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旅立ち
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ギギッー
「あっ、リ、リンダ!!」
開いた扉からアイツが出てきた。
扉の向こう側にいたわたしを見て驚いたように声を出したアイツは、扉を閉めようとした。
慌てて扉の間に靴を挟む。
「ちょっと、ちょっと待って。
ごめんなさい。わたしが悪かったのよ。
本当に、本当に悪かったわ。
あなたの気持ちも理解しないで。」
あんなにどう謝ればいいか考えていたのに、全部忘れてしまった。
「お、俺こそ、わ、悪かった。」
ボソッとつぶやくと、アイツは扉をゆっくりと開けた。
「入ってくれ。」
わたしが部屋に入ると静かに扉が閉じられた。
「リンダ、す、すまなかった。
俺が全て悪かったんだ。
許してくれ。」
「こっちこそ無神経でごめんなさい。
フックが悩んでるのに、気が付きもせず。」
2人共頭を下げたまま、謝り倒している。
しばらくそうしていたが、わたしは頭を少し上げて前を見ると、向こうも心配そうにこちらを見ていた。
「「ははははは、」」
お互いの顔を見て安心したわたし達は、お互いに自分に対して笑うのだった。
春の息吹が吹く頃、ボディ子爵様が、突然倒れられた。
3日間意識不明の状態が続いたが、4日目の朝、意識を取り戻された。
しかしながら、皆んなの喜ぶ顔は、すぐ後に歪んだ。
右手と右足が上手く動かなくなっていたのだ。
この病気を知っている。
これは『魔族の呪い病』だ。
突然昏睡したと思ったら一旦生還する。
ただ、身体に不自由が残り、次に再発したら、本当に死んでしまう、恐ろしい病気だ。
この病気の恐ろしいところは、いつ再発するか分からないことだ。
この病気に罹ると、死の恐怖に怯えながらの生活を余儀無くされるのだ。
「もうわたしも長くは無いな。
フック、フックはいるか?」
「はい父上、ここにおります。」
「どうやら『魔族の呪い病』に罹ったようだ。
わたしはもう長くないかもしれん。
ついてはお前に代官の役職を譲りたいと思う。
少し心配はあるが、わたしの生がある限りお前を鍛えたいと思う。」
突然の展開にその場にいた皆は戸惑うが、子爵様の言葉に頷くことしか出来なかった。
「父上、頑張って後を継いでみせますので、しっかりと養生して長生きして下さい。」
代官となったアイツは、人が変わったように精力的に代官の仕事を覚えていった。
ただアイツには致命的な、欠点があった。
それは『甘え』というものだろう。
仕事の知識はあっても少し困難なことがあると、人任せにしてしまうのだ。
しかも本人は、それを部下への仕事の配分だと勘違いしているのだ。
これでは、人がついてこない。
そんなある日、領主会議から戻られた領主様から、アイツに『ナーラ領に長期視察に行くように』と指示が出された。
「先日、領主会議でナーラ領のことが噂になっておった。
まだ公式には発表されていないが、外国の技術者を招いて村の改革を実験しているらしい。
早速屋敷の者に見に生かせたが、村の様子がかなり変わっているらしい。
我が領も、領都はまだ栄えているが、地方部は100年前とそう変わらん生活を送っている。
なんとか生活水準を上げて、民が楽に暮らせる状態を作りたいと思う。
それでじゃ、フック、お前に視察を任せる。
しっかり見てきて、アーベ領に応用して欲しい。
若く、アカデミーで勉強して来たお前にしか出来ない仕事だ。
お前の気の済むまで、体験し吸収してくれば良い。」
3家の成人を集めて領主様がおっしゃった。
「ところで、リンダ。お前も今年で成人だ。
アカデミーへの進学はどうする?
枠は一応用意してあるが。」
貴族は男女関係無く、一定の学力があれば、王立アカデミーへの入学が許可される。
キンコー王立アカデミー卒業はこの大陸全体から見てもステータスで、女でも良縁を得るために入学する者も少なくない。
ただ、アカデミーを卒業したとしても、官職に就けるのは男だけに限られているため、女のメリットは少ない。
「わたしは、アカデミーに行かず、フック代官のサポートをしたいと思います。
ナーラから戻ってこられてから、領内の改革が忙しくなると思われますので、当面は土木や経済の勉強をしようと思います。」
「リンダは昔から賢いからな。
アカデミーへ行っても相応の成績を上げて領に貢献してくれるだろうが、領内で専門分野を学ぶのも有りだと思う。
リンダの考えるままにするのが良いだろう。」
領主様から了承を頂き、わたしは領に残ることになった。
「父上、母上、わたしはナーラ領に出発します。
しばらく戻りませんが、どうぞお元気で。」
フックが2人の護衛を連れてナーラ領に行く日になった。
「リンダ、じゃあ行ってくる。」
「うん、気をつけて。」
こうして、アイツはナーラ領に旅立った。
「あっ、リ、リンダ!!」
開いた扉からアイツが出てきた。
扉の向こう側にいたわたしを見て驚いたように声を出したアイツは、扉を閉めようとした。
慌てて扉の間に靴を挟む。
「ちょっと、ちょっと待って。
ごめんなさい。わたしが悪かったのよ。
本当に、本当に悪かったわ。
あなたの気持ちも理解しないで。」
あんなにどう謝ればいいか考えていたのに、全部忘れてしまった。
「お、俺こそ、わ、悪かった。」
ボソッとつぶやくと、アイツは扉をゆっくりと開けた。
「入ってくれ。」
わたしが部屋に入ると静かに扉が閉じられた。
「リンダ、す、すまなかった。
俺が全て悪かったんだ。
許してくれ。」
「こっちこそ無神経でごめんなさい。
フックが悩んでるのに、気が付きもせず。」
2人共頭を下げたまま、謝り倒している。
しばらくそうしていたが、わたしは頭を少し上げて前を見ると、向こうも心配そうにこちらを見ていた。
「「ははははは、」」
お互いの顔を見て安心したわたし達は、お互いに自分に対して笑うのだった。
春の息吹が吹く頃、ボディ子爵様が、突然倒れられた。
3日間意識不明の状態が続いたが、4日目の朝、意識を取り戻された。
しかしながら、皆んなの喜ぶ顔は、すぐ後に歪んだ。
右手と右足が上手く動かなくなっていたのだ。
この病気を知っている。
これは『魔族の呪い病』だ。
突然昏睡したと思ったら一旦生還する。
ただ、身体に不自由が残り、次に再発したら、本当に死んでしまう、恐ろしい病気だ。
この病気の恐ろしいところは、いつ再発するか分からないことだ。
この病気に罹ると、死の恐怖に怯えながらの生活を余儀無くされるのだ。
「もうわたしも長くは無いな。
フック、フックはいるか?」
「はい父上、ここにおります。」
「どうやら『魔族の呪い病』に罹ったようだ。
わたしはもう長くないかもしれん。
ついてはお前に代官の役職を譲りたいと思う。
少し心配はあるが、わたしの生がある限りお前を鍛えたいと思う。」
突然の展開にその場にいた皆は戸惑うが、子爵様の言葉に頷くことしか出来なかった。
「父上、頑張って後を継いでみせますので、しっかりと養生して長生きして下さい。」
代官となったアイツは、人が変わったように精力的に代官の仕事を覚えていった。
ただアイツには致命的な、欠点があった。
それは『甘え』というものだろう。
仕事の知識はあっても少し困難なことがあると、人任せにしてしまうのだ。
しかも本人は、それを部下への仕事の配分だと勘違いしているのだ。
これでは、人がついてこない。
そんなある日、領主会議から戻られた領主様から、アイツに『ナーラ領に長期視察に行くように』と指示が出された。
「先日、領主会議でナーラ領のことが噂になっておった。
まだ公式には発表されていないが、外国の技術者を招いて村の改革を実験しているらしい。
早速屋敷の者に見に生かせたが、村の様子がかなり変わっているらしい。
我が領も、領都はまだ栄えているが、地方部は100年前とそう変わらん生活を送っている。
なんとか生活水準を上げて、民が楽に暮らせる状態を作りたいと思う。
それでじゃ、フック、お前に視察を任せる。
しっかり見てきて、アーベ領に応用して欲しい。
若く、アカデミーで勉強して来たお前にしか出来ない仕事だ。
お前の気の済むまで、体験し吸収してくれば良い。」
3家の成人を集めて領主様がおっしゃった。
「ところで、リンダ。お前も今年で成人だ。
アカデミーへの進学はどうする?
枠は一応用意してあるが。」
貴族は男女関係無く、一定の学力があれば、王立アカデミーへの入学が許可される。
キンコー王立アカデミー卒業はこの大陸全体から見てもステータスで、女でも良縁を得るために入学する者も少なくない。
ただ、アカデミーを卒業したとしても、官職に就けるのは男だけに限られているため、女のメリットは少ない。
「わたしは、アカデミーに行かず、フック代官のサポートをしたいと思います。
ナーラから戻ってこられてから、領内の改革が忙しくなると思われますので、当面は土木や経済の勉強をしようと思います。」
「リンダは昔から賢いからな。
アカデミーへ行っても相応の成績を上げて領に貢献してくれるだろうが、領内で専門分野を学ぶのも有りだと思う。
リンダの考えるままにするのが良いだろう。」
領主様から了承を頂き、わたしは領に残ることになった。
「父上、母上、わたしはナーラ領に出発します。
しばらく戻りませんが、どうぞお元気で。」
フックが2人の護衛を連れてナーラ領に行く日になった。
「リンダ、じゃあ行ってくる。」
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こうして、アイツはナーラ領に旅立った。
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