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第8章 亜人大陸の開発

22 【中央集権制】

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<<ハリー視点>>
「『中央集権制』とは?」

「はい『中央集権制』とは、制度や法律、徴税、民への保障等を国が集中して行う考え方です。

現在のような、各地の領主が独自のルールで治めることを『地方分権制』と言います。

『地方分権制』は各地の特色に合わせた政治が可能なため、うまく運用できれば非常に良いのですが、反面土地の肥え具合や寒暖により、領土間での貧富が出てしまいます。

『中央集権制』では、各地に施政官を配置し、基本全国一律のルールを適用しますので、地方毎の特色いかんでは不満が出ることはありますが、各地方毎の条例を付与する形で補っていきます。

また各地の収穫見込み高に合わせて徴税を行いますので、土地の豊かさによる貧富は生まれにくくなります。

徴税した税収は、国が一元管理しますから、民の生活水準に合わせて再分配することも可能です。


そして何よりのメリットは、各地の施政官は任期を決めて国から派遣できることです。

現状問題になっているのは、世襲制の領主が『地方分権制』を悪用していることです。

ですから、一度『中央集権制』に変更して世襲制をやめ、その後一部を『地方分権』していくことがわたしのおすすめです。」

「しかし、そうすると地方の有力者が困るのではないか?」

「それについてはある程度の覚悟は必要だと思います。

ただ、今回は大規模なクーデターに加担していたという事実があります。

大領地から領地没収していき『中央集権化』していきます。
有力者である現当主を改易し、その後継者のうち適任者を施政官として国から任命します。

施政官は1代限りですから、次代がボンクラであればその家は没落してしまうでしょう。
そうならないためにも教育や施政に力を注いでくれることを期待するべきだと思います。

また、施政官として有力なものが2人以上いる場合は中央の役人として取り立てるべきです。
そうすることで、有力者の家系が継承される可能性が高くなることが分かれば、国と有力者の軋轢を抑えることもできると思います。

また、当面『地方分権制』を残す領地であっても施政官を国から派遣するようにしていくように変更していくのが良いと思います。

どちらにしても、国の直轄地が増えることで、各有力者の力は相対的に弱まりますから、国がコントロールできるようになるでしょう。」



「カトウ殿、仕組みはよくわかったが、具体的な施策が良く見えん。
ハリー、お前にはわかるか?」


「カトウ公爵様がおっしゃることは理解できます。
ただ、陛下のおっしゃるように、過程が問題です。『中央集権制』を進めようとするための資金や人的資産が圧倒的に不足しています。」


「それに関しては、わたしの方でバックアップさせて頂きます。

まずは、経済を発展させるために、農業、商業、工業を推進し、3国と正式な交易をおこないます。
また、教育制度を充実させ、人材育成と思想変革を行っていきます。
さらに、スラムや貧農等従来は働き手として勘定していなかった層を労働者として採用し、国民全体の生活水準を高めていきましょう。

これらに関しては、私どものカトウ運輸が各地に物流センターを展開する時に、実施してきた内容ですので既にいくつもの実績があります。

また、3国でもこれらを推進できるリーダーが育ってきていますので、援助してもらうことも可能でしょう。

ラモス陛下も3国の族長とお会いになられて、このあたりの相談をされてみてはいかがでしょうか?」

本当にできるのであれば願ってもないチャンスだといえよう。


「陛下、わたしが先に3国を視察してどのように進めるべきか考えて来ましょうか?」


「いやハリー、わたしも一緒に行こう。その前に、各領主に今回の罰を与えねばならぬ。

まずは全ての当主の改易と後継者の面談から始めるべきか。忙しくなるぞハリー。」


「はい、陛下。」

どうやら陛下も腹をくくられたようだ。
わたしも頑張らねば。



1ヶ月後、ほぼ全ての領主が改易となり、新しい後継者が国の施政官として任命された。
当面は、清廉な政治が続くだろう。

その間に、完全な中央集権を実現するべきだと思う。
それが民のためになるのだから。

なお、どこから漏れたのかはわからないが、カトウ公爵様達の活躍は、活劇として舞台化された。

娯楽の少ない民たちには、良いガス抜きになったみたいで、カトウ公爵様達はあっという間に我が国のヒーローとなった。

特にランス君とイリヤちゃんは、そのかわいさも相まってアイドルと化している。

なお有力者の一部に謀反を企む者もいたが、身内にカトウ公爵様を畏怖するものも多く、そのほとんどが内通で未遂に終わっていた。

本当にカトウ公爵様は不思議なお人だ。






クルーのクーデターから6ヶ月後、すっかり落ち着いた国内を新しい官僚達に任せ、陛下とわたしは数名の担当者を伴い、3国の視察に出かけた。

我が国とは全く違い活気に満ち溢れ、物も豊富で、様々な種族が入り混じった街を見ると、カトウ公爵様のおっしゃる『経済戦争』に参加するのが最善に思えてくる。

お忍びで街を歩く陛下も同様の考えで、住民や店主から様々な話しを聞いておられるようだ。


視察を始めて3国目のヤコブ最終日に、居酒屋で食事を摂った。

大きな声で笑いあい豪快に酒を酌み交わすドワーフ達に交じって楽しそうに話している、知った顔の獣人がいた。
どうやら店の常連で、その店の看板娘と恋仲になっているようだ。
一緒にいるドワーフ達の話しを盗み聞きしていると、彼はカトウ運輸で働いていて、もうかれこれ1年以上看板娘を口説いた結果、最近ようやく恋仲になったそうだ。


わたしは声を掛けようかと思いやめた。
良い人生を送って欲しいと心から願う。
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