」
きっとこれが妹ちゃんの本心なのだろう。
今やっと真正面から向き合ってくれているのだ。
なら俺も正面から向き合うのが筋というヤツだろう。
俺は妹ちゃんの言葉を一音一句噛みしめ、ゆっくりと口を開いた。
「別に足を引っ張っても、いいんじゃねぇの?」
「……えっ?」
驚いたような表情で俺を見てくる妹ちゃん。
「だ、ダメだよ。足を引っ張っちゃ。みんなに迷惑がかかるもん……」
「別にちょっと足を引っ張ったくらい問題ねぇだろ。そういうのを世間様では『愛嬌』っていうんだよ。俺を見ろよ、もう『愛嬌』の塊だぞ? なんせ他人の足を引っ張ることに関しては、プロフェッショナルだからな」
「で、でもでもっ! ボクは失敗しちゃいけない所で失敗するし……」
「大丈夫、大丈夫。そういうときは、周りがキチンとフォローしてくれるから。だから安心して、失敗すりゃいいんだよ。なんとかなる、なんとかなる」
「な、なんとかならなかったら……?」
「ん? 何とかならなかったら? そうだなぁ」
どこか縋るような彼女の瞳を感じながら、俺は少し思考を巡らせ――誤魔化すようにニンマリと笑った。
「なんとかならなかったそんときは――みんなで笑って誤魔化しゃいいさ」
「…………」
そう答えた俺をキョトンとした瞳で見つめる妹ちゃん。
数秒後、ぷっ、と可愛らしく吹き出す音が優しく耳を撫でた。
「ぷふっ!? お、オオカミくんって見た目に反して、ちょっと子どもっぽいんだね?」
「えっ? それ褒めてる? それともバカにしてる? どっち?」
「さぁ? どっちだろうね?」
そういって含み笑いを浮かべる妹ちゃん。
その笑顔は、憑き物が落ちたかのように、スッキリしているように見えた。
それから岸に上がるまでのしばらくの間、妹ちゃんは何故か俺の顔を見ながらニコニコと笑みを崩さなかった。
その屈託のない笑顔に、思わずドキッとしてしまったくらいだった。
太陽に照らされた彼女の頬が、ほんのり色づいているように見えたのは、きっと俺の願望のせいに違いない。
浜辺の方がなんだか騒がしいのを尻目に、俺たちはなんともまったりとした時間を過ごしていた。
あぁ、今日もいい天気だなぁ。
「あ、あの……」
「寒くないか?」
「えっ? あっ、うん。ボクは平気かな。……お、オオカミくんは? 寒くない?」
「俺か? 俺はほら、なにアン肝? が分泌されまくってるから、大丈夫だ」
「……アドレナリンのことかな?」
海の上で他愛もない話しを繰り広げる。
皮肉なことに、妹ちゃんとゆっくり話す機会を手に入れることに成功していた。
さて何から話すべきか、と考えを巡らせていると、予想外にも妹ちゃんの方から俺に話しかけてきた。
「そ、その……ごめんなさい。ボクのせいでこんな大事になっちゃって……」
「謝んな。ペアの相方がふざけてて、それで海に落ちたんだろ? ならおまえは何も悪くねぇよ」
「う、うん。でも、その……それだけじゃなくて」
「ん?」
生徒会に入って初めて妹ちゃんがまっすぐ俺の瞳を見た……ような気がした。
「しょ、正直びっくりした。お、オオカミくんがこうしてボクを助けに来てくれるなんて。絶対にオオカミくんには嫌われたと思ってたから……」
「はっ? なんで?」
むしろ嫌われていると思っていたのは、俺の方なんですが?
妹ちゃんは気まずそうに渋い顔を浮かべ、
「そ、その……教育係のことで」
とそこまで言うと、俺の脳裏にあの日の妹ちゃんの言葉が鮮明に再生された。
『ぼ、ボクには! オオカミくんの教育係になる資格がありません!』
自分のミスを気にしてか、そんな正直な思いを、気まずいながらも勇気を出して言った、あの言葉。
そして、俺の中学の頃のトラウマを再燃させた言葉でもあった。
「せ、生徒会に入ったばかりのオオカミくんに、ボク、自分の都合と不安だけで、あんなことを口走っちゃって……。本当はもっと早く謝るべきだったんだけど……。責められるのが怖くて、言い出せなかった……。ボクがオオカミくんについても『生徒会のためにならないから』とか……そんなの単に自分を正当化するための言い訳にしか過ぎないよね。本当はもっと、努力して考えていかなくちゃいけない問題なのに……」
「……」
「生徒会役員なのに、いっつもメイちゃんや他の人の足を引っ張って……ハハっ。どうしてボクはこう、ダメダメなんだろうね?」
きっとこれが妹ちゃんの本心なのだろう。
今やっと真正面から向き合ってくれているのだ。
なら俺も正面から向き合うのが筋というヤツだろう。
俺は妹ちゃんの言葉を一音一句噛みしめ、ゆっくりと口を開いた。
「別に足を引っ張っても、いいんじゃねぇの?」
「……えっ?」
驚いたような表情で俺を見てくる妹ちゃん。
「だ、ダメだよ。足を引っ張っちゃ。みんなに迷惑がかかるもん……」
「別にちょっと足を引っ張ったくらい問題ねぇだろ。そういうのを世間様では『愛嬌』っていうんだよ。俺を見ろよ、もう『愛嬌』の塊だぞ? なんせ他人の足を引っ張ることに関しては、プロフェッショナルだからな」
「で、でもでもっ! ボクは失敗しちゃいけない所で失敗するし……」
「大丈夫、大丈夫。そういうときは、周りがキチンとフォローしてくれるから。だから安心して、失敗すりゃいいんだよ。なんとかなる、なんとかなる」
「な、なんとかならなかったら……?」
「ん? 何とかならなかったら? そうだなぁ」
どこか縋るような彼女の瞳を感じながら、俺は少し思考を巡らせ――誤魔化すようにニンマリと笑った。
「なんとかならなかったそんときは――みんなで笑って誤魔化しゃいいさ」
「…………」
そう答えた俺をキョトンとした瞳で見つめる妹ちゃん。
数秒後、ぷっ、と可愛らしく吹き出す音が優しく耳を撫でた。
「ぷふっ!? お、オオカミくんって見た目に反して、ちょっと子どもっぽいんだね?」
「えっ? それ褒めてる? それともバカにしてる? どっち?」
「さぁ? どっちだろうね?」
そういって含み笑いを浮かべる妹ちゃん。
その笑顔は、憑き物が落ちたかのように、スッキリしているように見えた。
それから岸に上がるまでのしばらくの間、妹ちゃんは何故か俺の顔を見ながらニコニコと笑みを崩さなかった。
その屈託のない笑顔に、思わずドキッとしてしまったくらいだった。
太陽に照らされた彼女の頬が、ほんのり色づいているように見えたのは、きっと俺の願望のせいに違いない。
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