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第9章 マサル共和国の建国

7 【閑話 ジャルの邂逅】

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<<ユーリスタの崇拝者ジャル視点>>
わたくしはハローマ王国で商業管理部長官を奉職しておりますジャルと申します。

真面目だけが取り柄のわたくしは、キンコー王国の王立アカデミーを卒業後、この仕事一筋に邁進してまいりました。

男爵家で大商家マルロー家の嫡男であるわたくしが、実家を継がずに現職を奉職しているのには、訳があります。

お忙しいとは存じますが、少しお時間を下さいませ。


わたくしは幼少の頃より、マルロー家の跡取りとして、何不自由のない生活を送っておりました。

優秀な家庭教師から、読み書き計算はもちろん、歴史や地理等様々な学問を習いました。

体を鍛えるために剣も習いましたが、こちらは早々に才能無しとの判定を頂き、諦めてしまいましたが。

剣はさておき、学問に関してはわたくしは一族はもちろん、神童と呼ばれ自身が自惚れるほどには、才能があったようです。

18歳になったわたくしは、当時から大陸一の最高学府と呼ばれるキンコー王国王立アカデミーに入学しました。

さすがは大陸中から天才や秀才と呼ばれる者ばかりが集まる学び舎です。

1番とはいきませんでしたが、そこそこの成績を頂いておりました。

当時、アカデミーには最高学年で生徒会長のユーリスタ様がおられました。

キンコー王国の宰相様を父に持つその容姿は麗しく、頭脳は教師達も羨むほどの才に溢れた、まさしく才女と呼ぶべき雲上のお方でした。

しかもそのお人柄は非常に温厚で誠実、誰とでも分け隔てなくお話しされるとの評判です。

残念ながら、わたくしはユーリスタ様のご尊顔を拝見したことは、数度しかございません。

3年生の学舎と1年生の学舎は離れていたこともありますし、ユーリスタ様が主宰されている研究会は大人気で、1年生が入る余地など全く無かったのです。

それでも運動会等で挨拶されるユーリスタ様のお姿に恋い焦がれる1年生のわたくしでした。

時間は無情なものです。

わたくしの淡い恋心を残してユーリスタ様は卒業されてしまいました。

ユーリスタ様がおられないからといって、この想いはどうなる訳でもなく、2年生になったわたくしはユーリスタが主宰されておられた研究会に入会しました。

ユーリスタ様が居られた時ほどの活気は無くなったと先輩諸氏から伺いましたが、政治論や国家論等、これまで触れることの無かった未知の学問に対し、積極的な議論が飛び交うこの場は、わたくしにとって、とても新鮮で生涯をかけてと真理に近づくことは出来ないのでは無いのではないかと思われるほど、奥の深い内容でした。

わたくしは諸先輩方や級友達と共にこの研究会にどっぷりとのめり込んでいました。

3年生になったある日、研究会の戸棚を掃除していた後輩が数冊の論文を見つけました。

それは、ユーリスタ様が残していかれたものでした。

綺麗な書体で理路整然とまとめられた内容は、研究に行き詰まりかけていたわたくしにとって、神の文書にも等しいものでした。

わたくしはその論文全てを書写し、我がバイブルとしました。

今もわたくしの持参した荷物の半分を占めるその宝物は、わたくしの青春の全てと言っても過言ではないでしょう。

卒業後、わたくしは迷わず官僚の道へと進みました。

既に卒業されていた研究会の先輩方の多くも官僚として第一線でご活躍されております。

わたくしの先輩方に追いつきたい一心で精進してまいり、30年の月日が流れました。

わたくしはこの人生を一度も悔やんだことはありません。

いまだあの論文の崇高な極みには程遠いですが、長い年月を費やしてそこに行きつくための路傍の石くらいにはなれるでしょう。






3ヶ月前、わたくしは突然ガード王に呼び出されました。

何か失態をしたのだろうか?

わたくしの頭の中を嫌な思いがよぎります。

ガード王との謁見は今回が2度目です。

最初は『商業管理部長官』の任命式でした。

謁見の間に到着すると、宰相閣下以下重鎮の方々も集まっておられました。

「おお、ジャル長官、待っておったぞ。」

ガード王はかしこまるわたくしに気軽にお声をかけて頂きました。

叱責されそうな雰囲気では無かったので、少し安堵いたしました。

「宰相、説明頼む。」

「招致いたしました。

ジャル殿、本日はそなたに、重大な任務を与えようと思う。心して聞くように。

先般、国際連合総会で決定した内容なのであるが、英雄マサル殿が建国されることが全会一致で決まった。

とはいえ、国家を一から作るという事業は簡単なことではない。

それで各国から3名づつ出して、国の基盤を構築していくこととなったのだ。

ただ、あのマサル殿の発想力から考えて、旧来の考え方を持つ者達では到底対応できまい。

そこでだ、キンコー王国行革大臣ユーリスタ殿の考えを継承し、常に前向きで斬新なアイデアを取り入れる貴殿に、建国の礎となって欲しいのだ。

これは国の威信をかけたプロジェクトになろう。

是非君に頑張って欲しいのだが、いかがか?」


あの英雄マサル様の下で理想の国造りができる。

そう考えただけで天にも昇る気持ちになったわたくしは、大きく何度も首を縦に振っていました。

「はははは、そう気負うではない。マサル殿も貴殿達のような熟練した経験者が揃えば心強いであろう。

しっかり頑張ってきてくれ。」

ガード王の言葉を胸に、わたくしは残りの人生をこのプロジェクトに捧げることを決意するのでありました。
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