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幼なじみ

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秋はわたしの好きな季節。
森の木々は色づき、冬眠前の動物達は冬のエサを求めて、活発に動いている。

でも本当は、彼が生まれた季節だからかも。



わたしの名前はリンダ。

キンコー王国アーベ領に住むワダ男爵家の二女で14歳。

彼の名はフック。フック・ボディ。

ボディ子爵家の嫡男で、18歳。

家同士が古くからの付き合いがあり、ボディ子爵様もお父様も昔からの親友。

お姉様とは年齢が10歳も離れているから、小さな時からわたしの遊び相手はフックだった。

だから、わたし達も物心ついた時には、気のおけない親友になった。

でも『親友』が『想い人』になったのはいつから?

わたしの想いは、たぶんアイツには届いてないの。

だって、アイツはバカでマヌケでなんだから。


今日、アイツが王立アカデミーを卒業して、アーベの街に戻ってくる。

わたしは、朝から街外れの検問所にいた。

王都からの馬車は1日に5本。

最初の馬車はお昼前に着いた。

アイツは寝坊助だから、こんな早い時間の馬車に乗っているはずがない。

わかっているけど、アイツを探してしまう。

………

やっぱりいない。

わかっているのに、何かイライラする。

次の馬車は1時間後。

詰所にいるツバサおじさんが、『こっちで待ったら』って呼んでくれているけど、なんとなくここを動きたくない気分。

丁寧にお礼を言っておく。

次の馬車が着いたようだ。

この馬車かも!

わたしは馬車に近づき降りる人からアイツを探す。………

いなかった。

平気なふりをしていたけど、わたしが生まれる前からこの詰所にいる、ツバサおじさんはごまかせない。

「はい、リンダちゃん。熱いから気をつけてね。」

少し肌寒く感じる季節、暖かいスープは本当にありがたい。

「おじさん、ありがとう。とっても美味しいね。」

「詰所で待ったらどうだい?
馬車が来たらすぐに分かるさ。」

おじさんの気持ちは嬉しいけど、今はここで待ちたい気分。



次の馬車も、その次の馬車にもアイツは乗っていなかった。

何かあったのだろうか?
不安だけが募る。



夕焼けが山の中に消える頃、最後の馬車が、到着した。

「ふあーぁ、やっと着いたか。
やっぱり遠いよなぁ。」

馬車から降りてくる人の中から、呑気な声が聞こえてくる。

アイツだ。

『お帰り。大変だったね。』って言うつもりだったんだけど、違う言葉が出てくる。

「あんた、何してたのよ。
朝から待ってたのに、風邪をひくじゃないさ。
このアンポンタン!!」

違う、こんなこと言うつもりじゃなかったのに。

でも、出てしまった言葉は消えない。

「なんだよ!待っててくれなんて、誰が頼んだんだよ!」

やっぱり怒るよね。

わたしが悪いのは分かってる。

でもアイツの顔を見て、安心したら悪態ばっかりが出てしまう。

「だって…………」

『心配したんだもの』
たったこの言葉が続かない。

「だって何だよ!」

「まぁまぁ、フック君もそのくらいにしときなよ。

女の子を泣かしちゃいかんよな。」

ツバサおじさんが、助け船を出してくれた。

ありがとう、ツバサおじさん。

おじさんは、そっとハンカチを渡してくれる。

いつの間にか、わたしは泣いていたみたい。

本当に、ツバサおじさんって女心が分かっているわ。

アイツも爪の垢をもらって飲めばいいのよ。

「フック君、今日はお屋敷で卒業祝いのパーティーがあるんじゃないのかい。

リンダちゃんは、パーティーに遅れないようにって、朝から迎えに来てくれてたんだよ。

ちゃんと、お礼を言わなくちゃ。」

ツバサおじさんはそう言って、アイツの肩を軽く押す。

「リンダ、ただいま。待たせてごめん。」

「ううん。わたしこそ喧嘩腰でごめんなさい。

改めて、『お帰り、フック。』」

「ほら、早く行かないと、パーティーで皆んな首を長くして待っているよ。」

「やべえ。リンダ急ぐぞ!」

「うん。」

わたしはフックの荷物を半分持って、ボディ家へと向かった。

横には、ボディ子爵様の怒った顔を想像して少し青ざめている、フックがいた。
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